裁判官の仕事(その1)

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裁判官という仕事について

佐々木 悠土 裁判官
経歴
平成31年1月 広島地裁
令和4年4月 京都地裁

佐々木裁判官1

裁判官になった理由

私が法曹という仕事に初めて興味を持ったのは、中学生のときでした。当時放送していた弁護士が主役のドラマで、弁護士が依頼者のために法律を武器に様々な困難を乗り越えていく姿に感銘を受けたのは、今でも覚えています。大学で実際に法律を学んでいく中でも、将来は弁護士になるのだろうという漠然とした思いを抱えていました。裁判官になるということを意識し始めたのは、ロースクールに入った頃だったと思います。ロースクールでは、裁判官、検察官、弁護士の法曹三者が教員として派遣され、民事裁判や刑事裁判の実務などについて講義を受けたのですが、そこで初めて実際に裁判官を目にしました。それまでは、裁判官というと、常に冷静で、感情を表に出さず、何を考えているかよく分からない人、というイメージがあったのですが、ロースクールで出会った裁判官はどなたも親しみやすさがあり、裁判官という存在を身近に感じることができました。また、裁判官から講義を通してその職責に対する思いを聴くにつれ、中立公正な立場で紛争解決に尽力できる裁判官という存在に魅力を感じるようになったのでした。司法試験合格後の司法修習では、各地の裁判所、検察庁、弁護士事務所で研修を受けるのですが、そこでも、裁判官が一つ一つの事案について悩みながらも解決の方向性を模索していく姿に魅力を感じました。弁護士になるかどうかは最後まで悩みましたが、最終的には、一方当事者の立場からではなく、中立公正な立場から紛争の解決を目指す方が、自分の性格に合っているのではないかと考え、裁判官になることを決めました。

担当している仕事の内容

裁判官になってみて、現在どのような仕事をしているのかをご紹介します。私は、現在までは、主に民事事件を担当しており、医療訴訟や建築訴訟などの専門訴訟にも関わってきましたが、任官4年目であり、裁判所全体から見るとまだまだ若手という位置付けですので、一人で事件を担当するということはなく、裁判官三人の合議体で審理される合議事件について、主任裁判官としてその処理に当たっています。具体的には、それぞれの事件について、どのように進行させるのがよいのかを検討したり、当事者が納得できるような和解案を作成したり、判決を起案したりしています。合議事件ですので、私が作成した進行案などについて他の裁判官の意見を聴いた上で方針を決定しており、若手の裁判官は、このような日々の執務を通して、将来単独事件を担当するための経験を積んでいくことになります。また、裁判所では同年代の裁判官同士で勉強会が組織されていることが多く、日々の業務の過程で生じた悩みなどを相談するよい機会となっています。このように、裁判官には、裁判官同士の縦・横のつながりがあるのですが、裁判というものは裁判官だけで行っているわけではありません。特に、書記官(裁判手続に関する記録等の作成・保管や、裁判官の行う法令や判例の調査の補助といった仕事をしています。)との協力関係は裁判事務を遂行するに当たって必要不可欠であり、日頃からコミュニケーションを取り、気軽に相談し合える関係を構築しておくことが重要だと感じます。

仕事のタイムスケジュール

私のような若手の裁判官が過ごす典型的なタイムスケジュールもご紹介します。裁判官の仕事の進め方は裁量が広いのですが、私の場合は、週に2回ほど裁判の期日が入っているため、期日が入っていない日に期日の準備や判決の起案などをすることが多いです。1日の流れとしては、午前9時過ぎに登庁し、メールチェックをした後、当事者から新たに提出された書面を読んで期日の準備をしたり、書記官からの相談を受けたり、裁判の期日のある日には期日に参加したりします。他にも様々な雑務をこなしていると、夕方になっていることが多いので、腰を据えて取り組む必要がある判決の起案などについては、夕方以降に行うことになります。退庁時間はその時々の仕事量により変わりますが、平均すれば午後8時頃には帰宅しているのではないでしょうか。決して楽な仕事ではないですが、前もって計画を立て、仕事の量をコントロールすることさえできれば、私生活との両立も比較的立てやすい仕事なのではないかと思います。

仕事のやりがい

裁判官という仕事について簡単に紹介させていただきましたが、実際に裁判官になってみて思う仕事のやりがいの多くの部分は、やはり、生じている紛争をどのように解決するのがよいか頭を巡らせ、和解による解決が可能か当事者を説得し、判決をすることになった場合でも、当事者が納得できるような筋道を示すという知的な作業を行うことにあるのだろうと思います。その中では、当事者間で争いのある事実について、実際には何が起こったのかを「認定」していく必要があるのですが、当事者から提出された証拠などを基に、どのようなやり取りがされたのか想像力を働かせ、ときには他の裁判官と協議しながら、検証を繰り返していくことは、大変であると同時に大きなやりがいを感じる作業です。そして、任官前はあまり想像できなかったことですが、このように一つ一つの事件に対して真摯に向き合うことで、それぞれの裁判官の判断の積み重ねが、ひいては法改正など社会全体を動かしていくこともあるのですから、そのような場面に直面するたび、裁判官という職責の重さを実感させられます。

最後に

皆さんの中には、法曹を目指しているわけではない方もおられると思いますが、このメッセージを読んで、少しでも裁判官という仕事に興味を持ち、身近な存在に感じていただければ幸いです。また、法曹を目指している方には、裁判官の仕事の魅力の一端が伝わっていれば嬉しく思います。このメッセージを読まれた方の中から、同僚の裁判官として一緒に働ける方が現れれば、これに勝る喜びはありません。