最高裁判所長官「新年のことば」

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令和5年1月1日

新年のことば

最高裁判所長官 戸倉三郎

 明けましておめでとうございます。新型コロナウイルス感染症のまん延がいまだ終息しない中、昨年1年間裁判所がその役割を果たすことができたのは、全国各地の裁判所で勤務する裁判所職員の皆さんの一人一人が職務を全うされたおかげであり、心から敬意と感謝の気持ちを表します。私も最高裁判所長官に就任して初めての新年を迎え、皆さんと共に、重責を果たしていく決意を新たにしました。

 さて、改めて申し上げるまでもなく、裁判所が当面する最も重要な課題は裁判手続のデジタル化です。デジタル化は、システムやデータの利活用のみならず、事務そのものを効率化してその負担を軽減することを本質の一つとします。そこで、裁判手続のデジタル化を進めるに当たっては、裁判に対するアクセスの利便性向上や記録の作成、管理、利用等の効率化などだけでなく、裁判手続全体を抜本的に見直し、裁判に関わる当事者(本人、訴訟代理人、検察官等)と裁判所職員の負担がトータルとして軽減されることを目指す必要があります。また、ディスプレイ上で記録を読む作業の負担を考えると、書面や書証を読む作業の負担の軽減は、裁判事務のデジタル化の成否を左右する重要な問題でもあります。このような裁判手続全体の見直しは、裁判の質の向上にもつながるものでなければならないのは言うまでもないことであり、近年指摘されている民事訴訟の審理期間の長期化傾向の問題も、この取組の中で改善を目指すことが望ましいでしょう。

 さらに、裁判所職員の事務負担を軽減して執務状態に余裕をもたらすことは、複雑困難な事件への対応を含む事件処理態勢の一層の強化、裁判官等の自己研さん等による成長や紛争解決に向けた創意工夫と実践の活性化、ワーク・ライフ・バランスの実現などの観点からも有益であり、裁判所の紛争解決機能の充実・強化にもつながるものです。デジタル化を契機とする裁判事務の合理化、効率化は、このような積極的意義を有するものであることを改めて強調したいと思います。長く行われてきた実務を変えることは心理的にも容易なことではありません。その意味でも、裁判事務を大きく変えるデジタル化は、これまでとは違う発想で裁判事務の在り方を見直す千載一遇のチャンスなのです。

 デジタル化の検討が先行している民事訴訟については、現在、全国の裁判所において、ウェブ会議等を利用した争点整理の実践が行われ、これと並行して全国の裁判官等による意見交換(ウェブ会議)が活発に行われています。この意見交換においては、ウェブ会議等の機能を活用した効率的な争点整理の実践例やその成果の判決書への活用方法など多岐にわたる議論がされており、正に先ほど述べた問題意識を的確に反映したものだと言えます。審理の在り方は、事件の内容、裁判官や当事者の個性などによって一様ではありませんから、様々な実践例に基づき、できるだけ多くの、誰もが活用できる選択肢が裁判官の間で共有されるという成果を期待しています。民事訴訟以外の手続についても、順次、デジタル化の検討が進んでいきますが、法改正やシステムの検討にも反映させる観点からは、早い段階から、デジタル化後を見据えた審理の在り方等を検討することが望まれます。

 裁判所全体で見ると、同種の事件を担当する裁判所職員の経験の長短や広狭、時間的制約の程度は様々であり、これらを部の中で補い合い、共有し、継承するということが部の果たす機能です。この機能をより実効あるものにするためには、経験が十分ではない裁判所職員や時間に制約のある裁判所職員が負担を感じている部分を客観化し、それに対する対処等も含めて、経験豊かな裁判所職員の個別事件への対応や手持ち事件全体のマネジメントに関するノウハウ等を何らかの形で言語化して、これらの情報を組織全体で共有しておくことが有益です。経験豊かな裁判所職員が長年の経験で身に付けたノウハウを「無形文化財」のままにしておくのは余りにも惜しいことであり、裁判所全体の叡智を結集して裁判手続全体の抜本的な見直しという困難な課題に取り組む観点からも、このような「知の承継」の意義は大きいと思います。

