知財調停手続の運用について

東京地方裁判所民事第29部・第40部・第46部・第47部

 東京地方裁判所民事第29部・第40部・第46部・第47部は,令和元年10月1日から,知的財産権に関する調停手続について,新たな運用を開始することにいたしました。この新たに運用される知的財産権に関する調停手続(以下「知財調停」といいます。)の目的,申立てに際しての留意点,審理モデル等は,以下のとおりです。大阪地方裁判所においても,同日から,同様の知財調停の運用が開始されます。詳しい内容は,大阪地方裁判所知財部のウェブサイトを御覧ください。

 なお,ここに記載された審理モデルは,飽くまでもモデルとして想定したものであり,各調停委員会の方針により,それぞれの事案の特性に応じて,実際の手続の進行が様々に異なり得るものであることを御承知おきください。
 また,審理の充実のため,準備書面や書証について裁判所に提出期限を定められた場合には,その期限を遵守していただきますよう御協力をお願いします。

1 知財調停制度の概要

 知財調停は,ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争について,一定の期日までに提出された資料等に基づき,知財部の裁判官及び知財事件の経験が豊富な弁護士・弁理士などから構成された調停委員会の助言や見解を得て,話合いによる簡易・迅速な解決を図る手続であり,現行法の枠内で,訴訟,仮処分にはない特徴を有する第3の紛争解決ツールを提供する司法サービスです。

2 知財調停の特色

知財調停の特色は,以下のとおりです。

(1) 柔軟性

 知財調停は,相手方との交渉の状況を踏まえて,当事者が解決したい紛争を設定することができます。また,知財調停の主たる目的は話合いによる紛争の解決にありますが,調停委員会の助言等を得て当事者間の自主的交渉に戻ることも選択することができ,調停手続の審理を踏まえ,訴え提起や仮処分の申立てをすべきかどうかについて検討をすることもできます。

(2) 迅速性

 知財調停は,交渉中の当事者が,管轄の合意により,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に申し立てることとしていますが,そのような場合には,紛争当事者間ではその前に交渉が行われ,ある程度争点が特定され,それぞれが関係する資料等も保有していると考えられます。知財調停は,これを前提として,第1回調停期日までに両当事者に主張と証拠を提出してもらい,原則として,3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより,迅速な紛争解決の実現を目指すものです。

(3) 専門性

 知財調停は,知財部の裁判官及び知財事件についての経験が豊富な弁護士・弁理士などから構成される調停委員会により手続が進められるので,専門性について,訴訟等と遜色のない審理がされます。また,裁判所調査官が関与することも可能です。

(4) 非公開

 知財調停は,通常の民事調停と同様,申立ての有無も含め手続は公開されることはないので,紛争の存在自体が第三者に認識されることなく,紛争の解決を図ることが可能となります。

3 知財調停の対象となる紛争

(1) 対象事件

 知財調停の対象となる事件は,基本的には知的財産権に関する訴訟と同様であり,特許権,実用新案権,意匠権,商標権,著作権,回路配置利用権,商法12条,会社法8条若しくは21条に基づく請求権,不正競争防止法に定める不正競争,種苗法による育成者権,他人の氏名,名称又は肖像を広告の目的又は商業的目的(報道目的を含まない。)のために無断で使用する行為に関する紛争等についての調停事件です。

(2) 知財調停に適した事案

 知財調停に適した事案としては,当事者間の交渉中に生じた紛争であり,争点が過度に複雑でないものや,交渉において争点が特定されており,当事者双方が話合いによる解決を希望している事案などが考えられます。
 他方,相手方の製品の迅速な差止めを求める場合,高額の損害賠償金の支払を求める事案で争点が複数ある場合,相手方との信頼関係が既に損なわれており,互譲による解決が難しいと考えられる場合,相手方から特許権の無効の主張がされており,その審理判断には相当程度の時間を要することが想定される場合などは,訴訟や仮処分手続により解決することが望ましいと考えられます。

