大谷最高裁判所長官による憲法記念日記者会見の概要

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 大谷最高裁判所長官は,憲法記念日を前に記者会見を行い,談話を発表するとともに,以下のとおり,記者からの質問に応じました。

【記者】

 2009年に始まった裁判員裁判制度は,今年5月に9年,来年には10年を迎えます。この9年間,裁判員経験者からは制度を好意的に評価する声が聞かれる一方,裁判で遺体写真などを見たことでストレス障害になったとして裁判員が国を訴えたり,裁判員裁判で決めた死刑や量刑が,高裁や最高裁で破棄されたりしました。改めて,裁判員制度についてどう考えているかお聞かせください。また,就任会見で『法曹三者が自分たちの役割をどれだけ果たしているか突っ込んだ議論をしていく必要がある』と発言されていましたが,就任から3か月余りたち,議論を通じて見えてきた課題があれば,教えてください。

【長官】

 裁判員制度は,刑事裁判に国民の視点・感覚が反映されることにより,司法に対する国民の理解を深めて,その信頼の向上につながることが期待されて導入されました。重大事件に裁判員制度が導入されることによって,刑事裁判全体がより良い方向に変わっていくことも期待されていました。施行から9年を経過しますが,その意義付けは変わらないと思っています。「国民に開かれた司法」という,これからの重要な制度的課題を支える柱の一つを担っていくことになると思っています。
 施行後様々な問題も生じたわけですが,全体としてみれば,これまでのところ,概ね順調に運用されているという評価を得ており,制度は,国民の理解と協力に支えられて,大きな方向性としては,当初の期待に沿って歩んできたと考えています。ただ,完成形としてのレベルで運用されているかといえば,公判前整理手続の充実あるいは裁判員と裁判官との真の意味での協働の実現といった課題が指摘されているところであり,法曹三者は,現状に満足することなく,更に努力を重ねる必要があると考えています。
 具体的には,既に1万件を超える裁判がされているのでありまして,これらの貴重な経験を総合的な視点から振り返ることが求められていると考えており,就任の際にもそのような趣旨からお話を申し上げたところです。まだ成果をお示しできる段階にはないわけですが,裁判所では,具体的な事件を素材として,司法研究あるいは各庁での事例検討会を行ってきており,これらの成果の分析を通じて,裁判所,更には法曹三者全体で,裁判官裁判時代の法曹の思考の枠組み,例えば,刑法理論の理解とか事実認定の手法という点についても議論を及ばせていくことが求められるように思います。「裁判員にどうやって分かってもらうか」ではなく,これまでの評議あるいは判決で示された国民の視点といったものを,法曹の側がどう消化し,判断内容あるいは訴訟手続の両面において,安定的,かつ時代に即した新たな裁判像をつくるという課題にどう取り組んでいくのかが,これから本格的に問われてくることになるのではないかと思っています。裁判員裁判制度が持っているその意義のスケールは非常に大きなものであり,専門家の領域に安住したままの検討は許されないということを我々は肝に銘じなければならないと考えています。

【記者】

 2016年に成立した刑事司法改革関連法で,今年6月に司法取引が施行され,裁判員裁判などで義務付けされる容疑者の取調べ録音・録画も,来年5月までに施行されます。新たに導入される司法取引について,裁判所ではどのような対応をお考えですか。また,司法取引や録音録画の法制化などで,刑事裁判の在り方がどのように変化するとお考えですか。

【長官】

 いわゆる協議・合意制度につきましては,司法研修所において,昨年6月に刑事事件を担当する裁判官が集まって研究会が実施されたと聞いています。この制度につきましては,共犯者供述の信用性というところが一つの論点になっていますが,その問題につきましては,制度が導入される以前から慎重な吟味を要するとしてその判断方法が議論されてきたところです。そういった供述が新しい制度の合意に基づいてなされた場合に,その信用性の判断の在り方はどうあるべきかといった点や,求刑合意に関して,事実上の運用とされていた求刑が制度に組み込まれることによって求刑の位置付けや量刑判断の在り方にどういう影響を与えるのかといった点などが裁判官の間で議論されたと聞いています。さらに,今年の5月には,改めて,司法研修所において,この制度に関する研究会を実施する予定となっていて,昨年の研究会以後に各裁判所で議論されてきたことを踏まえて,より深まった,充実した議論が展開されるものと期待しています。
 さらに,もとより,この制度が施行された後においても,適正な事実認定や量刑判断が行われるように,これらの研究会等での議論を素材として各庁で更に議論を深めていくことが欠かせないと考えています。
 次に,今後の刑事裁判への影響につきましては,協議・合意制度が利用される事件は限られているわけですが,そうはいっても,制度の利用が積み重ねられることによって,刑事裁判全体における共犯者供述の信用性判断あるいは求刑・量刑判断の在り方にも影響が生じることも予想されます。また,録音・録画制度につきましては,これまでも捜査段階の供述が欠かせない事件における供述の信用性判断は微妙で難しいことが少なくないとされてきたところでして,制度が法制化されることがどのような影響をもたらすかは現段階では何か具体的なことを言うことは難しいと思っています。
 いずれにしても,新たな制度が適切に運用されることによって,取調べや供述調書に過度に依存しているという指摘もなされてきた捜査あるいは公判の姿が変わってきて,刑事司法が国民から一層信頼されるものになることを期待したいと思います。

【記者】

 就任会見で『憲法に国民の目が注がれていることは大切』と発言されていました。与党内で憲法を改正しようとする動きが活発になる中,憲法に注がれる『国民の目』 はどのように変わってきたと受け止めていますか。また,改憲に向けた議論に対するお考えをお聞かせください。

