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児童福祉法28条事件の動向と事件処理の実情(1)

平成12年11月20日〜平成13年11月19日
最高裁判所事務総局家庭局

  1. 家庭裁判所と児童虐待との関わり
     家庭裁判所の手続において,児童虐待が問題となるのは,(1)児童福祉法28条事件,(2)親権者による子の虐待を理由とする親権喪失宣告事件が典型的なものである。児童福祉法28条事件とは,保護者が,その児童を虐待し,著しくその監護を怠り,その他保護者に監護させることが著しく児童の福祉を害する場合において,児童を児童福祉施設に入所させるなどの措置をとることについて,保護者が同意しない場合は,都道府県知事又は児童相談所長の申立てにより,家庭裁判所が,その措置をとることを承認する審判を行う手続である(児童福祉法28条,32条1項)。親権喪失宣告事件とは,父又は母が,子を虐待するなど,親権を濫用し,または著しく不行跡であるときは,家庭裁判所は,子の親族,検察官又は児童相談所長の申立てによって,父母の親権を喪失させる審判を行う手続である(民法834条,児童福祉法33条の6)。
     これらのほかにも,(3)離婚,親権者変更,面接交渉等の家事調停事件の中でも,児童虐待がうかがわれる事案がある。このような場合には,調停委員が問題状況を把握し,速やかに家事審判官(裁判官)と評議の上,家庭裁判所調査官による調査を実施して,必要に応じて児童相談所と連携を図りながら,適切な解決を図って対応している。さらには,(4)家庭裁判所に係属する少年事件の中で,非行の背景として児童虐待を受けたことがうかがわれる事案も少なくない。
  2. 児童福祉法28条事件の動向
     児童福祉法28条事件の申立件数は,別紙のとおりであり,最近になって急増している。平成13年には169件となり,平成元年の約12倍,対前年比の約1.2倍という急激な伸びを示している。
     本資料は,児童虐待の防止等に関する法律(以下,「児童虐待防止法」という。)が施行された平成12年11月20日以降に,全国の家庭裁判所に申し立てられた児童福祉法28条事件のうち,施行後1年である平成13年11月19日までに終局した123件の事案の特徴を分析し,併せてその事件処理の実情及び家庭裁判所に申し立てられた児童虐待事案の代表的な事例を紹介するものである。
     なお,必要に応じて,厚生労働省雇用均等・児童家庭局作成の「平成12年度「児童相談所における児童虐待相談処理件数報告」(以下,「厚労省報告」という。)」との対比を行っている。

    (別紙)児童福祉法28条事件
    児童福祉法28条事件

    児童福祉法28条事件の新受・既済件数推移
    ※本表は、「司法統計年報」による。別ウィンドウで画像を開く
  3. 児童福祉法28条事件の実情
    (1) 通告者別件数(資料1)
    ○通告者別件数をみると,警察等が20%,学校等19%,福祉事務所12%,児童福祉施設9%などとなっており,関係機関から通告されている割合が高い一方,家族が5%,親戚が0%などとなっており,家族等から通告される割合が低くなっている。
    • 通告者別件数は,被虐待状況を児童相談所に通告した機関(者)を集計したものである。なお、児童福祉施設には保育所が,学校等には幼稚園が含まれているが,保育所からの通告は5件、幼稚園からの通告は0件であった。
      (参考)厚労省報告では,家族が21%,近隣が14%となっており,次いで学校等13%,福祉事務所13%などとなっている。
    • 学校からの通告事例の中には,中学校のスクールカウンセラーが児童から性的虐待を聞き出したという事例があった。その他の通告事例としては,児童が家出をして町村役場に逃げ込んで助けを求めた事例や水道検針員がメーター検針時に家庭の異変に気づき,役場に連絡したという事例などがあった。

    (資料1)
    児童福祉法28条
    通告者別件数(資料1)
    (参考)厚労省報告
    通告者別件数(参考)厚労省報告グラフ
    (2) 児童の年齢別件数(資料2)
    ○児童福祉法28条事件(以下「法28条事件」という。)の対象となった児童の年齢別割合を見ると,小学生が43%,3歳から学齢期前の児童が24%,中学生が19%などとなっているのに対し,0歳から3歳未満が8%となっており,3歳未満の乳幼児の割合が低くなっており,法28条事件の児童の年齢は総じて高めである。
    ○小学生,中学生,高校生など,いわゆる学齢期にある年齢の児童の割合は,全体の68%を占めている。
    (参考)厚労省報告によれば,被虐待児童の年齢別割合は,小学生が35%,3歳から学齢期前までが29%,0歳から3歳未満が20%,中学生が11%,高校生・その他が5%となっている。学齢期の児童は全体の51%であり,3歳未満の児童が占める割合が高くなっている。

