裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
平成17(受)1977
- 事件名
損害賠償請求事件
- 裁判年月日
平成19年11月1日
- 法廷名
最高裁判所第一小法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
民集 第61巻8号2733頁
- 原審裁判所名
広島高等裁判所
- 原審事件番号
平成11(ネ)206
- 原審裁判年月日
平成17年1月19日
- 判示事項
国の担当者が,原爆医療法及び原爆特別措置法の解釈を誤り,被爆者が国外に居住地を移した場合に健康管理手当等の受給権は失権の取扱いとなる旨定めた通達を作成,発出し,これに従った取扱いを継続したことが,国家賠償法1条1項の適用上違法であり,当該担当者に過失があるとされた事例
- 裁判要旨
国の担当者が,原爆医療法及び原爆特別措置法の解釈を誤り,原爆医療法に基づき被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者が国外に居住地を移した場合には,原爆特別措置法は適用されず,同法に基づく健康管理手当等の受給権は失権の取扱いとなる旨定めた通達(昭和49年7月22日衛発第402号各都道府県知事並びに広島市長及び長崎市長あて厚生省公衆衛生局長通達)を作成,発出し,その後,上記二法を統合する形で被爆者援護法が制定された後も,平成15年3月まで上記通達に従った取扱いを継続したことは,次の(1),(2)などの判示の事情の下においては,公務員の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,当該担当者には過失がある。
(1) 国の担当者は,原爆医療法及び原爆特別措置法について,当初,国内に居住関係を有する被爆者に対してのみ適用されるものであって国外に居住する在外被爆者に対しては一切適用されないとの解釈の下に,その運用を行ってきたが,上記通達発出の時点では,被爆者が国内に居住関係を有することは原爆医療法の適用要件ではないとする司法判断を受けて,従前の解釈及び運用が上記二法の客観的な解釈として正当なものといえるか否かを改めて検討した結果,従前の解釈及び運用が法律上の根拠を欠くことを認識するに至り,これを改め,在外被爆者に対しても,一定の場合には,上記二法の適用を認め,健康管理手当等の支給要件に該当すれば支給認定をするという取扱いを採用していた。
(2) 国の担当者は,上記検討の機会に,その職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていれば,手当等の支給に関する他の制度においては国内に住所や居住地を有することが支給要件とされている場合には法律にその旨明記されるのが通例であることとの整合性等の観点から,被爆者の国外への居住地の移転という法律に明記されていない事由によって健康管理手当等の受給権が失われることになるという法解釈は,その正当性が疑問とされざるを得ないものであることを当然に認識することが可能であったのに,そのような法解釈の下に上記通達を発出し,これに従い,健康管理手当等の受給権を取得した在外被爆者は出国と同時にその受給権を失うものとする取扱いを継続した。
(反対意見がある。)
- 参照法条
国家賠償法1条1項,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(原爆医療法)2条,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(原爆医療法)3条,原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(原爆特別措置法)5条,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)1条,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)2条,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)27条
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