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最高裁判所判例集

事件番号

 平成19(受)808

事件名

 損害賠償請求上告,同附帯上告事件

裁判年月日

 平成20年6月12日

法廷名

 最高裁判所第一小法廷

裁判種別

 判決

結果

 その他

判例集等巻・号・頁

 民集 第62巻6号1656頁

原審裁判所名

 東京高等裁判所

原審事件番号

 平成16(ネ)2039

原審裁判年月日

 平成19年1月29日

判示事項

 1 放送事業者等から放送番組のための取材を受けた者において,取材担当者の言動等によって当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,信頼したことが,法的保護の対象となるか
2 放送番組を放送した放送事業者及び同番組の制作,取材に関与した業者が取材を受けた者の期待,信頼を侵害したことを理由とする不法行為責任を負わないとされた事例

裁判要旨

 1 放送事業者又は放送事業者が放送番組の制作に協力を依頼した関係業者から放送番組の素材収集のための取材を受けた取材対象者が,取材担当者の言動等によって,当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,あるいは信頼したとしても,その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない。もっとも,当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により放送番組中で取り上げる旨説明し,その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,取材対象者が上記のように期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得る。
2 放送事業者Y1の委託を受けた放送番組の制作等を業とするY2から,いわゆる従軍慰安婦問題を裁く民衆法廷を取り上げたテレビジョン放送番組の制作業務の再委託を受けたY3が,上記民衆法廷を中心となって開催したXに対して上記番組のための取材を行い,その後,Y1によって上記番組が放送された場合において,Y3の担当者が,Xに対して,上記番組が上記民衆法廷の様子をありのままに視聴者に伝える番組になるなどと説明して取材を申し入れ,上記民衆法廷の一部始終を撮影したなどの事実があったとしても,次の(1),(2)の事情の下では,上記民衆法廷をつぶさに紹介する趣旨,内容の放送がされるとのXの期待,信頼が法的保護の対象となるものとすることはできず,実際に放送された上記番組の内容が上記説明とは異なるものであったとしても,Y1〜Y3は,上記期待,信頼を侵害したことを理由とする不法行為責任を負わない。
(1) Y3による実際の取材活動は,そのほとんどが取材とは無関係に当初から
予定されていた事柄に対するものであって,Xに格段の負担が生ずるものとはいえないし,Y3による当初の申入れに係る取材の内容も,Xに格段の負担を生じさせるようなものということはできない。
(2) Y3の担当者のXに対する上記説明が,上記番組において上記民衆法廷について必ず一定の内容,方法で取り上げるというものであったことはうかがわれず,Xにおいても,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が上記説明と異なるものになる可能性があることを認識することができたものと解される。
(1,2につき意見がある。)

参照法条

 (1,2につき)民法709条,放送法1条,放送法3条,放送法3条の2第1項,放送法3条の3第1項,憲法21条

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