憲法週間の寄稿文(仙台簡易裁判所)

調停制度発足100周年~調停委員と共に~

仙台簡易裁判所判事(司掌者) 山田 和則

 「調停委員の方から『お話を伺いながら一緒に解決策を考えてきました。これまで長いお付き合いがあったのですね。お互いに相手のことも考えて少しずつ譲ることはできませんか。ここで解決すれば、また親しくお付き合いができるようになるかもしれません。そうでないと、この先ずっと後悔することになりませんか。』といわれ、調停案を受け入れることにしました。どうすればよいか迷っていましたが、その一言で決心がつきました。大変ありがとうございます。」

 調停委員から耳にした簡易裁判所の民事調停の一場面です。いつもこのように争いごとが円満に解決するとは限りませんが、調停委員からは、当事者の話に耳を傾けて説得に努めたことで、長い間のわだかまりが解けて争いごとが解決し、当事者のほっとした表情を見たときに、大変やりがいを感じたという声をよく聴きます。

 民事調停は、通常、裁判官と2人の調停委員がひと組になって、民事の争いごとについて当事者から事情を聴き、解決に向けた話し合いを進める手続きで、「条理にかない実情に即した解決を図ること」を目的としています。そして、調停委員は、一般市民の方々の中から最高裁判所によって任命された非常勤の裁判所職員ですが、裁判官のほかに調停委員が手続きに参加するのは、裁判官の法律専門家としての知識経験と、調停委員の「市民としての健全な社会感覚」が合わさることで、法律だけでなく社会常識にも適った解決を図ることが期待できるという考え方に基づいています。冒頭に挙げた調停成立時の当事者の言葉も、「健全な社会感覚」を有する調停委員からの説得の言葉に心を打たれたのだと思います。

 一般に、民事の裁判手続というと、金銭や土地などを巡る争いごとについて判決を求めて訴える民事訴訟を思い浮かべる方が多いかと思います。しかし、こうした争いごとの中には、争う相手が近隣の方や旧知の方であったり、親族であったりすることもあります。このような場合、裁判所に申立てをするとしても、いきなり判決を求めて白黒をつけるというのではなく、まずは話し合いによる解決を試みるのがよいと思います。その際、簡易裁判所に民事調停を申し立てることが選択肢の一つになるのではないでしょうか。そして、民事調停では、調停委員が、当事者と同じ目線で事情をしっかりと聴いて、裁判官とともにその解決策を探る役割を果たします。当事者としても、自分と同じ目線で話を聴いてくれ、知識と経験に裏打ちされた説明をしてくれる調停委員が目の前にいることに安心感を覚えることもありましょう。このように調停委員は、調停制度が争いごとを円満に解決する手続きとして国民の皆様からの期待に応えていくために欠かせない存在なのです。

 また、民事調停委員の中には、弁護士、建築士、公認会計士、不動産鑑定士、医師等、各分野の専門家もいて、解決に専門的な知見が必要な争いごとについても、その分野の専門家の意見を聴くことにより、疑問が氷解し、早く解決することがあります。

 ところで、この調停制度は、大正11年に発足して以来、今年で100周年を迎えます。実に100年もの長きにわたって続けられてきたのは、調停制度が、調停委員の「市民としての健全な社会感覚」による知識、経験等を活かした制度であり、それが国民の皆様の信頼を得てきたからであろうと考えられます。このような国民の皆様のご協力を得て成り立っている裁判制度は、調停制度だけではなく、平成21年に開始された裁判員制度を始め、実に多くの手続きがあります。つまり、裁判所で行われている様々な手続きは、国民の皆様の良識や知恵に支えられて成り立っているのです。そして、そのような手続きの中で、最も長い歴史があるものが調停制度なのです。

 裁判所では、調停制度発足100周年を機に、国民の皆様により広く調停制度を知ってもらえるよう、様々な企画を用意しています。あいにく新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、一堂に会するイベントを開催することはまだ難しい状況にありますが、秋には無料調停相談会が全国各地で開催されるほか、各種相談センターや集会所等に調停制度発足100周年を紹介するポスターやリーフレット等を展示します。皆様も、お目に触れる機会があれば、ぜひご活用いただきたいと思います。

 仙台簡易裁判所におきましても、調停委員と相協力して調停制度がさらに国民の皆様のニーズや信頼に応えるものとなるよう、多様なご意見に耳を傾けつつ、適切な運用に努めていくこととしています。それとともに、調停制度の利用が広まり、世の中の争いごとが少しでも多く円満に解決されるよう、広報活動も地道に続けていきたいと考えていますので、調停制度発足100周年というこの機会に、皆様のより一層のご理解を賜りたくよろしくお願い申し上げます。そして、万一、争いごとに直面したときには、民事調停の利用をご検討され、まずは簡易裁判所の手続案内をご利用いただければと思っています。