p1 裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領 令和6年3月27日最高裁判所裁判官会議議決 (令和6年4月15日実施) 1 目的   この要領(以下「対応要領」という。)は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)の趣旨を踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)に即して、法第7条に規定する事項に関し、裁判所の職員が適切に対応するために必要な事項を定めることを目的とする。 2 定義   対応要領において次に掲げる用語の意義は、それぞれ次に定めるところによる。 (1) 障害 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)をいう。  (2) 障害者 法第2条第1号に掲げる障害者をいう。  (3) 社会的障壁 法第2条第2号に掲げる社会的障壁をいう。 3 適用範囲   対応要領は、裁判所の職員(非常勤職員を含む。以下「職員」という。)が行う事務(裁判所が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置に係る事務を除く。)に適用する。 4 不当な差別的取扱いの禁止 (1) 職員は、その事務を行うに当たり、障害を理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 (2) 職員は、(1)の定めを実施するため、別紙に定める事項に留意しなければならない。 5 合理的配慮の提供 p2 (1) 職員は、その事務を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)の提供をしなければならない。 (2) 職員は、(1)の定めを実施するため、別紙に定める事項に留意しなければならない。 6 監督者の責務 (1) 最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所及び裁判所法(昭和22年法律第59号)第37条の規定により簡易裁判所の司法行政事務を掌理する裁判官並びに裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の標準的な官職を定める規則(平成21年最高裁判所規則第6号)別表1の項第3欄第3号及び第8号に規定する職制上の段階に属する課長、同表1の項第3欄第12号に規定する職制上の段階に属する事務局長、同表2の項第3欄第1号及び第3号に規定する職制上の段階に属する首席書記官、同表3の項第3欄第1号に規定する職制上の段階に属する首席家庭裁判所調査官及びこれらと同等以上の職制上の段階に属する官職を占める職員(以下「監督者」という。)は、4及び5に定める事項に関し、その監督する職員が適切に対応するために、次の事項を実施しなければならない。 ア 日常の執務を通じた指導等により、障害を理由とする差別の解消に関し、その監督する職員の注意を喚起し、障害を理由とする差別の解消に関する認識を深めさせること。 イ 障害者、その家族又はその他の関係者(以下「障害者等」という。)から不当な差別的取扱い、合理的配慮の不提供に対する相談、苦情の申出等があった場合には、迅速に状況を確認すること。 p3 ウ 合理的配慮の必要性が確認された場合には、その監督する職員に対して、合理的配慮の提供を適切に行うよう指導すること。 (2) 監督者は、障害を理由とする差別に関する問題が生じた場合には、迅速かつ適切に対処しなければならない。 7 懲戒処分等   職員が、障害者に対し不当な差別的取扱いをし、又は過重な負担がないにもかかわらず合理的配慮を提供しなかった場合には、その態様等によっては、職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合等に該当し、懲戒処分等に付されることがある。 8 相談体制の整備 (1) 職員による障害を理由とする差別に関する障害者等からの相談等に的確に対応するため、最高裁判所事務総局総務局第一課並びに高等裁判所、地方裁判所及び家庭裁判所の事務局総務課に相談窓口を置く。 (2) (1)の相談窓口においては、対面、電話、ファクシミリ、電子メールのほか、障害者等がコミュニケーションを図る際に必要となる多様な連絡手段の確保に努めるとともに、障害者の性別、年齢、障害の特性等に配慮して対応するものとする。 (3) 最高裁判所事務総局総務局第一課は、(1)の相談窓口にあった相談等を定期的に把握・整理し、個人情報の保護等に配慮しつつ、他の相談窓口に情報提供することにより、以後の相談等において活用するものとする。 (4) (1)の相談窓口については、必要に応じ、相談体制の充実を図るものとする。 9 研修・啓発 (1) 裁判所は、障害を理由とする差別の解消の推進を図るため、職員に対し、法及び基本方針等の周知や、障害者から話を聞く機会を設けるなど必要な研修・啓発を行うものとする。 (2) (1)の研修は、新たに職員となった者に対しては障害を理由とする差別の解消 p4 に関する基本的な事項について理解させること、新たに監督者となった職員に対しては障害を理由とする差別の解消等に関し求められる役割について理解させることを目的として実施するものとする。 (3) (1)の啓発は、職員が障害の特性を理解し、性別や年齢等にも配慮しつつ障害者に対して適切に対応するために必要なマニュアル等を活用することにより行うものとする。 p5 (別紙) 裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領に係る留意事項 1 障害者の対象範囲等   「障害」とは、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)」であり、「障害者」とは、「障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」をいい、対応要領が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られないことに留意すること。 2 不当な差別的取扱いの基本的な考え方   法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止しており、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由とする場合についても、障害を理由とする不当な差別的取扱いとして、これに該当する。なお、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではない。したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供等するために必要な範囲でプライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たらない。このように、不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務について、本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある。 p6 3 正当な理由の判断の視点   正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。裁判所においては、正当な理由に相当するか否かについて、具体的な検討をせずに正当な理由を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、障害者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、損害発生の防止等)及び裁判所の事務の目的・内容・機能の維持等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。職員は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明し、理解を得るよう努めるものとする。その際には、職員と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められる。 4 不当な差別的取扱いの具体例   正当な理由がなく不当な差別的取扱いに該当すると考えられる具体例は(1)、正当な理由があるため不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる具体例は(2)のとおりである。なお、正当な理由に相当するか否かについては、3のとおり、個別の事案ごとに判断されることとなる。また、(1)及び(2)の具体例は飽くまでも例示であり、これらの具体例だけに限られるものではないこと、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途検討を要することに留意する必要がある。  (1) 正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる具体例   ア 障害があることを理由として、一律に窓口対応を拒否すること。   イ 障害があることを理由として、一律に対応の順序を後回しにすること。 ウ 障害があることを理由として、一律に書面の交付、資料の送付、パンフレットの提供等を拒んだり、資料等に関する必要な説明を省いたりすること。 p7 エ 障害があることを理由として、一律に説明会、シンポジウム等への出席を拒むこと。 オ 事務の遂行上、特に必要ではないにもかかわらず、障害を理由に、来庁の際に付き添い者の同行を求めるなどの条件を付け、又は特に支障がないにもかかわらず、付き添い者の同行を拒むこと。 カ 障害の種類やその程度、裁判手続の各場面における本人や第三者の安全性等について考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由に施設利用を拒否すること。 キ 業務の遂行に支障がないにもかかわらず、障害者でない者とは異なる場所での対応を行うこと。 ク 障害があることを理由として、言葉遣いや態度等の接遇の質を一律に下げること。 (2) 正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる具体例 ア 障害者本人の安全確保の観点から、広報行事等において、通常の実施形態によると具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害者に対し、当該行事等の一般的な内容とは別の内容を設定すること。 イ 障害者本人の損害発生防止の観点から、裁判手続に関わる書類の提出につき、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認すること。 5 合理的配慮の基本的な考え方 (1) 障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)第2条において、「合理的配慮」とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡 p8 を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されている。法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、行政機関等に対し、その事務又は事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、合理的配慮を行うことを求めている。合理的配慮は、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものである。また、合理的配慮は、裁判所の事務の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事務の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要がある。 (2) 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、6の(1)から(3)までの要素を考慮し、当該障害者本人の意向も尊重しつつ、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要がある。建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と職員が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要である。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、裁判所として対応可能な取組等を対話 p9 の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられる。さらに、合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、障害の状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意する。