トップ > 各地の裁判所 > 最高裁判所 > 各種委員会 > 医事関係訴訟委員会について > 第25回医事関係訴訟委員会・第23回鑑定人等候補者選定分科会
1. 日時
平成24年12月12日(水)午後3時
2. 場所
最高裁判所中会議室(2階)
3. 出席者(敬称略)
委員
杉本恒明(委員長),川名尚,北山元章,木下勝之,髙本眞一,寺本民生,中村耕三,武藤徹一郎,吉岡桂輔〔永井良三,山口武典,吉村泰典は欠席〕
オブザーバー
高橋譲(東京地裁判事),中村也寸志(大阪地裁判事)
事務局
永野厚郎(民事局長),岡崎克彦(民事局第一課長),福田千恵子(民事局第二課長)
4. 議事
(1) 開会の宣言
(2) 鑑定人候補者推薦依頼をした事案の経過及び推薦依頼先学会選定結果報告
事務局から,本委員会から各学会に対して鑑定人の推薦依頼をした事案について,別添「医事関係訴訟委員会において推薦依頼をした事案の経過一覧表」(PDF:110KB)に基づき経過報告があり,また,前回の報告後,委員会開催日までに推薦依頼をした12件の事案について,別添「推薦依頼のあった事案の概要等」(PDF:143KB)のとおり,推薦依頼先学会が選定された旨の報告があった。
(3) 鑑定人候補者選定依頼マニュアルの発出について
事務局から,平成24年7月2日付けで,本委員会への鑑定人候補者推薦依頼手続に関する説明等を記載した「鑑定人候補者選定依頼マニュアル」を発出した旨の報告があった。
(4) 医療訴訟連絡協議会・医事関係訴訟事件の状況等について
ア 医療訴訟連絡協議会等の開催結果の報告
事務局から,各地方裁判所において開催されている医療訴訟連絡協議会や医療訴訟ガイダンスなどの,医療の専門家と法曹関係者の意見交換の取組につき,平成23年7月から12月までの期間の開催結果について,報告があった。
イ 平成24年(1月~9月)の医事関係訴訟事件統計について
事務局から,平成24年(1月~9月)の医事関係訴訟事件の最新の動向について説明があった。
(主な意見)
- 産科医療補償制度が開始した関係で,脳性麻痺に関する訴訟件数は少なくなってきていると思われるが,産科についての訴訟件数はいまだ顕著に減少しているわけではない。もう少しこの傾向を見守り,制度が定着して訴訟件数が減少してくれれば良いと思う。
(5) 意見交換「医療訴訟と医療ADRの役割分担と連携」
ア 意見交換会の概要報告
平成24年4月及び9月の2回にわたり,医療ADRについてヒアリング等を行い,意見交換を実施した。これらの結果を踏まえて,今回は「医療訴訟と医療ADRの役割分担と連携」について意見交換を行った。
意見交換を行うのに先立ち,事務局から,次のとおり意見交換会の概要が説明された。
- 医師会,弁護士会及びNPO法人の各団体がそれぞれ主宰する医療ADRから,各機関の概要と特徴などについてヒアリングを行った。
- 事務局から,フランス,ドイツ及びアメリカにおける医療ADRについて行った調査結果を報告した。
- 医療ADRについての現状認識及びその活用を推進していくための課題と克服策について,意見交換を行った。
イ 医療ADRの現状確認と医療訴訟との関係の整理
事務局から,これまでの意見交換会での議論等を踏まえ,現状として,医療ADRは対話型であり,簡易迅速な手続で,有責性を判断しないといった特色から,比較的軽微な事案についての利用が多いこと,他方,医療訴訟は手続が重厚であり(鑑定や尋問など),判決となれば有責性まで判断されるといった特色から,比較的重大な事案についての利用が多いことが紹介された。そして,今後,医療ADRが医療紛争の解決にどのような役割を果たしていくべきか,訴訟との役割分担をどのように考えていくべきか,という問題提起がされた。
また,この点について他分野のADRと比較し,意見交換の参考とするために,建築紛争及び筆界特定紛争における,訴訟とADRの役割分担と手続上の連携について説明があった。
ウ 医療紛争を適正に解決するために医療ADRが果たし得る役割
以上の説明を踏まえて,今後医療ADRが紛争解決システムにおいて果たし得る役割について,意見交換を行った。
(主な意見)
- 医療事故の場合,責任を問われるか否かが一番大きい問題である。日本の現状で,ADRで過失認定まで行うのは無理であり,対話型や責任が問われないレベルのものが限界である。
