p1 裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領 平成28年3月23日最高裁判所裁判官会議議決 (平成28年4月1日実施) 1 目的   この要領(以下「対応要領」という。)は,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)の趣旨を踏まえ,障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定)に即して,法第7条に規定する事項に関し,裁判所の職員が適切に対応するために必要な事項を定めることを目的とする。 2 定義   対応要領において次に掲げる用語の意義は,それぞれ次に定めるところによる。  (1) 障害 身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害をいう。  (2) 障害者 法第2条第1号に掲げる障害者をいう。  (3) 社会的障壁 法第2条第2号に掲げる社会的障壁をいう。 3 適用範囲   対応要領は,裁判所の職員(非常勤職員を含む。以下「職員」という。)が行う事務(裁判所が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置に係る事務を除く。)に適用する。 4 不当な差別的取扱いの禁止  (1) 職員は,その事務を行うに当たり,障害を理由として,障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより,障害者の権利利益を侵害してはならない。 (2) 職員は,(1)の定めを実施するため,別紙に定める事項に留意しなければならない。 5 合理的配慮の提供 p2  (1) 職員は,その事務を行うに当たり,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)の提供をしなければならない。 (2) 職員は,(1)の定めを実施するため,別紙に定める事項に留意しなければならない。 6 監督者の責務  (1) 最高裁判所,高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所及び裁判所法(昭和22年法律第59号)第37条の規定により簡易裁判所の司法行政事務を掌理する裁判官並びに裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の標準的な官職を定める規則(平成21年最高裁判所規則第6号)別表1の項第3欄第3号及び第8号に規定する職制上の段階に属する課長,同表1の項第3欄第12号に規定する職制上の段階に属する事務局長,同表2の項第3欄第1号及び第3号に規定する職制上の段階に属する首席書記官,同表3の項第3欄第1号に規定する職制上の段階に属する首席家庭裁判所調査官及びこれらと同等以上の職制上の段階に属する官職を占める職員(以下「監督者」という。)は,4及び5に定める事項に関し,その監督する職員が適切に対応するために,次の事項を実施しなければならない。 ア 日常の執務を通じた指導等により,障害を理由とする差別の解消に関し,その監督する職員の注意を喚起し,障害を理由とする差別の解消に関する認識を深めさせること。 イ 障害者,その家族又はその他の関係者(以下「障害者等」という。)から不当な差別的取扱い,合理的配慮の不提供に対する相談,苦情の申出等があった場合には,迅速に状況を確認すること。 p3 ウ 合理的配慮の必要性が確認された場合には,その監督する職員に対して,合理的配慮の提供を適切に行うよう指導すること。 (2) 監督者は,障害を理由とする差別に関する問題が生じた場合には,迅速かつ適切に対処しなければならない。 7 懲戒処分等   職員が,障害者に対し不当な差別的取扱いをし,又は過重な負担がないにもかかわらず合理的配慮を提供しなかった場合には,その態様等によっては,職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合等に該当し,懲戒処分等に付されることがある。 8 相談体制の整備  (1) 職員による障害を理由とする差別に関する障害者等からの相談等に的確に対応するため,最高裁判所事務総局総務局第一課並びに高等裁判所,地方裁判所及び家庭裁判所の事務局総務課に相談窓口を置く。 (2) (1)の相談窓口においては,対面,電話,ファクシミリ,電子メールのほか,障害者等がコミュニケーションを図る際に必要となる多様な連絡手段の確保に努めるとともに,障害者の性別,年齢,障害の特性等に配慮して対応するものとする。 (3) 最高裁判所事務総局総務局第一課は,(1)の相談窓口にあった相談等を定期的に把握・整理し,個人情報の保護等に配慮しつつ,他の相談窓口に情報提供することにより,以後の相談等において活用するものとする。 (4) (1)の相談窓口については,必要に応じ,相談体制の充実を図るものとする。 9 研修・啓発  (1) 裁判所は,障害を理由とする差別の解消の推進を図るため,職員に対し,必要な研修・啓発を行うものとする。 (2) (1)の研修は,新たに職員となった者に対しては障害を理由とする差別の解消に関する基本的な事項について理解させること,新たに監督者となった職員に p4 対しては障害を理由とする差別の解消等に関し求められる役割について理解させることを目的として実施するものとする。 (3) (1)の啓発は,職員が障害の特性を理解し,障害者に対して適切に対応するために必要なマニュアル等を活用することにより行うものとする。 p5 (別紙) 裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領に係る留意事項 1 障害者の対象範囲等 「障害」とは,「身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」であり,「障害者」とは,「障害がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」をいい,対応要領が対象とする障害者は,いわゆる障害者手帳の所持者に限られないことに留意すること。なお,高次脳機能障害は精神障害に含まれる。また,特に,女性である障害者は,障害に加えて女性であることにより,更に複合的に困難な状況に置かれている場合があること,障害児には,成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意すること。 