 知財調停に適した具体的事例として,例えば,以下のようなものが想定されますが,これに限定されるものではありません。

  1. 商標の類否に関する紛争事例
  2. 商標の先使用権の有無に関する紛争事例
  3. 著作権侵害の有無に関する紛争事例
  4. 知的財産権の侵害による損害額に争いがある事例
  5. 営業秘密の不正取得等の有無に関する紛争事例
  6. 形態模倣の有無に関する紛争事例
  7. 特許権侵害の有無に関する紛争事例
    (ただし,争点がシンプルであるものや交渉等を通じて争点が特定されている事案等)
  8. 特許権の帰属に関する紛争事例
  9. ライセンス料に関する紛争事例

4 知財調停の申立て

(1) 管轄

 調停事件については,簡易裁判所も管轄権を有しますが(民事調停法3条1項),知財調停は,事件の専門性・技術性に照らし,管轄合意に基づき,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所が手続を行うこととしています。管轄合意書の書式例については,別紙1(PDF:54KB)を御参照ください
 なお,申立て時点で管轄合意がされていない場合であっても申立てを受け付けることとしています。ただし,そのような場合には,事前に受付担当部(「(2) 受付場所」参照)に相談をされることをお勧めします。

(2) 受付場所

 令和2年1月から12月までは,民事第46部(直通03-3581-3571)で受付けをしております。
 受付場所は,東京高裁・地裁合同庁舎の3階南側です。

(3) 申立てに当たっての留意点

ア 申立書の記載事項

 知財調停の申立てをする場合には,調停申立書を裁判所に提出してください(民事調停法4条の2第1項)。調停申立書には,申立ての趣旨及び紛争の要点等を記載することが必要です(民事調停法4条の2第2項各号,民事調停規則3条,24条,非訟事件手続規則1条1項)。
 なお,調停申立書の書式例については別紙2(PDF:77KB)を御参照ください。
 申立ての趣旨及び紛争の要点の記載についての留意点は,以下のとおりです。

(ア) 申立ての趣旨

申立ての趣旨は,差止めや損害賠償を求める場合やこれらの不存在の確認を求める場合など,相手方に求める行為を明確に特定し得る場合は,訴訟における請求の趣旨と同程度に特定した記載をしてください。

  • 【例1】
    相手方は,申立人に対し,○○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  • 【例2】
    相手方は,別紙製品目録記載の製品を譲渡し,譲渡のために展示し,輸入してはならない。
    相手方は,別紙製品目録記載の製品を廃棄せよ。
  • 【例3】
    相手方が,申立人に対し,別紙商品目録記載の商品につき,別紙商標権目録記載の商標権に基づく差止請求権及び同商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認する。
  • 【例4】
    相手方は,申立人に対し,別紙営業秘密目録記載の資料を引き渡せ
  • 【例5】
    別紙発明目録記載の発明について,申立人が特許を受ける権利を有することを確認する。
  • 上記記載の程度に相手方に求める行為を明確に特定し得ない場合でも,申立ての趣旨は,可能な限り,相手方に求める行為の内容を明確にするように記載してください。
  • 【例6】
    相手方は,その管理運営するオンラインショッピングサイトにおける申立人のアカウントを回復して,別紙ウェブページ目録記載のウェブページにおける申立人の出店を継続させよ。
  • 【例7】
    相手方は,別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイトの記載を閲覧者が同目録記載1の申立人のウェブサイトと混同しない程度に変更せよ。
  • 【例8】
    申立人が,別紙製品目録記載の製品を製造販売するに当たり,相手方に対して支払うべきライセンス料を確定する。
  • 相手方との交渉の促進等を図ることを目的とする申立てであり,相手方に求める行為を明確に特定し得ない場合の申立ての趣旨は,ケース・バイ・ケースですが,例えば,以下のような記載をすることも考えられます。
  • 【例9】
    申立人と相手方との間の出資に関する契約に関し,相互に合意可能な契約内容又は条件を調整する。