- 訴訟と重ならない分野があるという限度で,紛争自体を分類する意味はあると思うが,訴訟の取扱分野と重ならないものだけを医療ADRで解決するというのは行き過ぎであると思う。実際に,このまま行けば訴訟になりうるものをADRで解決したこともある。
- 医療ADRは,訴訟よりはるかに楽な手続であり,ADRで解決が可能と思われるものに関しては,ADRで処理できる体制を整えていった方がよい。もしそれでうまくいかなくても,次に訴訟があり得るのであり,そういった意味で十分バックアップできると思われる。
- もう一つの切り口として,過失の有無がある。過失の有無がはっきりしている場合は,医療ADRでも解決可能である。過失の有無が不明な場合が問題であり,それをどこまで医療ADRで取り込むのかが問題となる。
- 医療ADRが訴訟と連携するためには,ドイツのように,はっきりと責任の有無について判断できるような,鑑定に類するある程度専門的な資料が,医療ADRの中で作成されることが前提である。そうすると,医療ADRにつき,弁護士の他に医師も入るような制度設計にしないと難しいと思われる。
- 医療ADRは,現在それなりに機能していることから,大きな変革をすることなく,仕組みとしては現状のままで良いのではないかと考える。将来的には,有責性まで判断しても,それが刑事事件にまで発展しないような仕組みになれば良いと思う。
- 医療ADR自体に期待するのは対話型であり,互いに解決していこうという姿勢の中で,原因が判明して改善していくという流れが良いと思うので,そのような体制を作るという前提が必要となると思われる。医療ADRの手続の中で責任追及が起こり,それが刑事事件まで発展するようなことになってしまうと,医療ADR本来の姿が失われる。あくまでもその場でお互いが対話して解決していくといったスタイルでなければならない。
- 医療ADR制度を発展させていくことは良いと思うが,対話型を広げていくことを最終目的とするか,裁定もするような方向性を含めて視野に入れるのか,この二段階はかなり違うと思う。後者をするには法整備を全面に行うことになるし,まずは前者をということであれば,今のまま制度を広げるという話となる。前者をまずやらないと後者が見えてこないと思われる。
- 医療ADRの目的としては,なるべく訴訟にしたくないということが考えられ,需要としては,何か紛争が起こった際の駆け込み寺のような制度がほしいというところだと思う。どこが主体として行うかといったところが一番重要であるが,日本では,医師会の関与が必須であり,医師会がいかに医療ADRを必要と考えるかが重要である。いきなりドイツの医療ADRと同様のことを行うのは無理なので,まずは医師会に対し,もっと医療ADRの必要性について認識してもらう必要がある。医師会は地域によっても,需要の認識の度合いが違うと思われ,将来的に見た場合,各地域でかなり医療ADRの取扱分野の範囲などがいろいろ違ってくることも,ある程度容認した方が良いと思う。
- 医師賠償責任保険(以下「医賠責」という。)がすでに医療ADRに類するものとして存在しているという認識があり,他方,医賠責の取扱分野に当たらないような軽い紛争であるならば,現場で今までのような解決をすれば良いという認識がある。しかし,医療ADRという組織を作ることによって,有責性の有無まで判断しても刑事事件に発展しないといった方向性になるのであれば,医師会ももっと積極的に動くのではないかと思う。
- 裁判で扱うような紛争も医療ADRで取り扱うということになれば,膨大な費用がかかる。その前に考えるべきことは,一つ目が保険の問題,二つ目は専門家の関与である。後者については,どのように関与させるかが重要であると思うが,当事者双方がそれぞれ専門家を関与させていくと対立することがあるので,将来的には,第三者の意見を聴取したい場合に,相応の学会から適任な方が手続に関与するといった仕組みになれば,訴訟の代替的な手続の一つとしての医療ADRが可能となるのではないかと考える。
(6) 次回の予定等について
来年度は,意見交換会を1回,意見交換を含めた本委員会を1回行うことを予定しており,意見交換会の開催日時については,平成25年6月の委員交代等を踏まえて,新体制の整った後に行うことが確認された。