第35回さいたま地方裁判所委員会議事概要 第1 日時    令和元年11月15日(金)15:00〜17:00 第2 場所    さいたま地方裁判所大会議室 第3 出席者 【委員】 石井俊和,岩元正一,黒金英明,小嶋一晃,雑崎徹,設楽あづさ,大善文男(委員長),木太郎,藤岡麻里,松村徹,丸岡庸一郎,武藤京子(五十音順,敬称略) 【説明者】 裁判員調整官武田明彦,総務課課長補佐間邊宏 【オブザーバー】 民事首席書記官,刑事首席書記官,事務局長,総務課長,総務課課長補佐,総務課庶務係長 第4 議題 「さいたま地裁における裁判員裁判について〜より広く参加していただくためには何をすべきか〜」 第5 議事 1 開会 2 議題についての説明及び質疑応答 (1)裁判員制度の概要及び裁判員候補者の辞退率・出席率の現状について  ア 説明 石井委員から,裁判員制度の概要及び裁判員候補者の辞退率・出席率の現状について説明が行われた。 イ 質疑応答 (委員)裁判員候補者が辞退を申し出た場合には,エビデンスを求めているか。 (委員)学生であることを理由に辞退を申し出る方については,学生証の写しを提出するようにお願いしている。そのほかの,仕事や介護,育児などを理由とする辞退の場合は,回答書に記載された内容から辞退事由の有無を判断するが,比較的柔軟に辞退を認めているのが実情である。 (委員長)全国的に裁判員候補者の辞退率が上昇している状況について,御意見を伺いたい。 (委員)最高裁の広報などを見ると,裁判員経験者の方については,参加して良かったという感想が多いが,世間の趨勢を見ると,制度を理解していなかったり誤解している国民が多いことは,残念なことだと思う。 (委員)世界的にみると陪審制をとっている国も多いと思うが,そういった国と比較したデータはあるのか。先行する諸外国との比較がないと,裁判員制度の辞退率が高いのか低いのか判断しにくい。また,制度創設時に辞退事由を定めたときに,どのような人たちが辞退を申し出るか,ある程度予測できたのではないか。学生や70歳以上の方については人数もある程度把握できたと思うので,そういった人たちが参加するのか辞退する方向になるのか予測し,その対策を立てるべきだったのではないか。制度開始当初の辞退率と比べて現在の辞退率が上昇していることを問題と捉えるか,あるいは,当初の辞退率50パーセントという数字がそもそも高いと捉えるかで評価も変わってくると思う。 (委員)裁判員制度を始めるにあたり,諸外国の陪審制度や参審制度を相当研究した上で制度を導入したわけだが,現在の状況を諸外国と比較した資料はない。また,辞退事由を定めるに当たって,最高裁が,相当程度,社会調査を行ったという記録はあるが,具体的に辞退事由ごとの辞退率の予測をしたかどうかは定かではない。 (委員)新聞報道などでは,社会の広い層から人選をすべきだという視点で報道がされているように,出席率自体より,出席者の属性が偏らないことの方が大切なのではないかと思う。候補者として裁判所に来られる方の人数だけを見れば,裁判が開けないほど人が集まらないということはないし,弁護士として裁判員裁判に関わってきた自分の経験からすると,実際に選任された裁判員の属性に偏りがあるという印象もない。将来,辞退率が更に上昇し,例えば裁判員候補者になる人が学生だけになったり,無職の人だけになってしまうといったことの方が問題だと思う。 (委員) 最高裁による裁判員制度施行10年の報告では,現実に選任された裁判員の構成はおおむね現実社会の縮図であると評価されている。裁判員に選任された方の年齢構成・男女比・職業分布と,国勢調査によって示されている国民の分布とを比較するとそれほど違いはないため,このように評価されているものと考えられる。 (2)辞退率上昇・出席率低下の原因について  ア 説明 石井委員から,辞退率上昇・出席率低下の原因について説明が行われた。 イ 質疑応答 (委員)審理日数の増加という場合の「日数」は,審理も評議も行われない休みの日も含む延べ日数か,それとも裁判所へ行く日だけを指す実日数か。 (委員)実日数である。延べ日数を考えると,更にもう少し長くなっているかもしれない。 (委員)平成29年に最高裁からの委託で報告書をまとめた業者の比較の手法は,具体的にどのような方法か。 (委員)それぞれの指標ごとに,変化の状況と,辞退率の上昇・出席率の低下とを並べてみて,正の相関があるかどうか検証する方法である。 (委員長)審理日数の増加の原因はどういうところにあると思うか。 (委員)平成21年の制度開始直後は,比較的争いのない自白事件が中心であり,否認事件の数は非常に少なかったため,本来の姿を反映していないデータである可能性がある。その後,否認事件や大型事件についても裁判員裁判が実施されるにつれて,かなり審理を要する事件もデータに反映されるようになり,その結果が審理日数の増加として現れたと言える。平成25年頃になってくると,それだけでは説明のできない面が出てくるが,最近は審理であっても評議であっても慎重に進める傾向にあり,その結果が審理日数の増加に現れてきているのだと思う。 (委員)審理日数が増加しているといっても,3日間が5日間になることはあっても,20日間とか40日間に増えたということはなかったはずで,そうなると,審理日数の増加それ自体が辞退の増加の主な原因とは言えないのではないか。それよりも,裁判に関わること自体が嫌だとか面倒だと思われていることが原因なのではないか。 (委員)裁判員経験者の「こういう点が大変だった」という意見から,裁判に参加することをためらわせる要因が何であるかを推測できるような点はないか。 (委員)裁判員経験者の意見を基に,辞退者の事情を把握することは難しいが,以前は,裁判員の方が裁判に拘束される時間をなるべく短くするという発想から,選任された翌日あるいは当日から裁判を行うというスケジュールだったのが,家庭や職場との調整をするためや,心の準備のために時間的な余裕がほしいという意見が聞かれたため,裁判の開始を選任日の翌週にするなど,経験者の意見を取り入れて改善している。 (委員)裁判員は大変だという印象を持っている人は多いと思う。しかしそれは,裁判員制度が世間に認知されてきたことの結果であるとも言えるのではないか。裁判員をやってつらい思いをされた方の話などを聞き,裁判員制度がどんなものであるかを知ったために心理的負担になっているのではないか。今は過渡期であると捉え,裁判員制度の意義を説明していくことで解決できるのではないか。 (3)裁判所が実施してきた対応策について  ア 説明    上記説明者らから,裁判所が実施してきた対応策について説明が行われた。 イ 質疑応答 (委員)裁判員の選任手続で,出席率の向上のために裁判所が様々な工夫をしていることが良く分かった。書面による回答で当初辞退を申し出たものの,認められずに選任手続に出席した方が,結果として出席して良かったという感想をもった例はあるか。 (説明者)裁判員に選任された方は,経験して良かったという感想を持つことが多いことは分かっているが,選任された方が,当初は辞退を希望していたかどうかまでの調査はしていない。 (委員)さいたまでは,選任期日の呼出状に宿泊施設の案内を同封しているとのことだが,実際に宿泊施設を利用した人はいるか。 (説明者)裁判員候補者の住所を基に,前泊を必要とするかどうかが把握できるので,そういった方に案内を同封している。具体的な人数は把握していないが,宿泊を必要とする方の割合は,一回の選任期日に一人から二人程度である。 (委員) 埼玉県では,県南部と県北部と言ってもそれぞれが広範囲であるし,宿泊施設があっても,遠隔地から浦和の裁判所へ来ることをおっくうに思う人もいるのではないか。また,辞退率の高い職業などはあるか。 (説明者)どの職業の方が辞退率が高いかということは分からない。 3 意見交換 (委員)裁判員の辞退率が上昇していることは問題ではあると思うが,それでも33パーセントの人が参加している。選挙の投票率が5割を切っていることを考えると,かなりの人数が参加しているとも言えるのではないか。裁判員制度はプロの裁判官でない人が裁判に参加することに意義があるのだから,裁判員の構成が偏らないように手当をした上で,裁判に参加しても良いという人をあらかじめ登録しておくということはできないのか。そうすれば,現状の3割を上回る人数を確保できると思う。 (委員)これまでは,そういった発想では行われてこなかった。裁判員候補者を抽出する際に,本人の意欲・関心の程度は考慮されていない。ただし,裁判員経験者のアンケートなどでは,意欲のある人に参加させたら良いのではないかという意見が出ることはある。 (委員長)参加しても良いという人たちを事前に集めておくとした場合,その中から偏りなく裁判員を構成することは可能であると思うか。 (委員)裁判員に選ばれる人が年間6000人程度であることを考えると,十分可能であると思う。母集団全体でみると,年齢や職業などに偏りはできるかもしれないが,1裁判当たりの6人の裁判員を偏りなく構成することは簡単であると思う。また,嫌々出席した人が裁判をやるよりは,多少なりとも意欲のある人がやるほうが,制度趣旨にも合っていると思う。 (委員)裁判員裁判の対象が重い犯罪を対象としているので,そのことが参加を躊躇させる一因となっているのではないか。対象事件を変更するような動きはあるのか。 (委員)国民の重大な関心事であるからこそ国民の意見を反映させたいという発想が根本にある。その発想自体は当初から変わっていないが,対象となる罪名そのものではなく,通常よりも長期間になるなど,裁判自体が裁判員に多大な負担をかける事件については,裁判員裁判から除外するという改正が行われた。なお,現在のところ対象犯罪を見直すという動きはない。 (委員)夜間や土日に開廷すれば仕事を持っている人が参加しやすいと思うが,そういった議論は行われているか。 (委員)裁判には多くの関係者が関与するので,夜間や土日に開廷することは現実的には難しいと考えている。ただ,そういう指摘があることは承知している。 (委員長)確かに,そのような意見はよく聞かれるが,日中仕事をして夜間に裁判に参加する,あるいは,平日仕事をして土日に裁判に参加するとなると,裁判員の方の負担も相当なものになるという意見も一方ではある。 (委員)辞退率の上昇については,裁判員制度に対する関心の低さが一番の問題ではないか。それを改善するために,テレビで広告を流すなどしたらどうか。例えば,地元テレビ局を使って,会社経営者の方に従業員が裁判に参加することのメリットなどを話してもらえば,仕事を理由とする辞退の減少に効果があるのではないか。また,裁判員経験者の感想を新聞などで取り上げてもらい,経験者の生の声を国民に届けていくことも必要ではないか。そのために,どういう記事なら,より国民に訴えかけられるかといったことを,記者と懇談を深めて議論していくことが必要だと思う。 (委員)裁判員制度10年という節目を迎えて,各メディアにより,多くの報道がされているところであるが,例えば,インターネットの動画投稿サイトに裁判員経験者の出演する動画を投稿するような,目新しいことがあれば,報道する側としても取り上げやすい。 (委員)テレビによる広報活動の視点でいうと,「絵になるかどうか。」が重要になってくる。どうやったら効果的な広報活動になるかなど,テレビ局としても協力は惜しまないつもりである。ただ,広報活動を充実させたからといって,裁判員をやっても良いという人が劇的に増えることはないと思う。3割の人がやっても良いと言っている現状を前提に,呼出人数を増やしたらどうか。呼出人数の絶対数を増やせば,裁判員を経験しても良いという人をより多く確保できるのではないか。 (委員)辞退する人については,そもそも裁判員になることに消極的な人と,参加はしたいが様々な事情で参加できない人との,二種類に分けられると思う。前者については,今後も地道な広報活動を続けていって,どれだけその数を減らせるかだと思う。後者については,仕事を理由とした辞退が多いが,今は「CSR」すなわち企業における社会的な責任といったことが注目されているので,例えば,行政とも連携して,裁判員制度に協力する企業に対して認証する制度を作ることも考えられるのではないか。 (委員)報道機関による広報活動も重要であるが,学校等で裁判員制度の意義や価値を子供たちに教育していくことでずいぶん違ってくるのではないか。そういう教育を受けた子供たちが大人になった時に,次世代に伝えていってくれれば良い循環が生まれていくと思う。 4 前回委員会テーマに関する報告   松村委員から,前回委員会での協議結果(障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応について)を踏まえた裁判所の取組み及び改善点について報告が行われた。 5 閉会 第6 次回のテーマについて    委員から意見を募集した上で決定することとなった。 第7 次回期日    未定(令和2年5月頃)