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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成16(行コ)135

事件名

 各所得税更正処分取消等控訴,所得税更正処分等取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成14年(行ウ)第138号,同15年(行ウ)第49号,同第513号)

裁判年月日

 平成16年9月29日

裁判所名

 東京高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 米国法人が,子会社である日本法人に勤務する従業員に付与したストックオプション(一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で,自社株式について新株の発行を受け,又は発行済み株式の譲渡を受けることができる権利)及びその権利行使益(権利行使時における株式の市場価格と被付与者の払い込んだ権利行使価格との差額)は,所得税法上の給与所得に当たる。 
2 勤務していた日本法人の親会社である米国法人から付与されたストックオプション(一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で,自社株式について新株の発行を受け,又は発行済み株式の譲渡を受けることができる権利)を行使したことにより取得した権利行使益(権利行使時における株式の市場価格と被付与者の払い込んだ権利行使価格との差額)が,所得税法上の給与所得に該当するとしてされた所得税の更正処分が違法であるとして,納税者が当該権利行使益を一時所得に区分して計算した上でした取消請求が,棄却された事例 
3 勤務していた日本法人の親会社である米国法人から付与されたストックオプション(一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で,自社株式について新株の発行を受け,又は発行済み株式の譲渡を受けることができる権利)を行使したことにより取得した権利行使益(権利行使時における株式の市場価格と被付与者の払い込んだ権利行使価格との差額)が,所得税法上の給与所得に該当するとしてされた所得税の更正処分が違法であるとして,納税者が当該権利行使益を一時所得に区分して計算した上でした,過少申告加算税賦課決定の取消請求が,一部認容された事例

裁判要旨

 1 米国法人が,子会社である日本法人に勤務する従業員に付与したストックオプション(一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で,自社株式について新株の発行を受け,又は発行済み株式の譲渡を受けることができる権利)及びその権利行使益(権利行使時における株式の市場価格と被付与者の払い込んだ権利行使価格との差額)につき,前記ストックオプションは,前記米国法人が,前記子会社の従業員が子会社に優れた労務を提供し,貢献しているからこそ,報奨を与えて,職務への精励に報いることにより,一層の職務への精励と勤務の継続を確保し,企業グループの業績を上げるために,重要ないし優秀な者を選定して付与したものであって,我が国でいう「賞与」の性質を有するものであり,ただ,その行使による利益の有無及び多寡が,当該従業員等の職務精励の継続いかんによって影響を受け得るように特別に工夫された労務の対価の給付の新たな一方式であると考えられ,このようなストックオプションの権利行使益は,その発生の有無及び多寡が,株価の変動及び従業員等による権利行使時期の判断によって左右されるという特殊性を有し,流動的であって,提供された労務の質,量と実際に得られた利益の額との相関関係は希薄であるが,そうであっても,ストックオプションの趣旨,目的,仕組み等に照らすと,その権利行使益はたまたま生じたものとか,被付与者の投資的判断による運用益などではなく,当該米国法人ないし同社を中心とする企業グループから,子会社に対する貢献と職務への精励及びその継続に対して給付されたものであり,付与時までの労務の提供及び付与時から権利行使時までの間の労務の提供の対価であるということができ,当該従業員が雇用されていた子会社ではなく,その親会社である米国法人がストックオプションを付与したという特殊性はあるが,当該従業員が前記子会社に勤務していたからこそ付与されたものであって,この点は,権利行使益を雇用契約又はこれに類する原因に基づいて提供された労務の対価と解することの妨げとはならないことから,前記ストックオプション及びその権利行使益は,所得税法上の給与所得に当たる。 
2 勤務していた日本法人の親会社である米国法人から付与されたストックオプション(一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で,自社株式について新株の発行を受け,又は発行済み株式の譲渡を受けることができる権利)を行使したことにより取得した権利行使益(権利行使時における株式の市場価格と被付与者の払い込んだ権利行使価格との差額)が,所得税法上の給与所得に該当するとしてされた所得税の更正処分が違法であるとして,納税者が当該権利行使益を一時所得に区分して計算した上でした取消請求につき,前記ストックオプションは,前記米国法人が子会社の従業員に対し,報奨を与えて,職務への精励に報いることにより,一層の職務への精励と勤務の継続を確保し,企業グループの業績を上げるために,重要ないし優秀な者を選定して付与したものであり,権利行使益も,ストックオプションの趣旨,目的,仕組み等に照らすと,たまたま生じたものとか,被付与者の投資的判断による運用益などではないから,前記ストックオプション及びその権利行使益は,当該米国法人ないし同社を中心とする企業グループから,子会社に対する貢献と職務への精励及びその継続に対して給付されたものであり,付与時までの労務の提供及び付与時から権利行使時までの間の労務の提供の対価であるということができ,所得税法上の給与所得に該当するとして,前記請求を棄却した事例 
3 勤務していた日本法人の親会社である米国法人から付与されたストックオプション(一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で,自社株式について新株の発行を受け,又は発行済み株式の譲渡を受けることができる権利)を行使したことにより取得した権利行使益(権利行使時における株式の市場価格と被付与者の払い込んだ権利行使価格との差額)が,所得税法上の給与所得に該当するとしてされた所得税の更正処分が違法であるとして,納税者が当該権利行使益を一時所得に区分して計算した上でした,過少申告加算税賦課決定の取消請求につき,ストックオプション及びその権利行使益は所得税法上の給与所得に該当し,前記更正処分は適法であるが,ストックオプションの権利行使益の所得区分については,納税者としては,課税庁の過去の運用に由来する一時所得とする見解と給与所得とする見解の対立が残っている中で,その過去の運用に沿った申告をしたにすぎず,課税庁側も,前記権利行使益を給与所得として課税するという運用の変更を,規則,通達等により納税者に明示することを怠っていた以上,更正処分後の申告であっても,前記納税者の確定申告の一部には国税通則法65条4項の「正当な理由」が認められ,その限度で過少申告加算税賦課決定は違法であるとして,前記請求を一部認容した事例

 

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