第34回さいたま地方裁判所委員会【議事概要】 第1 日時    令和元年5月23日(木)15:00〜17:00 第2 場所    さいたま地方裁判所大会議室 第3 出席者   【委員】  石井俊和,岩元正一,黒金英明,小嶋一晃,雑崎徹,重川純子,設楽あづさ,大善文男(委員長),木太郎,藤岡麻里,松村徹,丸岡庸一郎,武藤京子,森田茂夫(五十音順,敬称略)   【説明者】    民事首席書記官関口良正,裁判員調整官武田明彦,事務局長小野昭   【オブザーバー】  刑事首席書記官,事務局次長,総務課長,総務課課長補佐,総務課庶務係長 第4 議題    「障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応について」 第5 議事 1 開会 2 委員交代の紹介及び委員からの自己紹介 3 委員長の選出 4 委員長代理の指名 5 障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応について  (1) 説明  松村委員,石井委員及び上記説明者からさいたま地方裁判所における障害者対応等について説明が行われた。  (2) 意見交換 (委員)  裁判員裁判はビジュアル的に分かりやすい審理が行われていると思うが,視覚障害のある方が裁判員裁判に参加する場合,どのように審理を行うのか。また,高齢者などで,本人が認知症であるということを自覚していない場合には,どのように対応するのか。 (委員)  裁判員裁判において,必ずしも視覚情報によらなくても,それを補う方法により事実の認定が可能な事件では,視覚に障害のある方にも裁判員や補充裁判員を務めていただき,主張立証の関係では聞いて理解ができるよう,検察官や弁護人に工夫をしてもらっている。 (委員長) 書面を読み上げたりする場合もあると思うが,点字を使用することはあるか。 (委員)  刑事法廷では書面は全て読み上げることになっているが,後から見直す必要がある場合には,点字に訳して情報提供するということも考えられる。 (委員長) 認知症の方への対応について,裁判所の研修の観点ではどうか。 (事務局長)本人が認知症である自覚がない場合を想定した研修はまだ実施していないが,今後そういう方への対応をテーマにした研修を実施することも検討したい。 (委員)  私の経営している弁護士事務所はビルの6階にあるが,エレベーターもありバリアフリー対応であるため,障害のある方への対応に苦労することはない。視覚障害や聴覚障害がある方の対応をすることは多くないが,そのような場面では介助者を連れてきてくれるので,そういう点では裁判所に比べて対応は容易である。なお,精神疾患を抱えている方に対して感情的な対応をしないように心掛けている。 (委員)  障害者の中で多くの割合を占める視覚障害や聴覚障害をお持ちの方への対応方法は多くあると思うが,例えば識字障害であるとか,外見上障害が分かりにくい人への対応はどうか。裁判所のホームぺージは手続や書式の説明など,情報が充実している印象であるが,識字障害の人のための音声読み上げ機能はあるか。ないのであれば,音声で情報を伝えるような工夫がされると良いと思う。 (事務局長)裁判所のホームページは,それ自体に掲載内容を読み上げるような機能はない。様々な手段を使って情報を伝えることを考えると,そういう方法も必要であると思う。 (委員)  裁判員裁判について長期化が問題になっているが,障害のある方が裁判員に含まれる場合,そのことによって審理が更に長期化し,ほかの裁判員から不満が出たりしないのか。 (委員)  裁判員裁判では,まず,審理・評議に何日間必要かを決めて審理計画を立てる。そこで立てた審理計画を前提として裁判員候補者や補充裁判員候補者を選ぶので,障害を持つ方が参加することを理由に審理や評議の時間を延ばすことはない。むしろ,立てた審理計画の範囲で,いかに障害者に対する配慮をしながら充実した評議を行うかという観点から工夫をしていくことになる。私の経験から言うと,聴覚障害者の方が参加した裁判において,スピードに対するストレスはなかった。複数で同時に話さないようにするなどの配慮は必要であったが,評議が通常より長期化したということはなかった。 (委員長) 検察官の立場からは,障害を持った方が裁判員として参加している裁判で工夫している点はあるか。 (委員)  私自身は障害を持った方が参加した裁判を担当した経験はないが,検察庁においても障害を持つ方の対応については様々な工夫が必要になってくると思う。通訳の確保は難しい問題であるし,通訳者に効果的に役割を果たしてもらえる態勢作りも大事になってくると思う。 (委員)  障害者配慮についての研修を行うことは重要だと思う。裁判所の研修の対象者や参加人数はどうなっているのか。また,転勤する職員の受ける研修が重複しないようにするために,全国的な調整などは行っているか。 (事務局長)当庁では原則として,業務で窓口対応をする職員を対象とした研修を行っている。平成29年度及び30年度はいずれも40名程度参加している。研修のテーマについては,裁判所間で必ずしも調整ができているわけではないが,多様な企画を実施することを念頭に,担当者においては情報共有しながら実施している。 (委員長) 障害者配慮に特化した研修ではないが,裁判官が参加する研修にも障害者配慮についての研修が含まれている。 (委員)  当庁において実施する研修でも,一般職員向けの研修に毎回相当人数の裁判官がオブザーバーとして参加している。 (委員)  精神疾患があり,裁判所の中でも当事者同士顔を合わせられないといった方に裁判所が組織として対応していることはあるか。 (委員)  民事紛争事件では,うつ病をはじめとする精神疾患を持った方が散見されるが,そういう方に対しては,各裁判体が必要な配慮を行っている。具体的には,裁判所内で鉢合わせをしないように別室の控室を準備したり,当事者の了解を得た上で,期日で同席させないなど必要な範囲で配慮を行っている。このような対応は,障害者配慮の面だけでなく,適正な審理を行うという観点からも一般的に行われていることだと思う。 (委員長) 他の機関における障害者に対する合理的配慮の事例について御紹介いただきたい。 (委員)  埼玉県庁の男女共同参画課においては,外部機関の紹介や他機関との連絡調整を行っている。新都心にある男女共同参画推進センターと協力して,電話やメール,面談などで相談・問合せ等に対応している。また,ハードの面では,執務室のドアを引き戸にするなどバリアフリー化され,車いすに対応できるようになっている。筆談が可能である旨の貼り紙をしたり,手話通訳の希望があれば派遣要請もしている。それ以外の関連施設もバリアフリー化しているが,不完全なところもあるので,これらの整備が今後の課題である。そのほかの取組としては,一般県民向けの啓発講演会を行う場合,車いすの方が利用可能な会場を使用したり,手話通訳の対応等に努めている。 (委員) 検察庁も法律で定められている国の行政機関に該当することから,職員が適切に対応するための対応要領を定めている。具体的な取組としては,不当な差別的取扱いの禁止に関するもの,合理的配慮の提供に関するもの,監督者の責務に関するもの,相談体制の確保に関するもの,研修・啓発に関するものについて要領を定めている。合理的配慮の点では,本庁及び支部の一部に車いす対応エレベーターを整備したり,スロープや障害者対応のトイレを設置するほか,車いすの整備等も行っている。本庁においては入口に金属探知ゲートを設置しているが,車いすの来庁者に対しては携帯式の探知機で対応している。意思疎通困難者に対する配慮としては「電子ノート」といった筆談具を準備している。相談体制の整備としては,ホームページ上に相談窓口の情報を掲載している。研修・啓発関係では,管理職クラスの会議において障害者雇用に関し外部講師を招いて研修を行った。 (委員) 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が行政機関を対象にしていて裁判所を対象にしていないのは,三権分立が関係しているからなのか。 (委員) 裁判所が作っている対応要領は全て法律に準拠したものとなっているので,実質的には法律があるのと同じ対応であると理解している。 (委員) 裁判所が法律に従って対応要領を作り,それに沿った対応をしているということを広く知らせていくことが重要だと思う。裁判員制度が始まる時に裁判員制度を周知するために広報活動に力を入れていたと思うが,障害者配慮についても取り組んでいる内容を広く知らせて積極的に利用してもらうことが重要だと思うが,そういった広報活動は行っているのか。 (事務局長)障害者にとっても裁判所は利用しやすいということをアピールするのは非常に重要なことであると認識している。効果のある広報活動を行うことが今後の課題である。 (委員) 裁判所のホームページでは「裁判所における障害者配慮」というページで対応要領を掲載した上,相談窓口も掲載して案内している。 (委員) 裁判所が様々な取組をしていることはよく分かった。障害者対応というのは障害者自身がどう思うかが重要だと思うが,例えば裁判員を経験した障害者にヒアリングをするなどの組織的,制度的な取組はあるのか。 (委員)  裁判員については,裁判後に記者会見を行っており意見を聞く機会がある。私の担当した事件では,聴覚障害をお持ちの方が感想を述べたことがあったが,その方の意見は「一人ずつ発言してもらうようにという注意が十分にされていたし,特に不安はなかった。分かりやすい評議もできて自分の意見も言えた。ただ,専門用語については早口でやり取りをされると分かりにくい場面もあった。」というものであった。障害を持ちながら裁判員として参加される方はモチベーションが高いのではないか。自分が参加した感想を多くの人に共有してもらい,障害者も裁判に参加できるのだということを広く知らしめたいという思いがあるように思う。裁判員制度10周年に関する報道でも,障害を持って参加した方の感想が報道されている。そのような内容を裁判所が今後の執務の参考にすることはある。 (委員長) 障害の有無にかかわらず,裁判員には事後にアンケートを実施して,良かった点や問題点を挙げてもらって今後の参考にする取組をしている。 (委員) 民事の関係では,私の知る限り,当事者や代理人に対して事後的にヒアリングを行っていることはないと思う。しかし,個々の事件で要望が出れば可能な限り対応していくことになる。 (委員) 障害には非常にたくさんの種類があるので,その全てに対して100パーセント解決するのは無理なことであり,最終的には人が手を差し伸べないといけないということを改めて感じた。高齢者や障害を持った方が裁判所へ来ずに,画像を通じて手続に参加できるようなものは検討されているのか。 (委員) 政府において「民事裁判手続のIT化」という取組が進められている。さいたま地裁においては,来年5月からコンピュータを通したテレビ会議,いわゆるウェブ会議を試みる予定になっている。これは,裁判所と弁護士事務所を結ぶことを想定しているので,直接的な障害者対応ではないが,いずれIT機器を何らかの方法で障害者対応等に活用できる時代も来るかもしれない。現在の法律でも,裁判所の専用回線を使用したテレビ会議システムというものがあり,証人が遠隔の地に居住していて当該裁判所に出頭しにくい場合に,最寄りの裁判所に出頭してもらい,裁判所と裁判所を回線でつないで証人尋問を行うことができるようになっている。 (委員) 職業上,市町村庁舎や消防庁舎の建築に関わることがあるが,いくら設備を整えてもソフト面が十分でなければ対応できないと感じている。障害には様々な種類があるが,情報収集をし,情報を共有することが大切だと思う。また,人間のマナーに訴えるだけでは限界があり,例えば障害者用駐車場をブルーに塗装するなど,外見上はっきりと示すことも必要であると思う。 (委員) 県警でも法律に基づいて対応要領を定めていて,同様の取組をしている。手話通訳などの対応をしているが,引き続き取り組んでいきたいと思う。 第6 次回のテーマについて    委員から意見を募集した上で決定することとなった。 第7 次回期日    令和元年11月15日(金)午後3時 - 1 -