「法の日週間に寄せて」


「法の日に寄せて」

福岡地方裁判所長 平 田  豊  



 10月1日は,「法の日」です。
 これは,昭和3年10月1日に陪審法が施行されたことに由来しており,昭和35年6月,政府は,毎年10月1日を「法の日」と定め,国を挙げて法の尊重,基本的人権の擁護,社会秩序の確立の精神を高めるための日としました。
 この陪審法が定めた「陪審」とは,刑事事件について国民の中から抽選で選ばれた陪審員が評議,答申を行う制度であり,国民の司法参加の制度として,現在の裁判員制度の先駆けともいえるものです。陪審制度が始まった日をきっかけに,あらためて国民の皆さんに法の役割や重要性を考えていただければ幸いです。
 10月1日からの1週間は「法の日」週間とされており,例年,全国各地の裁判所で広報行事が実施されていますが,今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から,福岡地方裁判所では,対面で行う広報行事の実施は見送ることとしました。そこで,今年は,身近な裁判所の制度をご紹介することでこれに代えたいと思います。
 裁判所の中で最も身近な存在として,全国で438か所に設置されている簡易裁判所というものがあり,福岡県内には,福岡簡易裁判所をはじめとして,14の簡易裁判所が設置されています。簡易裁判所では,皆さんの身近な民事紛争を解決するために,「民事調停」,「支払督促」,「訴訟」,「少額訴訟」といった手続が用意されており,多くの方に御利用いただいています。今回は,これらの中でも,利用しやすく比較的早期に解決が図れる民事調停の手続について御紹介します。
 皆さんの中にも「調停」という言葉を聞いたことのある方もいらっしゃると思いますが,争いのある当事者が,信頼できる第三者の仲介の下に話し合い,合意を成立させて紛争を解決するという方法は,普遍的なものであり,どの時代,どこの社会でも行われてきたことです。しかし,公の紛争解決制度として国家がそのような手続を設けている国は稀であり,我が国の調停制度は諸外国と比べても珍しい存在だといえます。
 民事調停は,身近で起きたトラブルについて,調停主任である裁判官又は民事調停官と民間から選ばれた民事調停委員2名の合計3名が調停委員会を構成し,当事者の間に入って行われる話合いにより円満な解決を図る手続です。調停手続に要する費用は,訴訟に比べて低額で済むようになっているほか,訴訟のような厳格な手続は要求されていないため,申立てをするに当たって特別な法律知識は必要なく,申立ての準備や手続を進めるための労力も訴訟に比べて少なくて済むといった特徴があります。解決までに要する時間も訴訟に比べて短期間で済みます。
 裁判所職員(民事調停委員を含みます。)には守秘義務が課せられているほか,手続自体非公開の調停室で行われるため,他人に知られたくない事情等も調停の場において,安心して話していただくことができます。
また,解決のために専門的な知識を要するような場合には,その分野に明るい調停委員(交通事故であればアジャスターや損害保険会社等での実務経験者,医事関係であれば医師,建築関係であれば建築士,以前に同種の調停事件を担当した経験のある調停委員等)を選任するなどの工夫をしています。
 調停が成立した場合,合意内容を記載した「調停調書」を作成します。同調書は,判決や和解と同じような効力を持っており,合意内容によっては,これを守らない相手方に対して,強制執行することもできます。
 今回は,身近で起きたトラブルを解決できる民事調停を御紹介しました。トラブル解決の一つの選択肢として,民事調停の利用についても御検討ください。