【長官】

 御承知のように,裁判上の紛争は,事実認定,あるいは法律レベルの解釈をめぐって争われることが多く,そのような場合には原則として憲法問題が顕在化することはありません。しかし,憲法は,最高規範として我が国における法の支配の基盤となるものですから,ふだんから国民各層の目が注がれていること自体は大切なことであると考えて,就任会見でもそのようなことを申し上げました。もとより,社会経済が複雑高度化することに伴って社会生活上生じてくる利害関係について,憲法上の権利保護が及ぶのかどうかということが新たに問われることはあるでしょうし,国民の価値観の多様化というものが,これまでの憲法解釈上の定説について異論を生むといった事態も考えられます。裁判所としては,具体的な事件の解決に必要と判断される場合には,そうした新たな視点から提起された憲法主張の当否についても検討しなければならないということはいうまでもありませんが,憲法自体を改正すべきかどうかということになると,それは,こうした訴訟における判断とは次元を異にしているので,国民的な議論を深めてその方向性を決すべき問題であると考えています。
 ということで,具体的事件について,裁判の場で最終の憲法判断を行う立場にある最高裁判所の長が,具体的事件を離れて,憲法改正に関する議論について所感を述べることは差し控えさせていただきたい。

【記者】

 今年の3月に政府の方で裁判手続等のIT化検討会がIT化の全面実現に向けた環境整備を進めていくことが相当であると提言しましたが,その一方で司法府の自律的判断を尊重するとも言及されました。裁判所として,民事裁判のIT化についてどのように取り組んでいこうとお考えですか。

【長官】

 国民生活に関わる様々な分野での手続のIT化が進められており,それが広く国民に受け入れられていることは間違いないところです。そのような状況を踏まえれば,裁判所においても民事裁判手続等のIT化というものを見据えて検討を進めていくことが必要だと考えています。3月30日に政府における裁判手続等のIT化検討会から取りまとめが出されたわけですが,現時点で申し上げられることは,ここで取りまとめられた結果を踏まえて,関係機関と十分に連携しながら適正かつ妥当な,そして迅速な裁判の実現を図る上で真に望ましいIT化の実現に向けて,先ほど申し上げたような問題意識に基づいて検討を進めていかなければならない責任があると思っています。

【記者】

 民事裁判の中でIT化が導入されると,利用者にとっては利便性が向上するということが考えられますが,IT化が導入されることによって,国民と裁判所の距離や裁判の使い勝手の観点で,期待していることについて教えてください。

【長官】

 民事裁判手続等のIT化を導入することによって,民事裁判のどのような局面において国民との距離を縮めたり利便性を高めることとなるのかということ,それが全体としての民事裁判について「開かれた司法」とか「国民との距離がより近い司法」を実現するかということを考えていかなければならないと思います。ただ,今,具体的にどこを動かしていけばそのようなことを実現できるのか,また,どこを動かしてはいけないのかということをこの場でお答えすることはなかなかできないのです。IT化ということが,ツールとしてのITだけでなくもう少し大きな意味を持っていることは間違いないにしても,基本は,やはり民事裁判をどうするかというところを前提とした上で,そこにIT化を組み込んでいくべきかという話になるわけですから,民事裁判のあるべき姿を併せて議論していかないと,ツールとしてどういう機器が入ったということで終わってしまう可能性もあります。そこは十分気をつけながら,しかし,この検討会ではスピード感をもってやるべきだとされているわけですから,そういう要請には応えられるように,準備あるいは検討をしなければならないと思っているところです。

【記者】

 国により憲法の定め方は様々であり,国によっては憲法が度々改正されることも珍しくない中で,日本は憲法改正が具体的にこれまでされたことはありませんが,最高法規である憲法の安定性についてどのようにお考えですか。

【長官】

 先ほども申し上げたとおり,裁判所というのは具体的な解決に必要な限りで審査権を行使するべきものであり,また,そのような点について何か制度的な問題があれば司法行政としてお答えしなければならないというものと認識しております。そして,御指摘については,そういう問題が憲法学なり憲法をめぐる議論の中であることは十分承知しているところですけれども,先ほど申し上げたような枠の中では,いろいろな国のいろいろな制度がある中で,日本の裁判所は具体的な事件の中で合憲性の判断を行っていくとしか申し上げられません。

【記者】

 刑事裁判について御意見をお伺いしたいのですが,ここ一,二年の間に殺人などの重大事件で有罪が確定した人による再審請求で,地裁高裁レベルの再審開始決定が相次いでおり,それが最高裁にいくつか係属しているという状態にあります。こういう再審開始が相次いでいるという現状についての長官の認識や分析又は証拠開示の在り方など,再審制度についてのお考えをお話しいただける範囲でお聞かせください。

【長官】

 お話しできないというのが結論だろうと思いますけれども。やはり,再審については,個別の事件を通じて,再審の在り方というものの基本姿勢というのが,維持されるのか時代とともに変わっていくのかという問題なんだろうと思います。そういう意味では,御指摘のとおり相次いでいるというのが最近特有の現象なのかどうかをさておいても,現に最高裁に係属したり,下級審に係属している事件で報道されているものがあることはもちろん承知していますけれども,それだけにそれらを見て何か感じることがあるかということを,私としては申し上げられないというふうに思っています。

【記者】

 民事裁判のIT化の流れの中でいわゆる全面IT化という方針が示され,全面ということについても長官としてはその方向でやっていこうということだと理解してよろしいでしょうか。

【長官】

 取りまとめの線でということで理解していただいて結構です。

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