2 不当な差別的取扱いの基本的な考え方 法は,障害者に対して,正当な理由なく,障害を理由として,財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する,障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより,障害者の権利利益を侵害することを禁止している。ただし,障害者の事実上の平等を促進し,又は達成するために必要な特別の措置は,不当な差別的取扱いではない。したがって,障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置),法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや,合理的配慮を提供等するために必要な範囲でプライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは,不当な差別的取扱いには当たらない。このように,不当な差別的取扱いとは,正当な理由なく,障害者を,問題となる事務について,本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱う p6 ことである点に留意する必要がある。 3 正当な理由の判断の視点 正当な理由に相当するのは,障害者に対して,障害を理由として,財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり,その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。裁判所においては,正当な理由に相当するか否かについて,具体的な検討をせずに正当な理由を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく,個別の事案ごとに,障害者,第三者の権利利益(例:安全の確保,財産の保全,損害発生の防止等)及び裁判所の事務の目的・内容・機能の維持等の観点に鑑み,具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。職員は,正当な理由があると判断した場合には,障害者にその理由を説明し,理解を得るよう努めるものとする。 4 不当な差別的取扱いの具体例 不当な差別的取扱いに当たり得る具体例は(1)から(6)までのとおりである。なお,不当な差別的取扱いに相当するか否かについては,3のとおり,個別の事案ごとに判断されることとなる。また,(1)から(6)までの具体例については,正当な理由が存在しないことを前提としていること,さらに,これらは飽くまでも例示であり,(1)から(6)までの具体例だけに限られるものではないことに留意する必要がある。 (1) 障害を理由に窓口対応を拒否する。 (2) 障害を理由に対応の順序を後回しにする。 (3) 障害を理由に書面の交付,資料の送付,パンフレットの提供等を拒む。 (4) 障害を理由に説明会,シンポジウム等への出席を拒む。 (5) 事務の遂行上,特に必要ではないにもかかわらず,障害を理由に,来庁の際に付き添い者の同行を求めるなどの条件を付け,又は特に支障がないにもかかわらず,付き添い者の同行を拒む。 p7 (6) 裁判所の施設及び施設を利用する者に対する著しい損害発生のおそれその他のやむを得ない理由がないのに,身体障害者補助犬(盲導犬,介助犬及び聴導犬をいう。)の同伴を拒む。 5 合理的配慮の基本的な考え方 (1) 障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)第2条において,「合理的配慮」とは,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されている。法は,権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ,行政機関等に対し,その事務又は事業を行うに当たり,個々の場面において,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,社会的障壁の除去の実施について,合理的配慮を行うことを求めている。合理的配慮は,障害者が受ける制限は,障害のみに起因するものではなく,社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり,その実施に伴う負担が過重でないものである。合理的配慮は,裁判所の事務の目的・内容・機能に照らし,必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること,障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること,事務の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要がある。 (2) 合理的配慮は,障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり,多様かつ個別性の高いものであり,当該障害者が現に置か p8 れている状況を踏まえ,社会的障壁の除去のための手段及び方法について,6の(1)から(3)までの要素を考慮し,代替措置の選択も含め,双方の建設的対話による相互理解を通じて,必要かつ合理的な範囲で,柔軟に対応がなされるものである。さらに,合理的配慮の内容は,技術の進展,社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。合理的配慮の提供に当たっては,障害者の性別,年齢,障害の状態等に配慮するものとする。なお,合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合,障害者との関係性が長期にわたる場合等には,その都度の合理的配慮とは別に,(4)の環境の整備を考慮に入れることにより,中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。 (3) 意思の表明に当たっては,具体的場面において,社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを言語(手話を含む。)のほか,点字,拡大文字,筆談,実物の提示や身振りサイン等による合図,触覚による意思伝達など,障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられる。また,障害者からの意思表明のみでなく,知的障害や精神障害(発達障害を含む。)等により本人の意思表明が困難な場合には,障害者の家族,介助者等のコミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。