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最高裁判所長官「新年のことば」

令和2年1月1日

新  年  の  こ  と  ば

最高裁判所長官    大谷直人

  令和2年の年明けを迎え,一言御挨拶申し上げます。

  昨年は,新たな元号のもと新しい時代の息吹を感じることのできる1年となりました。我が国で初めて開催されたラグビーワールドカップにおける熱戦には多くの国民が魅了されたところですが,フェアプレーやノーサイドの精神は,今後我々が持続可能な社会を形成していく上でも,示唆を与えてくれるもののように思います。一方で,昨年は,一昨年に続いて,地震,台風など,自然災害がもたらす甚大な被害が相次いだ年ともなりました。復興に向けた様々な取組が行われていますが,併せて,教訓を生かした防災・減災の様々な取組を続けていくことの重要性が増しているように感じます。また,国際関係に目を向けると,地域間の権益紛争により,これまで培ってきた多国間での枠組みが見直しを求められるなど,内外の社会情勢の方向性が見定めにくい状況にあることは否定できないように思われます。そのような中にあって,裁判所は,状況の変化に的確に対応しつつ,法の支配を揺るぎないものとすることで安定した社会の実現に寄与するという難しい使命を負っているといえます。その責任を果たしていくためにも,裁判所職員には,地域の国家機関としての裁判所の在りように目を向けて,ニーズに的確に応えることが求められています。従来の実務や先例に安易に寄りかかることなく,職場での自由闊達な議論を通じて不断に改善を図りながら職務にあたることが期待されます。

  民事裁判の分野においては,現在検討が進められている民事訴訟手続のIT化について,いよいよ本年2月から,知的財産高等裁判所及び高等裁判所所在地の地方裁判所本庁を皮切りに,ウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の新たな運用が開始されます。IT技術の目覚ましい発展は企業活動や人々の生活を一変させているところであり,諸外国の状況を踏まえても,民事訴訟手続のIT化はまさに時代の要請であるといえましょう。もっとも,このプロジェクトを真に実りのあるものとするためには,引き続き,裁判官を始めとする裁判所職員が一体となって,民事訴訟の審理運営の在るべき姿と将来像について議論を深めていくことが欠かせません。特に,民事訴訟については,審理期間のほか,争点整理や和解の実情などに対してなお厳しい指摘がされているところです。現在,審理判断の質の向上を目的として,各庁において,事件処理における合議充実の取組が進んでおり,また,部や庁を超え,様々な形で裁判官同士の率直な意見交換が行われています。引き続き,裁判官各自が,争点中心型の審理を実現して,合理的な期間内に事案の解決を図っていくためにはどのように手続を積み上げていくべきかについて,裁判所外の意見にも耳を傾けつつ,真摯に検討していく必要があります。現行民事訴訟法の施行から20年以上を経た今,IT化という新たな流れの中で,時代にふさわしいプラクティスを確立するという気概をもって,是非とも意欲的に取り組んでほしいと思います。

  昨年,10年の節目を迎えた裁判員制度は,多くの国民の理解と協力の下,法曹三者で運用改善に取り組んできた結果,おおむね安定的に運営され,我が国に根付きつつあるといってよいでしょう。とはいえ,諸外国の歴史と比べれば,制度はいまだ草創期にあるということもできます。この制度を将来にわたって確固としたものとして根付かせるためには,法曹三者が,10周年は一つの通過点にすぎないという意識を共有しながら,既に積み重ねられてきている多くの事例を多角的に検証し,その運用改善に向けて絶えず努力していくことが求められます。さらに,今後は,そうした取組を通じ,刑事裁判全体を視野に入れて実体判断の枠組みや手法を見直していく姿勢も求められているように思われます。また,より多くの国民から制度への理解と協力を得るためには,広報活動等を通じ,様々なレベルで地域社会との間での接点を持ち,その実情等を踏まえながら,得られた知見を制度運営全般に活かしていくことに一層意を払う必要がありますが,そうした問題意識が刑事のみならず他の裁判分野においても広がっていくことが,これからの裁判所にとって重要な意義を持つと考えています。

  社会や家族の在りようの変化や価値観の多様化を背景として,家庭裁判所の紛争解決機能に寄せられる国民の期待はますます高まっています。成年後見制度については,急激に進む高齢化社会において,本人と後見人を地域で支えるための地域連携ネットワークの構築等が急務であり,引き続き,市町村を始めとする関係機関の取組が加速するよう,連携を深めていくことが重要です。あわせて,様々な立場からの意見に耳を傾けながら,運用改善にも取り組んでいく必要があります。また,面会交流,児童虐待など,子の福祉に関する事件を始めとして,家事事件や人事訴訟事件においては依然として解決が困難な事案が増加しており,少年事件においても,少年の抱える資質及び環境の問題の複雑化,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用した犯罪など非行類型の多様化の傾向がみられます。家庭裁判所に置かれた多様な職種が,各々の役割や立場を理解した上で,適切な連携を図りながら事件処理に取り組むことで,紛争解決機能の強化に努めていってもらいたいと考えます。

  少子高齢化の進展とともに若年労働人口の減少が進んでいく状況の下で,将来にわたって,質の高い司法サービスの提供を維持し,国民の信頼に応えられるよう,組織の活力の維持・向上を図っていくことも重要な課題です。引き続き,より一層優秀な人材の確保に努め,これまで以上に,多様な人材を活用し,各々の職員がその能力を高め,十全に発揮することができる方策を進めていく必要があります。

  最後に,本年は,56年ぶりに夏のオリンピック・パラリンピックが東京で開催され,これを機に,我が国の社会文化への国際的な関心が一層高まることと思います。裁判所としても,世界に向けた情報発信,国際会議への参加及び海外の司法制度の調査研究といった取組を一層推進していく必要があります。

  年頭に当たり,一つ一つの事件処理を通じ,国民の信頼と期待に十分応えられるよう,裁判所職員一体となって職務に取り組んでいかなければならないことに改めて思いを致しつつ,新年の挨拶といたします。