    (資料2)
    児童福祉法28条
    児童の年齢別件数(資料2)
    (参考)厚労省報告
    児童の年齢別件数(参考)厚労省報告
    (3) 児童の性別と年齢別件数(資料3)
    ○法28条事件の対象となった児童の男女比は,男子が45%,女子が55%となっている。
    ○児童の性別と年齢の相関関係を見ると,0歳から3歳未満で男子の割合がやや高いのに対し,中学生以上では女子の占める割合が相当高くなっている。

    (資料3)
    児童福祉法28条
    児童の性別と年齢別件数(資料3)
    (4) 保護者の関係別件数(資料4)
    ○法28条事件の対象となった保護者の関係を見ると,実父と実母が38%,実母のみが21%,実父のみが16%,実母とその内縁の夫が13%などとなっている。

    (資料4)
    児童福祉法28条
    保護者の関係別件数(資料4)
    (5) 主たる虐待者別件数(資料5)
    ○法28条事件における主たる虐待者を見ると,実母が49%,実父が36%,実父以外の男性が13%などとなっている。
    ○実父以外の男性の内訳は,実母の内縁の夫7%,継父3%,養父3%となっている。
    (参考)厚労省報告では,主たる虐待者としては,実母が61%,実父が24%,実父以外の男性が7%,実母以外の女性2%,その他7%となっており,母の占める割合が大きくなっている。

    (資料5)
    児童福祉法28条
    主たる虐待者別件数(資料5)
    (参考)厚労省報告
    主たる虐待者別件数(参考)厚労省報告
    (6) 虐待の態様別件数(資料6)
    ○法28条事件における虐待の態様別件数を見ると,ネグレクトが44%と最も多く,次いで身体的虐待が32%,心理的虐待が20%,性的虐待が4%となっている。
    • 「ネグレクト」とは,「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること」を,「心理的虐待」とは,「児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」をいう(児童虐待防止法第2条)。
       なお,虐待の態様については重複集計したものである。
    • 性的虐待の事例の中には,実母による男児に対する性的虐待の事例もあった。
      (参考)厚労省報告では,身体的虐待が50%と最も多く,次いでネグレクトが36%,心理的虐待が10%,性的虐待が4%となっている。なお,厚労省報告は態様につき重複集計していない。

    (資料6)
    児童福祉法28条(重複集計あり)
    虐待の態様別件数(資料6)
    (参考)厚労省報告(重複集計なし)
    虐待の態様別件数(参考)厚労省報告(重複集計なし)
    (7) 終局区分別件数(資料7)
    ○法28条事件の終局区分については,認容が79%,取下げが20%,却下が1%となっている。
    • 取下げの事例の多くは,家庭裁判所に係属中に保護者の同意が得られたというものである。
    • 却下の事例は,申立て後に示された保護者の同意がその真意に基づくものであるかという点が争点となり,真意に基づく同意であると認定されたものである。

    (資料7)
    児童福祉法28条終局区分別件数(資料7)
    (8) 審理期間別件数(資料8)
    ○2か月以内に53%の事件が,3か月以内に75%の事件が終局している。
    ○法28条事件の平均審理期間は72日である。
    • 審理期間が最も短かった事例は27日,審理期間が最も長かった事例は209日である。

    (資料8)
    児童福祉法28条
    審理期間別件数(資料8)
    (9) 申立人代理人選任率(資料9)
    ○弁護士が申立人代理人に選任されている事件は全体の24%となっている。