なお,意思の表明が困難な障害者が,家族,介助者等を伴っていない場合など,意思の表明がない場合であっても,当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には,法の趣旨を踏まえ,当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働き掛けるなど,自主的な取組に努めるものとする。 (4) 合理的配慮は,障害者等の利用を想定して事前に行われる建築物のバリアフリー化,介助者等の人的支援,情報アクセシビリティの向上等の環境の整備を基礎として,個々の障害者に対して,その状況に応じて個別に実施される措置 p9 である。したがって,各場面における環境の整備の状況により,合理的配慮の内容は異なることとなる。また,障害の状態等が変化することもあるため,特に,障害者との関係性が長期にわたる場合等には,提供する合理的配慮について,適宜,見直しを行うことが重要である。 (5) 裁判所がその事務の一環として実施する業務を事業者に委託等する場合には,提供される合理的配慮の内容に大きな差異が生ずることにより障害者が不利益を受けることのないよう,委託等の条件に,対応要領を踏まえた合理的配慮の提供について盛り込むよう努めるものとする。 6 過重な負担の基本的な考え方 裁判所においては,具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく,個別の事案ごとに,(1)から(3)までの要素等を考慮し,具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。職員は,過重な負担に当たると判断した場合には,障害者にその理由を説明し,理解を得るよう努めるものとする。 (1) 事務への影響の程度(事務の目的,内容,機能を損なうか否か) (2) 実現可能性の程度(物理的・技術的制約,人的・体制上の制約) (3) 費用及び負担の程度 7 合理的配慮の具体例 合理的配慮は,5のとおり,具体的場面や状況に応じて異なり,多様かつ個別性の高いものであるが,具体例としては,(1)から(3)までのようなものがある。なお,(1)から(3)までの具体例については,6の過重な負担が存在しないことを前提としていること,また,これらは飽くまでも例示であり,(1)から(3)までの具体例だけに限られるものではないことに留意する必要がある。 (1) 合理的配慮に当たり得る物理的環境への配慮の具体例 ア 段差がある場合に,車椅子利用者にキャスター上げ等の補助をする,携帯スロープを渡すなどする。 p10 イ 配架棚の高いところに置かれたパンフレット等を手渡す。パンフレット等の位置を分かりやすく伝える。 ウ 目的の場所までの案内の際に,障害者の歩行速度に合わせた速度で歩く,前後・左右・距離の位置取りについて障害者の希望を聞くなどする。 エ 疲労を感じやすい障害者から別室での休憩の申出があった場合において,別室の確保が困難であるときに,当該障害者に事情を説明し,障害の特性に配慮した場所に椅子を用意するなどして臨時の休憩スペースを設ける。 オ 不随意運動等により書類等を押さえることが難しい障害者に対し,職員が書類等を押さえ,又はバインダー等の固定器具を提供する。 カ 災害や事故が発生した際に,庁内放送で避難情報等の緊急情報を聞くことが困難な聴覚障害者に対し,手書きのボード等を用いて分かりやすく誘導する。 (2) 合理的配慮に当たり得る意思疎通の配慮の具体例 ア 筆談,読み上げ,手話,点字,拡大文字,身振りサイン等による合図などのコミュニケーション手段を用いる。 イ 書面を点字,拡大文字等で作成する際に,各々の媒体間で頁番号等が異なり得ることに配慮して使用する。 ウ 視覚障害のある委員に会議資料等を事前送付する際,読み上げソフトに対応できるよう電子データ(テキスト形式)で提供する。 エ 意思疎通が不得意な障害者に対し,絵カード等を活用して意思を確認する。 オ 駐車場などで通常,口頭で行う案内を,紙にメモをして渡す。 カ 書類記入の依頼時に,記入方法等を本人の目の前で示し,又は分かりやすい記述で伝達する。 キ 比喩表現等が苦手な障害者に対し,比喩や暗喩,二重否定表現などを用いずに具体的に説明する。 ク 障害者から申出があった際に,ゆっくり,丁寧に,繰り返し説明し,内容 p11 が理解されたことを確認しながら応対する。また,なじみのない外来語は避ける,漢数字は用いない,時刻は24時間表記ではなく午前・午後で表記するなどの配慮を念頭に置いたメモを必要に応じて適時に渡す。 ケ ホームページなどでの外部情報の発信の際に,動画に字幕などの文字情報を付す,拡大文字や読み上げソフトの利用に配慮しテキストデータを付すなどする。 コ 裁判や会議の進行に当たり,資料を見ながら説明を聞くことが困難な視覚や聴覚に障害のある又は知的障害を持つ当事者や委員に対し,ゆっくり,丁寧な進行を心掛けるなど,障害の特性にあった配慮を行う。 (3) 合理的配慮に当たり得る柔軟な対応の具体例 ア 順番を待つことが困難な障害者に対し,周囲の者の理解を得た上で,手続順を入れ替える。 イ 立って列に並んで順番を待っている場合には,周囲の者の理解を得た上で,当該障害者の順番が来るまで別室や席を用意する。 ウ スクリーン,ディスプレイ,板書及び手話通訳者等がよく見えるように,スクリーン等に近い席を確保する。 エ 車両乗降場所を施設出入口に近い場所へ変更する。 オ 裁判所の敷地内の駐車場等において,障害者の来庁が多数見込まれる場合には,通常,障害者専用とされていない区画を障害者専用の区画に変更する。 カ 入庁時に金属探知機を通過することが困難な場合には,セキュリティ上の代替措置を講じた上で,別ルートからの入庁を認める。 キ 他人との接触,多人数の中にいることによる緊張等により,発作等がある場合には,当該障害者に説明の上,障害の特性や施設の状況に応じて別室や人目のつかない場所に椅子を用意するなどして待機スペースを準備する。 ク 障害の特性により,頻繁に離席の必要がある場合には,法廷であれば車椅子利用者の傍聴スペースや扉付近の傍聴席に誘導したり,弁論準備手続室や p12 調停室などであれば各室の扉付近の席に誘導したりするよう取り計らう。 ケ 裁判上の手続において,公開及び非公開の別にかかわらず,障害者の理解を援助する者が同席できるよう取り計らう。ただし,非公開の手続においては,情報管理に係る担保が得られることを前提にする必要がある。 コ 非公表情報(未公表情報を含む。)を扱う会議等において,情報管理に係る担保が得られることを前提に,障害のある委員の理解を援助する者の同席を認める。