(イ) 紛争の要点

 知財調停の申立書には,紛争の要点として,紛争の内容・背景事情,争点に関する申立人の主張,相手方の主張に対する反論,過去の交渉経緯,解決の意向等を記載してください。

イ 証拠の提出

 申立人は,紛争の要点に記載された事実を立証するための証拠の写しを,証拠説明書とともに提出してください(民事調停規則3条,24条,非訟事件手続規則45条1項,民事訴訟規則137条1項)。申立てに当たっては,事情をよく知る関係者の陳述書を作成して書証として提出することも御検討ください。
 なお,第1回調停期日から充実した審理を行うため,提出を予定する書証については,第1回調停期日前に全て提出するようにしていただくようにお願いします。

ウ 提出部数等

 申立書を提出する際,記録用の原本とは別に,相手方の人数分の副本と,調停委員会用の写し3通(裁判所調査官の関与が見込まれる特許関連の事件の場合は,裁判所調査官用を含めた写し4通)を提出してください(民事調停規則24条,非訟規則3条2項)。
 書証や証拠説明書の写しについても,同様に,相手方の人数と調停委員会3名を合計した人数分(裁判所調査官の関与が見込まれる特許関連の事件の場合は,裁判所調査官1名も含めた人数分)を提出してください。

5 答弁書の作成等に当たっての留意点

 相手方は,申立書を受領した後,第1回調停期日(調停申立てから約6週間後)の10日前までに,裁判所に,答弁書,書証,証拠説明書等を提出してください。答弁書には,申立書に記載された事実の認否のほか,抗弁事実や再々抗弁事実を具体的に記載するとともに,申立人に提案する解決案があれば,併せて記載してください。

 提出を予定する書証については,第1回調停期日前に全て提出するようにしていただくようにお願いします。

 答弁書は,相手方に直送し,調停委員会用の写し3通(特許に関連する事件など裁判所調査官が関与する場合は4通)を提出してください。書証や証拠説明書の写しについても,相手方には直送し,調停委員会用の写し3通(又は4通)を提出してください。

6 調停委員会の構成等

 調停委員会は,知財部の裁判官1名及び知財事件の経験が豊富な弁護士・弁理士などの専門家(2名)の合計3名から構成されることとしています。また,特許権に関する紛争など,技術的事項が問題となる事案については,裁判所調査官が関与することがあります。

7 手続の流れ

 知財調停は,当事者間で事前に交渉が行われていることを前提として,第1回調停期日までに両当事者の主張と関連する証拠を提出してもらい,原則として,第3回調停期日までに調停委員会の見解を口頭で開示することとしています。もとより,簡易な事案であれば,第3回調停期日より前に調停案が提示されることもあり,また,合意内容の調整に期間を要する事案などでは,当事者の意向も踏まえ,4回以上の審理を経ることもあり得ます。

 なお,当事者が遠隔地の場合には,テレビ会議等を利用して手続を行うことも可能です。
 この調停委員会の見解には,争点についての心証の開示に限らず,立証の困難度や事案の複雑性に鑑み,訴訟又は仮処分による解決に適しているなどの意見も含まれますが,その場合,当事者は,同委員会の見解を踏まえ,調停手続における話合いを続行することも,調停手続の終了(不成立又は取下げ)により,自主的な交渉に戻り又は訴え提起等をすることも選択することができます。

 知財調停の審理モデルは,別紙3(PDF:103KB)のとおりです
 なお,ここに記載された審理モデルは,飽くまでもモデルとして想定したものであり,各調停委員会の方針より,実際の手続の進行が様々に異なり得ることは冒頭に記載したとおりです。

8 調停手続とその後の訴訟の関係

 調停が不成立又は取下げとなった後に,調停の目的となった請求について訴えが提起された場合には,その訴えに係る審理は調停委員会を構成した裁判官が所属する部以外の部の裁判官が担当することになります。

以上

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