なお、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮とは別に、(4)の環境の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。 (3) 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられる。また、障害者からの意思表明のみでなく、障害の特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等のコミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、介助者等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨を踏まえ、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働き掛けるなど、自主的な取組に努めるものとする。 (4) 合理的配慮は、不特定多数の障害者等の利用を想定して事前に行われる建築物のバリアフリー化、介助者等の人的支援、情報アクセシビリティの向上等の環境の整備を基礎として、個々の障害者に対して、その状況に応じて個別に実施される措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、 p10 合理的配慮の内容は異なることとなる。また、障害の状態等が変化することもあるため、特に、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜、見直しを行うことが重要である。さらに、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことや、合理的配慮の欠如との苦情を事前に防ぐ観点から、合理的配慮の提供に関する相談対応等を契機に、マニュアルを改訂する等、環境の整備を図ることも有効である。 (5) 裁判所がその事務の一環として実施する業務を事業者に委託等する場合には、提供される合理的配慮の内容に大きな差異が生ずることにより障害者が不利益を受けることのないよう、委託等の条件に、対応要領を踏まえた合理的配慮の提供について盛り込むよう努めるものとする。 6 過重な負担の基本的な考え方   裁判所においては、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、(1)から(3)までの要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。職員は、過重な負担に当たると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明し、理解を得るよう努めるものとする。その際には、職員と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められる。  (1) 事務への影響の程度(事務の目的、内容、機能を損なうか否か)  (2) 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)  (3) 費用及び負担の程度 7 合理的配慮の具体例   合理的配慮は、5のとおり、具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別 p11 性の高いものであるが、具体例としては、(1)から(3)までのようなものがある。これらについては飽くまでも例示であり、必ず実施するものではないこと、これらの具体例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意する必要がある。一方、合理的配慮を提供しないことが問題になり得る具体例としては(4)、合理的配慮の観点から問題にならないと考えられる具体例としては(5)のようなものがある。これらについても、飽くまでも例示であり、合理的配慮を提供しないことが問題になり得るか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であることに留意する必要がある。  (1) 合理的配慮に当たり得る物理的環境への配慮の具体例 ア 段差がある場合に、車椅子利用者にキャスター上げ等の補助をし、又は携帯スロープを渡すなどすること。 イ 配架棚の高いところに置かれたパンフレット等を手渡し、又はパンフレット等の位置を分かりやすく伝えること。 ウ 目的の場所までの案内の際に、障害者の歩行速度に合わせた速度で歩く、前後・左右・距離の位置取りについて障害者の希望を聞くなどすること。 エ 疲労を感じやすい障害者から別室での休憩の申出があった場合において、別室の確保が困難であるときに、当該障害者に事情を説明し、障害の特性に配慮した場所に椅子を用意するなどして臨時の休憩スペースを設けること。 オ 不随意運動等により書類等を押さえることが難しい障害者に対し、職員が書類等を押さえ、又はバインダー等の固定器具を提供すること。 カ 災害や事故が発生した際に、庁内放送で避難情報等の緊急情報を聞くことが困難な聴覚障害のある者に対し、手書きのボード等を用いて分かりやすく誘導すること。 キ 書類の作成に当たり、受付カウンターや記帳台の高さが合わない障害者に対し、バインダー等を提供すること。 p12 ク 同性の職員がいる場合は、障害者本人の希望に応じて、トイレや授乳室等への案内は同性の職員が行うこと。 ケ 来庁した障害者が車椅子や杖等を使用しており、困っている様子であった際に、障害者本人からの申告がなくとも声を掛け、本人の希望を聴き取ること。 コ 視覚障害のある者への配慮として、階段等の特に必要な箇所について、段差の存在の警告を行うため、点状ブロックを敷設し、視認性を高めるため、階段の踏面の端部とその周囲の部分との色の明度、色相又は彩度の差を大きくし、段を容易に識別できるものとすること。 サ 自家用車での来庁を希望する障害者に対し、可能な限り裁判所構内に駐車スペースを用意すること。 シ 必要に応じて、予め事件関係室内の障害物を取り除いておくなど、当事者等の動線を確保しておくこと。 ス 事件関係者の事情に応じて、トイレ等を利用しやすい位置にある事件関係室で手続を行うこと。  (2) 合理的配慮に当たり得る情報の取得及び利用並びに意思疎通の配慮の具体例 ア 筆談、読み上げ、手話、点字、拡大文字、絵図を記載した書面、身振りサイン、触覚による意思伝達等による合図などのコミュニケーション手段を用いること。 イ 書面を点字、拡大文字等で作成する際に、各々の媒体間でページ番号等が異なり得ることに配慮して使用すること。 ウ 視覚障害のある委員に会議資料等を事前送付する際、読み上げソフトに対応できるよう電子データ(テキスト形式)で提供すること。 