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1. 総論
一般の企業で,人事考課がどのような状況にあるかというお話をしたい。
現在,人事考課が行われているのは,大企業ではほぼ100%,中小企業も含めると50%強である。これまでの年功序列的賃金体系の下では,人事考課を やっても結果には反映されないというのが実態であったが,現在は,労働者が高齢化する一方で人件費に使えるパイが増えないという状況を背景として成果主義 的な賃金体系に変わってきている。そのため,極めて抽象的で評価者の主観が反映されやすく,従って,被評価者の納得も得られないといった従来の考課制度について,大企業を中心に改革が行われてきている。
企業では,人事考課を大体,(1)能力考課,(2)業績考課,(3)態度・意欲考課の3つに分けている。
2. 能力考課
従業員の職能レベルを見るのが(1)の能力考課基準である。1級は基礎的な知識を有する者,2級は一般的な知識,3級はやや高度な知識,4級はかなり高度な知識,5級は極めて高度な知識というような形容詞で示されることが多いが,具体的にどのような知識を有していれば何級と認められるのかは分からない。 また,これまでは,評価に当たり,保有能力,潜在能力というものも見ており,実際には仕事をやっていないものの,やらせてみればこの程度はできるだろうと いうことで評価をしていた。そして,結局は,大学を卒業して何年経ったから何級というように,年功的な昇格の運用になっていた。
これに対し,成果主義の能力考課は,発揮能力で評価をしようというものである。いかに能力を保有していても,それが発揮されていなければ成果として表れないので評価しない。また,発揮されているものであれば評価がしやすいという面もある。資料1枚目(PDF:278KB)の表で言うと,Aは1級でその仕事しかしていないが,Bは1,2年経ち,そろそろ2級の仕事もしている。これを,発揮能力ということでみると,Aは2級の能力があるかどうかという評価を受ける資格がないが,Bはその資格があることになる。そして,Bの2級の仕事を見て,できると評価されれば2級に昇格させることになる。職務給制度では,仕事ができなくても与えた仕事に対応する賃金を払わなければならないのに対し,職能資格制度では,仕事ができなければその級になれないが,仕事は与えることができ,それが育成ということになる。このような制度の下では,企業としては,級ごとの課業の内容を明確にする必要がある。資料2枚目(PDF:358KB)の 「課業評価結果一覧表」では,それぞれ,どの課業は何級という具合に,職務を調査,分類している。従来,日本の場合には,職務概念がほとんど考えられてお らず,人事課はこういう仕事といったように組織に仕事が与えられるだけであったので,この表のように個々人の職務を規定し,能力を評価するという考え方は,新しい考え方だと言える。
これまで企業で行われてきた能力考課においては,資料3枚目(PDF:199KB)の図の右側の小分類にあるような,独創力や企画力等の個々の要素を全て評価していた。しかし,あらゆる仕事について,それらの個々の要素が全て必要ということではない。それにもかかわらず,全てを評価しようとすることは無理なことであり,評価者は分からないまま評価をして,結果として分からない評価になってしまっていた。
成果があればそれに対応する能力があると認め,仕事ができていなければ,何が足らないのかを評価して育成する。そのような方針で作成されたのが,資料4枚目(PDF:296KB)の考課表である。例えば,今後,対人的な折衝力を付けようという育成方針であれば,そういうものが必要な仕事を与え,その仕事ができているかどうかを評価する。そうすれば,本人も納得するし,できなかった時には面談の際に本人にフィードバックをすることにより,その育成を図ることができる。資料4枚目の左端の「昇格考課に該当する課業名」には,現在の課業の1つ上の課業を書く。5項目あるが,最低,1課業でもよい。それに対応する「所見」欄には,課業ができていれば何も記載しないが,できていない場合には,次回はできるように育成すべく本人へのフィードバック用の記載がなされる。
資料5枚目(PDF:459KB)は, 現在行っている「おもな仕事の内容」としてどういうことがなされているかの記載及び「上記以外の特筆すべき成果をあげた仕事」の記載欄があり,それぞれの達成状況を評価する。具体的事実の把握として2で分析を,さらに職務遂行能力の分析評価として3で分析評価をし,4で職務遂行能力の評価をし,5で総合的 に評価をし,6で進級の判定をするというように,育成の他に,評価でも使われているもので,達成度=職務遂行能力では必ずしもないという例だということが 言えると思う。
資料6枚目(PDF:330KB)は代表的な課業について,その遂行力レベルを見るものである。
以上,資料4枚目から6枚目までの3社だけではなく,他の多くの会社でも,職能要素ではなく,仕事そのものについて評価をして,納得性を高めるということが行われており,現実に上の仕事をやっていなければ昇格せず,年功要素を排除するという方向に変化してきている。
3. 業績考課
業績評価は,資料7枚目(PDF:282KB)に記載のように,業績として,全体的な仕事の結果を見るものである。かつては非常に抽象的で,一定の期間内の仕事の質はどうか,量はどうか,改善の程度はどうかという評価をしていることが多く,本人から見ると何でそういう評価をされたのかわからない,その説明を求めても,結局,評価者もその説明ができないということもあった。