 デジタル化のためのシステム開発においては、これを利用する裁判所職員の意見、感覚を的確に反映していくことが不可欠です。そのためには、システム開発を担当するデジタル推進室と裁判の第一線の裁判所職員との間でオープンな意見交換を重ねることが重要です。特に、(気持ちの)若い裁判所職員の皆さんには、自分たちが新しい裁判システムを作るのだという気持ちで、積極的に関わっていただくことを期待しています。その際、事件の審理や判断に関する裁判官の専権に属するもの以外の事務については、可能な限り簡素化、標準化するという発想も大切です。

 終わりに、本年が皆さんにとっても良い年になることをお祈りするとともに、新しい裁判に向けた取組が着実に進むことを期待して、新年の挨拶といたします。

  1. 裁判所について
    1. 裁判所の組織
      1. 概要
      2. 最高裁判所
      3. 下級裁判所
    2. 裁判所の仕事
    3. 裁判所の予算・決算・財務書類
      1. 裁判所の予算
      2. 令和5年度予算
      3. 令和4年度予算
      4. 令和3年度予算
      5. 令和2年度予算
      6. 平成31年度予算
      7. 平成30年度予算
      8. 平成29年度予算
      9. 平成28年度予算
      10. 平成27年度予算
      11. 平成26年度予算
      12. 裁判所の決算
      13. 省庁別財務書類等について
      14. 令和3年度省庁別財務書類
      15. 令和2年度省庁別財務書類
      16. 令和元年度省庁別財務書類
      17. 平成30年度省庁別財務書類
      18. 平成29年度省庁別財務書類
      19. 令和元年度政策別コスト情報
      20. 平成30年度政策別コスト情報
      21. 平成29年度政策別コスト情報
    4. 各種委員会
      1. 最高裁判所家庭規則制定諮問委員会
    5. 裁判所の情報公開・個人情報保護
      1. 裁判所の情報公開・個人情報保護(令和4年6月30日までのもの)
      2. 司法行政文書開示手続
      3. 保有個人情報開示手続
    6. 裁判所の環境施策
    7. 裁判所の災害対策等
    8. 裁判所における障害者配慮
    9. 裁判所における犯罪被害者保護施策
      1. 犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況(高・地・簡裁総数)
      2. 刑事手続における犯罪被害者のための制度
      3. 被害者保護制度に関する少年事件Q&A
    10. 広報誌「司法の窓」
      1. 司法の窓 第88号
      2. 司法の窓 第87号
      3. 司法の窓 第86号
      4. 司法の窓 第85号
      5. 司法の窓 第84号
      6. 司法の窓 第83号
      7. 司法の窓 第82号
      8. 司法の窓 第81号
      9. 司法の窓 第80号
      10. 司法の窓 第79号
      11. 司法の窓 第78号
      12. 司法の窓 第77号
      13. 司法の窓 第76号
      14. 司法の窓 第75号
      15. 司法の窓 第74号
      16. 司法の窓 第73号
      17. 司法の窓 第72号
      18. 司法の窓 第71号
      19. 司法の窓 第70号
      20. 司法の窓 第69号
      21. 司法の窓 第68号
      22. 司法の窓 第67号
      23. 司法の窓 第66号
      24. 司法の窓 第65号
      25. 司法の窓 第64号
      26. 司法の窓 第63号
      27. 司法の窓 第62号
      28. 司法の窓 第50号(最高裁判所50周年記念号)
      29. 司法の窓 裁判員制度特集号
    11. 司法制度改革
      1. 司法制度改革:21世紀の司法制度を考える
      2. 司法制度改革:21世紀の司法制度を考える
      3. 司法制度改革:21世紀の司法制度を考える
      4. 司法制度改革:司法制度改革推進計画要綱
      5. 司法制度改革:21世紀の司法制度を考える(資料一覧)
    12. トピックス
      1. 最高裁判所長官「新年のことば」(令和5年1月1日)
