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最高裁判所長官「新年のことば」

平成29年1月1日

                                                                 新 年 の こ と ば

最高裁判所長官    寺田逸郎

   平成29年,新しい年の年明けを迎えました。

 東日本大震災の発生から6年になろうとしていますが,多くの努力にもかかわらず,復興への道にはなお険しいものがあります。加えて,昨年も熊本や鳥取で強い地震が発生し,特に熊本では,いまなお被災された多くの方々が元の生活を取り戻せずにおられます。東北,北海道などにおいて台風や水害が相次ぐなど,依然として自然災害の脅威,そのもたらす甚大な被害に胸を痛め続けた印象が強く残ります。災害にとどまらず,内外ともに,右肩上がりの経済成長に対する期待が薄まっていることなどもあって,社会の落着きが失われていく傾向に拍車がかかってきていることは隠しようもありません。このような社会情勢を背景に,共有できる理念が痩せ細っていく現象がグローバルに広がっているようにも思います。近代法的な理念を支えとし,公正で広く納得が得られる判断を期待されている司法にとっては,新たな環境変化が迫りつつあるのかもしれません。そのような状況を直視した上で意識的に対応を工夫していく姿勢をとることを怠れば,それだけ裁判所本来の役割を安定的に果たせることへの期待は遠のくでしょう。時代の特性を感じさせない多くの事件を扱う上ですら裁判所の底力が問われている側面があることを,ぜひ忘れずに励んでほしいと思います。

 昨年5月に,「時代に即した新たな刑事司法制度の構築」を謳う刑事訴訟法等の一部改正法が成立し,その一部はすでに施行されています。柱となる取調べの録音録画制度の施行までには時間がありそうですが,証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度を含め新たに導入される多彩な制度をその理念を理解した上で実務に定着させるためには,裁判現場においても相当の準備が求められます。施行から9年目を迎え,国民の高い意識と誠実な姿勢に支えられて概ね安定的に運用されているとの評価を得ている裁判員制度についても,裁判員の安全確保のための方策を講ずるなど,誰でも安心して裁判に参加することができるよう国民目線に立った細やかな配慮や工夫に努めつつ,裁判員裁判対象外の事件をも念頭に置き,将来の刑事裁判の在り方まで視野に入れて,運用に工夫を重ねていってほしいところです。

 家事事件の分野でも,成年後見制度の利用促進を図るための立法がされ,制度に対する国民の関心に的確に応えられる事務運用の在り方への検討が求められています。また,この分野では,取組が進められている調停手続の充実にとどまらず,これと審判や人事訴訟との連携を更に進め,家庭裁判所調査官による調査の活用等をも視野に入れて,家庭裁判所全体としての紛争解決機能の強化に取り組んでいきたいものです。

 民事事件の分野においては,合議体による審理を充実させるなどして部の機能の活性化を図る試みが既に実践されてきていますが,併せて,一人一人の裁判官が自らの審理判断を客観的に顧みることができるよう,部を超え,庁をまたいだ形で裁判官同士による協議の場を設けるなどして,相互批判を含め,裁判官同士が率直に意見を交換する文化を根付かせていく必要があります。

 昨年4月に,ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書及び最高裁判所裁判官会議談話が公表され,かつての開廷場所指定の運用が違法と判断されたことは御承知のとおりです。報告書は,司法行政事務に携わる職員に対し,人権に対する鋭敏な感覚を持って事務処理を行うよう求めていますが,このことは裁判所で働く全ての裁判官及び職員に対し向けられるべきものでもあります。長らく続けられてきた事務処理であっても,それが法令等に則ったものであるかを再確認する意識を失わず,併せて社会通念上是認されるものであるかといった観点にも目配りをして,改めるべきは躊躇なく見直すという姿勢が求められます。

 裁判所においては,かねてから働きやすい職場環境の整備を進めてきましたが,女性の採用や登用拡大もその一環です。昨年3月には,女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づいた国全体の取組に歩調を合わせ,裁判所特定事業主行動計画を策定・公表したところですが,今後も,裁判所の組織活力の維持・向上の観点から,女性を始めとする多様な人材を活かす方策を進めていく所存です。

 このほか,情報セキュリティー確保の強化などの取組を通じ,引き続き司法の隅々に至るまで一層の充実を図り,裁判所全体として国民の信頼に応えていきたいと思います。憲法施行70周年となる年の年頭に当たり,組織を挙げての取組の決意をお伝えして,私の挨拶といたします。