これを本人にも納得がいくようなものに改善するためには,期の始めに,定型的な業務の場合には,職務調査の中で明らかにされた課業を設定してその仕事の成果を評価し,非定型的業務では,目標管理をすることにより,数量,質,課題解決度等の目標に対する達成度等を対象として,業績評価ができるようにするこ とが考えられている。非定型的業務の場合は,本人と評価者との間で齟齬が生じないように,目標となるものをかなりきめ細かく書く必要がある。この目標管理の手法は,昭和30年早々に紹介され,日本の企業でも行われてきたが,それが処遇に結びつかず,目標を達成してもしなくても何も変わらないといういい加減なものに留まってしまったため,結局,形骸化したり,消滅してしまったという歴史がある。
量的な目標例としては,予算達成率,実績向上率,コスト低減,労働能率のようなものを典型例として挙げることができよう。これまでは非量的なものは目標管理には馴染まないとされてきたが,例えば研究の分野であっても,テーマの選定や研究活動の推進などを目標として定めることができよう。
目標管理がなされ,それを達成したとしても,それが企業の目標に合わなければ意味がない。目標連鎖という考え方に立って,目標を組み立てることが考えられている。その手順は資料8枚目(PDF:237KB)に記載のとおりである。
資料9枚目(PDF:526KB)は研究目標の設定の例であるが,具体的に目標が掲げられて,それぞれ期限が決められ,スケジュール管理がされている。そして,そのための上司の役割や必要な条件が掲げられている。
資料10枚目(PDF:383KB)はある会社のシステム部の6級,課長クラスの業績目標である。業績目標が設定され,会社の目標と結びつくように選定理由欄が設けられ,成果としてどの程度までやるか,それを達成するために何をどうやってやるのかという手段欄,いつまでに達成するかという期限欄が設けられている。
会社で高い仕事に挑戦して失敗すると,極端に評価を落とされることになるので,余計な挑戦はしないということになってしまうことがある。これを防ぐため,1つ上の目標であれば,どんなに結果が悪くてもマイナス評価にはせず最低でも0評価とし,結果が良ければ加点するというようにして,高い仕事に挑戦をさせるという方法もある。資料11枚目(PDF:352KB)の考課表では,更に進めて,自分の級の仕事のみをやっていても,評価は最高にはならないということで,上位級に相当する課業目標が定められている。そして,目標が未達成の場合には,具体的に不足する部分を記載し,指導するというものである。
資料12枚目(PDF:404KB)の会社の場合は,業績評価として,仕事の内容と難易度,達成度が設けられており,3級の人が4級の仕事をする場合には難易度が高く,プラスになるが,逆の場合には難易度は低くなり,できて当たり前ということになる。難易度を設けることにより,上の仕事をしても損をしないようにして,これまで何となくやってき ていたことを,明確にしたものと言える。
資料13枚目(PDF:458KB)は ある会社の営業の例であるが,販売での目標は,現実には,個人で立てるというより,会社で立てた販売目標,いわゆるノルマがそのまま目標になってしまう。 それだけでは,モラールに影響するので,自分で訪問計画件数という目標を立てたり,訪問の結果としてどのぐらいのネゴシエーションが発生したか,あるい は,割引率,クロージング達成率等の高低を評価に反映させるようになっている。単なる結果としての数値だけではなく,そのプロセスも評価するというものであり,成果主義を修正して,途中の行動についても評価をするものである。
4. 態度・意欲考課
態度・意欲考課は,本来,成果とは関係がないが,チームワークや社員であることで会社自体が評価されるような場合等に要求される(資料14枚目(PDF:150KB))。 ただ,業績を上げていれば良いというものではない。これまで多くの企業では,抽象性の高い評価基準が用いられていた。例えば,規律性は,評価者の価値観によってかなり異なったり,飲み会に来ないといった私的なことまで評価の対象になってしまう場合もあった。そのため,具体的な基準にして,本人に説明ができるようにする必要がある。そうすることにより,評価者も評価がしやすくなる。また,考課の対象についても,意欲等の全社員に共通に求める事項と,特定の社員に求める事項がある。そこで,資料15枚目(PDF:374KB)のように,項目ごとに細かい基準を設けることにより,より適切な評価が可能となる。資料16枚目(PDF:380KB)では,項目に具体性を持たせて評点を与えているが,このようなことをすることにより,評価者によって評価が異なるということはかなりの程度で防ぐことができようし,本人にフィードバックをすることも可能となる。
5. まとめ
アメリカの会社では,評価結果を本人に示してサインをさせているようであるが,日本の企業ではそこまでいっていない。今までもそのようなことが言われてきていたが,現実には本人へのフィードバックはできていない。評価者は,感覚的に相対評価で評価をし,分からないからBという具合に評定し,Bの理由を後から考えるという現状にあったが,これを改善をするために,1つ1つの項目ごとに評価をして行こうというのが今の流れである。