      2. 岡正晶最高裁判事就任記者会見の概要
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      6. 堺徹最高裁判事就任記者会見の概要
      7. 安浪亮介最高裁判事就任記者会見の概要
      8. 渡邉惠理子最高裁判事就任記者会見の概要
      9. 欧州評議会オブザーバー参加25周年記念あいさつ
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      15. 裁判所職員総合研修所の研修について
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      17. 大谷最高裁判所長官による憲法記念日記者会見の概要(令和4年5月掲載)
      18. 戸倉最高裁判所長官による憲法記念日記者会見の概要(令和5年5月掲載)
      19. 憲法記念日を迎えるに当たって(令和4年5月掲載)
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      24. 大谷最高裁判所長官による記者会見「裁判員制度10周年を迎えて」の概要
      25. 裁判員制度10周年を迎えて
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      29. 特集 調停制度発足100周年
      30. 「民事訴訟管理センター」から届く「総合消費料金未納分訴訟最終通知書」と題する不審なはがきにご注意ください
      31. 政府インターネットテレビでの紹介(簡易裁判所)
      32. 郵便物の例
      33. 「東京地方裁判所 民事訴訟部」等の名前を騙る郵便物に御注意ください。
      34. 「地方裁判所 民事訴訟部」の名前を騙る郵便物に御注意ください。
      35. 「東京地方裁判所直轄の訴訟支援センター」を名乗る不審な電話にご注意ください。
      36. 「地方裁判所」の名前を騙る,はがき記載の連絡先に電話をするよう促すはがきに御注意ください。
      37. 電子メールの例
      38. 「最高裁判所の書記官」を名乗る,裁判所への来訪を求める内容の不審なメールにご注意ください
      39. 「国民消費生活組合」を名のる 「訴訟履歴がマイナンバーへ登録されます」 という内容の不審なメールにご注意ください
      40. 電話の例
      41. 払込領収書を裁判所に送付するよう求める不審な電話にご注意ください
      42. 「東京簡易裁判所の書記官」等を名乗る,裁判所への来訪を求めたり,金銭の振り込みを求める内容の不審な電話にご注意ください
      43. 裁判所や検察審査会を騙った,あるいは,裁判員制度を装った不審な電話にご注意ください
      44. 調停手続相談のお知らせ
      45. 裁判所の手続を悪用した架空請求等にご注意ください。
      46. 「あなたのキャッシュカードが悪用されている。カード利用停止のためにカード等を預かる。裁判所に連絡すれば返金される。」旨の不審な電話に御注意ください。
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      48. 警察等を名乗って訪問し,キャッシュカードを裁判所へ送付するよう求めて封筒に同カードを入れさせてすり替える手口に御注意ください。
      49. フランス破毀院と最高裁との意見交換会について
      50. 英国(イングランド・ウェールズ)記録長官オンライン講演会について
      51. カナダ最高裁長官とのオンライン司法会合開催について
      52. 戸倉最高裁判所長官の就任談話
      53. ドイツ連邦共和国デュッセルドルフ高等裁判所長オンライン講演会を開催しました。
      54. 全国の高等裁判所及び地方裁判所でウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用を開始しました。
      55. カナダ最高裁長官とのオンライン司法会合を開催しました
      56. 欧州人権裁判所長官とのオンライン司法会合を開催しました
      57. 元ドイツ連邦憲法裁判所判事ヨハンネス・マージング教授が最高裁判所を訪問しました。
      58. チェコ最高裁判所長官が最高裁判所を訪問しました。
      59. タイ最高行政裁判所副長官が最高裁判所を訪問しました。