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最高裁判所長官「新年のことば」

平成30年1月1日

                                                                 新 年 の こ と ば

最高裁判所長官    寺田逸郎

   平成30年,新しい年の年明けを迎えました。

 東日本大震災からの復興が道半ばにある中,繰り返される自然災害がもたらす甚大な被害に心の痛まない年はありませんが,昨年もまた九州等において台風や水害が相次ぎました。国内外を問わず,人々の生活や経済活動の基盤に対する信頼を揺るがす出来事が後を絶たず,社会の安定を持続的に確保していくことの難しさを感じます。そのような状況において,裁判所は,変化に適切に対応しつつ,法の支配の実現という使命を果たしていかなければなりませんが,それには,裁判部,事務局を問わず,社会で生じる様々な事象に思いを致し,自らの仕事が国民の求める水準に達しているかを常に意識して日々の職務に取り組む姿勢が求められます。全ての裁判所職員が,司法に対する国民の期待の重さを自覚し,職務に励んでほしいと願います。

 民事事件の分野においては,複雑困難なものが増加する中,裁判所に対し以前にも増して質の高い審理判断を求める声が強まっていることはこれまでも度々指摘してきたところで,これに対して,合議体による審理を充実させるなどして部の機能の活性化を図り,裁判の質の向上につなげる取組が進められてきました。裁判官が自らの審理判断を客観的に省みることができるよう,部や庁をまたぎ,審級を超えた形で裁判官同士が意見を交換し,知見や経験のやり取りを活性化させる試みも広がっています。裁判官一人一人がこうした取組の趣旨を十分理解し,それぞれの部や係の実情に応じた形で実践していく必要があります。民事訴訟法は,施行されてから満20年を迎えましたが,法が志向する争点中心型の充実した審理の定着がいまだ実現に至っていない一方で,ICTに代表される技術の急速な発展や120年ぶりの債権法の改正など,民事訴訟を取り巻く状況は更に変化しつつあります。新たな時代における審理運営の在り方をも視野に入れながら,より良いプラクティスを不断に追求していってほしいものです。

 刑事事件の分野においては,ここ数年,戦後刑事司法最大の改革である裁判員制度の円滑な運用と定着が大きな課題でしたが,組織を挙げての努力もあっておおむね安定的に運営されていることは心強いことです。もとよりこれは国民の高い意識と誠実な姿勢に支えられてのことですが,個々の裁判官,職員が地道に積み重ねてきた努力によるところも小さくないと感じています。とはいえ,一時期短縮の傾向を見せていた公判前整理手続の期間が自白事件を含め再び長期化するなど,ここへきてそれまでの実績や経験がいかされていないように見られる分野が見られ始めたことは気掛かりです。否認事件における争点及び証拠の整理の在り方,裁判員候補者の辞退率の上昇など,難しい検討課題も残されています。現状に満足することなく,制度導入の理念や刑事裁判の原理・原則に立ち返り,これまでの議論の成果を組織全体で共有し承継しながら,改善に向けて実証的に検討していく姿勢が望まれます。一昨年5月に成立した刑事訴訟法等の一部改正法は既に一部が施行されていますが,本年は証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度や被疑者国選弁護の対象事件拡大等の施行が予定されており,その適正円滑な運用に向けて,引き続き準備を重ねる必要があります。

 家庭裁判所はここ数年とみに社会の関心を集めており,裁判所としてもこれに応えるべく力を注いできたところです。中でも成年後見制度は高齢化の進展等により社会的な関心が高く,昨年も成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されるなど,制度を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。家庭裁判所自らが,積極的に関係機関等と認識を共有し,国民に利用しやすい制度となるよう運用改善に向けた取組を進めていくことが重要です。このほかの家事事件においても,子の監護をめぐる当事者間の感情的な対立が激しい事件のように,解決の難しい事案が増加しています。家庭裁判所調査官の適切な活用を図るなどして実情の把握に努め,積極的に解決案を提示するなど,裁判所が主体的に手続を進めていく必要があります。少年事件においても,事件数こそ減少しているものの,審理判断に困難を伴う事件の割合は増えています。少年審判に何が求められているかを改めて考え,職種間及び関係機関との連携を図りながら,その機能を更に強化していかなければなりません。事件のいかんを問わず,事案ごとに行われている様々な工夫を庁全体で多角的に検討し,更なる実効的な運用へとつなげていくなど,組織を挙げた取組が期待されます。

 裁判所が健全に機能するために,人的な基盤の充実が不可欠であることは改めていうまでもありません。その観点から,裁判官だけでなく将来の裁判所を支える裁判所職員の採用と育成は重要な課題です。これまでも,採用広報の充実に取り組むなどして優秀な職員の確保に努めるとともに,全ての職員が持てる能力を十分に発揮することができるよう働きやすい職場環境の整備を進めてきました。今後も,多様な人材を得て組織を活性化する方策を進めていく一方,職員の経験や職務の内容に応じた研修の充実に努め,さらに,OJTを通じた職員の育成の一層の充実を図ることにより,総合的にこの課題に取り組んでいきます。

 昨年,14年ぶりに東京で開催されたアジア太平洋最高裁判所長官会議では,アジア太平洋の国や地域の司法府の長が,法の支配の実現に向けた司法の役割について多彩な視点から意見交換を行いました。また,同じく昨年,アジアの国々の裁判官等が招かれて東京で開催された国際知財司法シンポジウム2017においても,知的財産紛争の解決に関する有益な議論が交わされました。今後も,環境や経験において共通性を強めている他国の裁判官との交流を深めるなどして幅広く世界の司法の実情を把握するとともに,我が国からの情報発信も積極的に行っていくことが望まれます。

 本年は明治維新から150年の節目に当たるわけですが,先輩が近代を築く過程で貫いた法の支配への強い思いも振り返り,裁判所の置かれている状況と職責に改めて思いを致したいものです。そのことを強調し,将来にわたって裁判所が国民の期待に応えることのできる組織であり続けることができるよう職員各位の一層の努力を期待して,新年の挨拶とします。