エ 意思疎通が不得意な障害者に対し、絵カード等を活用して意思を確認すること。   オ 駐車場などで通常、口頭で行う案内を、紙にメモをして渡すこと。 p13 カ 書類記入の依頼時に、記入方法等を本人の目の前で示し、又は分かりやすい記述で伝達すること。 キ 比喩表現等が苦手な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに具体的に説明すること。 ク 障害者から申出があった際に、ゆっくり、丁寧に、繰り返し説明し、内容が理解されたことを確認しながら応対すること。また、なじみのない外来語は避ける、漢数字は用いない、時刻は24時間表記ではなく午前・午後で表記するなどの配慮を念頭に置いたメモを必要に応じて適時に渡すこと。 ケ ホームページなどでの外部情報の発信の際に、動画に字幕などの文字情報を付す、拡大文字や読み上げソフトの利用に配慮しテキストデータを付すなどすること。 コ 裁判や会議の進行に当たり、資料を見ながら説明を聞くことが困難な視覚や聴覚に障害のある又は知的障害のある当事者や委員に対し、ゆっくり、丁寧な進行を心掛けるなど、障害の特性にあった配慮を行うこと。 サ 裁判や会議の進行に当たり、発言する前に名前を名乗る、手を上げるなど、発言者が誰であるか明らかとなるように参加者に注意を促したり、複数の発言者が同時に発言することがないように進行を工夫したりすること。 シ 裁判や会議の進行に当たり、手話通訳などを受けている者がいる場合、通訳自体に一定の時間を要するだけでなく、手話通訳等が終わった後に、障害者がその内容を理解するために必要な時間を確保し、理解を確認しながら進めること。 ス 裁判や会議においてウェブ会議を実施するに当たり、障害者が使用するアプリ等の補助ツールが正常に作動するかなども含め、事前の接続テストを行い、意思疎通に困難が生じないか確認するなどすること。 セ 裁判や会議においてウェブ会議を実施するに当たり、要約筆記者や手話通訳人などが遠隔で参加する場合、要約筆記等についても事前に接続テストを p14 行い、意思疎通に困難が生じないか確認するなどすること。  (3) 合理的配慮に当たり得る柔軟な対応の具体例 ア 順番を待つことが困難な障害者に対し、周囲の者の理解を得た上で、手続の順番を入れ替えること。 イ 立って列に並んで順番を待っている場合には、周囲の者の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで別室や席を用意すること。 ウ スクリーン、ディスプレイ、板書及び手話通訳者等がよく見えるように、スクリーン等に近い席を確保すること。   エ 車両乗降場所を施設出入口に近い場所へ変更すること。 オ 裁判所の敷地内の駐車場等において、障害者の来庁が多数見込まれる場合には、通常、障害者専用とされていない区画を障害者専用の区画に変更すること。 カ 入庁時に金属探知機を通過することが困難な場合には、セキュリティ上の代替措置を講じた上で、別ルートからの入庁を認めること。 キ 他人との接触、多人数の中にいることによる緊張等により、発作等がある場合には、当該障害者に説明の上、障害の特性や施設の状況に応じて別室や人目のつかない場所に椅子を用意するなどして待機や手続案内のためのスペースを準備すること。 ク 障害の特性により、頻繁に離席の必要がある場合には、法廷であれば車椅子利用者の傍聴スペースや扉付近の傍聴席に誘導したり、弁論準備手続室や調停室などであれば各室の扉付近の席に誘導したりするよう取り計らうこと。 ケ 裁判上の手続において、公開及び非公開の別にかかわらず、障害者の理解を援助する者が同席できるよう取り計らうこと。ただし、非公開の手続においては、情報管理に係る担保が得られることを前提にする必要がある。 コ 非公表情報(未公表情報を含む。)を扱う会議等において、情報管理に係る担保が得られることを前提に、障害のある委員の理解を援助する者の同席 p15 を認めること。 サ 障害の特性や通院日に配慮して、裁判手続の期日指定を検討すること。 シ 車椅子での傍聴希望があった場合に、法廷内の動線等を踏まえて、移動しやすい1階の法廷や広い法廷を使用したり、車椅子用のスペースを準備したりすること。 ス 裁判手続において裁判所が送付する書面について、文字のサイズやフォントの工夫、ルビを振るなど、受け取り手の理解度や特性に応じて読みやすくすること。 セ 障害のある証人には、その特性に応じて、尋問の順序や所要時間などを伝えるとともに、休憩スペースの確保の要否など、必要な配慮について事前に連絡してもらうように依頼すること。  (4) 合理的配慮を提供しないことが問題になり得る具体例 ア 試験を受ける際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること。 イ 広報行事等において、会場内等の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由により具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること。 ウ 電話利用が困難な障害者から電話以外の手段による対応を求められた場合に、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること。 エ 広報行事等において、介助を必要とする障害者から、介助者の同席を求める申出があった場合に、当該行事等が本人のみの参加をルールとしていることを理由として、参加者である障害者本人の個別事情等を確認することなく、一律に介助者の同席を断ること。 オ 広報行事等において、弱視の障害者からスクリーンの画像等がよく見える p16 席での出席を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに特別扱いはできないことを理由に対応を断ること。 カ 障害特性に応じた典型的な配慮では足りない個別事情があるとの申出があるにもかかわらず、個別性を考慮することなく、また、配慮提供の可否を考慮することなく、典型的な配慮以外の提供を断ること。  (5) 合理的配慮の観点から問題にならないと考えられる具体例 ア 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることとの観点から、事務の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること。 イ 過重な負担(人的・体制上の制約)の観点から、広報行事当日に、視覚障害のある者から職員に対し、当該広報行事の全体を通じ、付き添って個別に説明を行ってほしい旨頼まれたにも関わらず、対応できる人員がいないことを理由に対応を断ること。