    (資料9)
    児童福祉法28条
    申立人代理人選任率(資料9)
  4. 児童福祉法28条事件事例
    事例1 主として身体的虐待の疑いがあることが問題となった事例
    (1)児童  長男(2歳)
    (2)保護者 実父(33歳),実母(41歳)
    (3)概要
      実父が児童を平手で殴り足蹴りするなどの暴行を加えたため,実母はその翌日児童を病院に搬送した。検査の結果,異常はないと診断されたが,なお経過観察するため入院することとなった。しかし,その翌日,母が付き添っていた状況下で児童が大腿部を骨折したことが判明したため,病院は直ちに児童相談所に通告し,児童相談所は別の病院に児童を一時保護した。
      実母は自らが児童を故意に骨折させたことを否定し,実父とともに児童の施設入所には同意せず,退院後の引き取りを主張したため,児童相談所は家庭裁判所に対し児童福祉法28条事件を申し立てた。
     家庭裁判所は,申立てを相当と認め,児童を児童養護施設に入所させることを承認する審判を行った。
    事例2 主として性的虐待の疑いがあることが問題となった事例
    (1)児童  二女(14歳)
    (2)保護者 実母(43歳),実母の内縁の夫(54歳)  
    (3)概要
      児童は,小学3年生の時から,実母の内縁の夫により一緒に入浴することを強要され,実母や長女の留守中に姦淫されていた。児童は,かねてから友人に性的被害を告白していたが,たまりかねて友人を頼って家出し,友人らの説得で警察に相談に行き,警察が児童相談所に通告し,児童は即日一時保護された。  
      実母は,児童が性的虐待を受けたという申告を信用せず,内縁の夫との関係も絶たず,施設入所に同意しないため,児童相談所は家庭裁判所に対し児童福祉法28条事件を申し立てた。
      家庭裁判所は,申立てを相当と認め,児童を児童養護施設に入所させることを承認する審判を行った。
    事例3 主としてネグレクトの疑いがあることが問題となった事例
    (1)児童  長女(10歳),長男(6歳),二女(4歳),二男(1歳),三男(1歳)
    (2)保護者 実母(30歳),実母の内縁の夫(33歳)
    (3)概要
      実母と内縁の夫は,児童5人をトイレが使用できず悪臭の漂う不衛生な家の中に犬や猫と一緒に日中放置した上,十分な食事を与えず,長期間入浴させず,長女や長男に対し二男や三男の世話をさせていた。長女はそのために小学校を休むことも多かった。児童5人は,体中に虫さされのあとがあるほか,衣服や身体がひどく汚れ,強い悪臭が漂っていた。
      そのため,近隣及び小学校からの通告により児童相談所は児童らを一時保護した。児童5人は,一時保護時,貧血や低栄養状態にあったが,実母は児童らの施設入所に同意しないため,児童相談所は家庭裁判所に対し児童福祉法28条事件を申し立てた。
      家庭裁判所は,申立てを相当と認め,児童5人を児童養護施設等に入所させることを承認する審判を行った。
    事例4 主としてネグレクトの疑いがあることが問題となった事例
    (1)児童  長女(9歳),二女(6歳),三女(5歳)
    (2)保護者 実父(45歳),実母(41歳)
    (3)概要
      実父と実母は,児童3人とともに,自宅門扉を施錠し,窓を締め切って生活し,地域社会の中で孤立して,昼夜逆転の生活を送っていた。家の中で多数の猫を飼育しているため,室内には猫の排泄物臭が漂い,着衣には動物臭が染みついていた。
      実父・実母は,児童の就学についての認識が乏しく,学校関係者らの再三の指導にもかかわらず,自己の都合や学校関係者等への様々な不満を理由にして,長女を年間数日から十数日程度しか登校させなかった。二女と三女は,いずれも発達遅滞と診断されており,保健所や小児療育センターの受診,保育所への入所を児童相談所から勧められていたが,実父と実母は保育所に入所させないばかりか,保健所等への受診も不定期で不十分な状態であった。小児療育センターでは,児童の発達の遅れは,生後の環境要因によるところが大きいと診断されていた。
      児童相談所では,養育環境の改善について指導を続けてきたが,具体的な改善がみられなかったとして,児童らを児童養護施設に入所させるように働きかけたが,実母が自らの施設入所経験から,同意を拒否し続けたため,家庭裁判所に対し児童福祉法28条事件を申し立てた。
      家庭裁判所は,申立てを相当と認め,児童3人を児童養護施設に入所させることを承認する審判を行った。
    事例5 主として心理的虐待の疑いがあることが問題となった事例
    (1)児童  長女(15歳)
    (2)保護者 実母(54歳)
    (3)概要
      実母は,児童が中学校に登校する際に自らも付き添って登校し,教室前の廊下で児童を監視し,トイレに同行したり,自分の都合で児童を早退させたりするなどの学習妨害を行い,自宅においても学校の教材が不潔であるとして児童に自宅学習させないなどの行動が見られ,精神疾患を疑われていた。
     児童は,実母との生活にこれ以上耐えられないと教師に相談し,教師と共に警察に相談した。警察は児童相談所に通告し,児童は一時保護された。実母が施設入所には同意しないため,児童相談所は家庭裁判所に対し児童福祉法28条事件を申し立てた。
      家庭裁判所は,申立てを相当と認め,児童を児童養護施設に入所させることを承認する審判を行った。

    (注) 事例については,実例に基づき,匿名性に配慮して紹介しています。