第33回さいたま地方裁判所委員会【議事概要】 第1 日時    平成30年9月20日(木)15:00〜17:00 第2 場所    さいたま地方裁判所裁判員候補者室 第3 出席者   【委員】   淺野友彦,荒木直人,黒金英明,小嶋一晃,斎藤文彦,重川純子,設楽あづさ,山光明,中山福二,藤岡麻里,丸岡庸一郎,武藤京子,森冨義明,山田俊雄〔委員長〕(五十音順,敬称略)   【オブザーバー】    (民事部)柳下俊一    (刑事部)塚原雅夫    (事務局)森田正則,清水敦子,手嶋健一郎,田沼優子 第4 議題 「犯罪被害者等の保護について」 第5 議事  1 開会  2 委員交代の紹介及び委員からの自己紹介  委員長から,前回委員会から本委員会までの間にされた金井委員,関根委員,田澤委員,布川委員,堀光委員の退任及び黒金委員,斎藤委員,藤岡委員,武藤委員の任命について紹介があった。  新任委員から自己紹介があった。  3 議題「犯罪被害者等の保護について」  (1) 説明    山委員から「法廷における被害者等の保護」について説明が行われた。  (2) ビデオリンクによる証人尋問の実演    裁判所職員によるビデオリンクによる証人尋問の実演が行われた。  (3) 意見交換 (委員長)裁判所から説明や法廷での実演を御覧いただいたが,犯罪被害者対応について,警察署や検察庁では,どのような配慮や対応を行っているのか,紹介していただきたい。 (委 員)各警察署(39署)に,被害者支援要員(3000人)を指定し,夜間であっても対応できる態勢を整えている。また,捜査や裁判がどのように行われるのか等を記載した冊子を準備し,事故に遭われた方や犯罪の被害に遭われた方への説明の機会に利用している。実際の支援については,相談・カウンセリング,裁判所等への付添・自宅への送迎等,医療費やホテル等への避難が必要な場合の費用の負担等を行っている。さらに,ワンストップサービスとして,武蔵浦和に犯罪被害者支援センターを設置し,県,警察及び民間がそれぞれ犯罪被害者等からの相談に応じている。 (委 員)検察庁においては,「犯罪被害者の方々へ」というパンフレットを準備し,刑事手続の一般的な流れや支援のための制度について紹介している。また,このパンフレットの内容は,検察庁のホームページにも掲載されている。      支援のための一般的な制度としては三つある。一つ目は全国の地検に配置された被害者支援員が,各種相談への対応や関係機関の紹介等を行う被害者支援員制度,二つ目は全国の地検に設置された専用の電話・ファクシミリで,被害者支援員が被害相談や事件に関する問合せに応じる被害者ホットライン,三つ目はあらかじめ被害者等の希望を伺い,事件の処分結果,刑事裁判の結果や,出所情報等を通知する被害者等通知制度である。  また,刑事手続の各段階で,被害者支援の制度が設けられている。捜査段階では,警察で行われている被害者支援と共通するものもあるが,例えば,被害者参加が認められている事件について弁護士会の被害者支援委員会の法律相談を紹介したり,また,公益社団法人埼玉犯罪被害者援助センターに精神面での支援を依頼することもある。公判段階では,例えば,法廷でどのような被害者等の保護を行うかは裁判所が決定することになるが,検察官は,その前提として,裁判所の職権発動を促す。裁判後の段階では,先ほど説明した被害者等通知制度による通知等がある。 (委員長)報道機関としての運用の御紹介や御意見があればお願いしたい。 (委 員)被害者の実名が発表されないことがあるが,メディアの中では,匿名にすると事実が歪められるのではないか,また保護の名のもとに,全て秘匿にすることが認められるのかとの議論がされており,匿名にすべきか否か,会社によって判断が分かれている。 (委員長)裁判所の手続の中で,匿名にすべきか否か悩む場面はあるのか。 (委 員)被告人に防御の機会を与えるために,犯罪事実は特定する必要があるが,被害者のプライバシーの保護も重要であることから,逮捕状などに本名を記載すべきか否かが問題となることがある。 (委員長)検察庁では起訴状を作成する段階で悩むことがあるのか。 (委 員)被害者を匿名とする起訴は例外的という認識である。 (委 員)弁護人の立場からは,被害者が複数で,被告人の主張が被害者によって異なる場合には,被害者の名前を匿名にすると混乱する。また,ビデオリンクや遮へいが行われていると,傍聴席からは法廷内の様子が見えないことから,裁判の公開の観点からの問題が生じることも考えられる。弁護人は,匿名や遮へいに反対することがあるが,このような問題があることを一般市民の方にも理解していただきたいと思っている。 (委 員)弁護士の立場としては,起訴状では犯罪事実を特定しなければならないので,名前が書いてあるのが当然と思っているが,被害者が1名の事件であれば,匿名であっても,特に支障がない場合が多いのではないか。 (委 員)被害者を匿名とする起訴は例外的であるし,被害者が複数存在する場合などは,事案によって扱いが分かれるのではないか。 (委員長)DV被害者からの相談機関としての立場から御意見はあるか。 (委 員)被害者の相談を受ける機関を所管している立場にあるが,裁判所までの同行支援をしている団体から,裁判所に行くときには,身の安全を守るために,複数で対応しているという話を聞いたことがある。実際に,裁判所においては,裁判所内で被害者と加害者が出会わないような配慮をしているのか。 (委 員)その点には非常に気を遣っている。被害者の方は,検察庁の職員と一緒に来庁する場合が多いが,被告人が保釈されているときには,裁判所内で被害者と加害者が出会うことのないように検察官及び弁護人と協議した上で,時間調整を行うなど万全の態勢を整えている。 (委 員)企業の中でも,ストレスで心の病にかかる方が多く,対策をしているところだが,被害者の方が精神的に病んでしまった場合の保護はどのくらいまでされているのか。 (委員長)検察庁ではどのような対応をしているのか。 (委 員)先ほど説明させていただいた被害者援助センターでは,医師や臨床心理士の紹介をしていると承知しているし,精神的に体調がすぐれないような場合には,医師の受診を勧めるということもあるが,実際に受診するか否かは,被害者御本人が決定されることになる。 (委 員)警察では,全国に臨床心理士を配置しており,埼玉県では3名の臨床心理士が相談にあたっている。また,性犯罪の被害者に対しては,女性警察官が携帯電話の番号を伝えて24時間態勢で相談に応じている。もっとも,24時間態勢で対応に当たっている職員自身がストレスを受けることもあることから,職員を守る対策も講じている。 (委 員)被害者に,長い期間にわたって対応することができる立場の方がいた方がよいかと思う。また,自分で精神科を受診するというのはハードルが高いので,被害者に受診を促す役割を担う方がいた方がよいと思う。 (委 員)犯罪被害者の方を長期間にわたって支援することは可能なのか。 (委 員)警察では,精神状態が安定するまでの間,精神科の受診費用の一部補助等の支援を行っているが,特に期限を限定していない。 (委 員)検察庁では,裁判の確定後も,照会等に応じることになるが,特定の者が継続して担当できるかとなると,検察官には転勤もあるので限界があると思われる。 (委 員)証人が,法廷で証言する際に,自らのプライバシーについて明かしたくないという場合も配慮していただけるのか。 (委 員)平成28年12月から,証人が自ら匿名化の申請を行うことができるようになったが,要件があり,暴力団犯罪で危害等が加えられるおそれがあったり,性犯罪の被害者などである場合に限られている。 (委 員)前回の委員会で,被害者と加害者の出入口は,別の方がよいのではないかとの意見があったと思うが,裁判所ではどのような配慮をされているのか。 (委 員)裁判所の出入口が限られているので,検察庁及び弁護人と協議して,同じ時間帯に出入りをしないような配慮をしている。また,裁判所の外に出るまで裁判所職員が付き添うこともある。 (委 員)法廷で証言する際には心理的な圧力を受ける。ビデオリンクを使うことで判断に悪影響を及ぼすことがないのであれば,証人等の希望に応じ,将来的にはビデオリンクをもっと活用してもよいのではないかとの印象を受けた。 (委 員)ビデオリンクを使用するのに何か不都合があるのか。 (委 員)当庁には,ビデオリンクの機器が1台しか整備されていない。また,ビデオリンクを使用するための要件は,厳格に定められている。さらに,弁護人からは,画像がよくなっているので,反対尋問のやりにくさは減っているものの,その場にいる人を尋問するのと比較して,やりにくいとの意見が出ることもあるため,それほど多用されていないのが実情である。 (委 員)裁判で証言してもらえる証人を集めるために活用することはできないのか。そもそも,ビデオリンクを使うことで,裁判の公正が妨げられるような支障が出ることがあるのか。 (委 員)ビデオリンクや遮へいに法律上の要件が定められているのは,本来,刑事裁判は,公開の法廷で,対立する当事者や証人尋問を行う者が証人に対峙するという構造が,長い経験則の中で作られてきたことによるものである。もっとも,ビデオリンクには,様々な証言を集められるというメリットがあると思う。 (委 員)設備を整備してビデオリンクを利用しやすくすれば,より広く活用することができるのではないか。 (委 員)構外ビデオリンクは,性犯罪等の被害者が証言する場合等に限られるものではなく,例えば,遠隔地に居住している窃盗の被害者が証言するような場合にも使うことができる。現在は,本庁に限らず,支部や簡裁など多くの裁判所で構外ビデオリンクを使用することができる態勢を整備している。 (委 員)例えば,痴漢の被害者を救助する行為に関わった者が法廷で証言するような場合に,当該証人の個人情報について秘匿等が行われないと,住居が明らかになってしまうという問題があるので,同じような配慮をする必要があると思う。 第6 次回のテーマについて    次回のテーマについて意見交換を行った結果,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応について」をテーマとして取り上げることとした。    第7 次回期日    平成31年5月23日(木)午後3時 - 1 -