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最高裁判所判例集

事件番号

 昭和22(れ)337

事件名

 有毒飲食物等取締令違法

裁判年月日

 昭和23年11月17日

法廷名

 最高裁判所大法廷

裁判種別

 判決

結果

 棄却

判例集等巻・号・頁

 刑集 第2巻12号1565頁

原審裁判所名

 東京高等裁判所

原審事件番号

原審裁判年月日

 昭和22年10月29日

判示事項

 一 判決における適用法規の名稱の誤記と憲法第三一條
二 裁判所法施行令第一條の合憲性
三 刑訴應急措置法第一二條第一項に基く證人訊問の請求がない場合とは規定の書類の證據能力
四 關係人に對する檢事の聽取書中の被告人の否認する部分の供述記載を證據に採ることの可否と憲法第三七條及び刑訴應急措置法第一二條
五 憲法適否を理由としない再上告の適否
六 檢事の理屈攻めと強制の有無
七 證據の取捨選擇の自由と憲法第三七條第一項及び第七六條第三項
八 上告審における刑訴應急措置法第一二條第一項但書の適用の有無と憲法第三一條
九 公判廷における否認の供述あるに拘わらず檢事に對する被告人の肯定の供述を證據に採ることの可否と憲法第三一條

裁判要旨

 一 有毒飮食物等取締令という勅令は有効に實施せられており、而して同名の法律は存在していないのであるから、第二審判決が右勅令を昭和二一年勅令第五二號と表示すべきところを、昭和二一年法律第五二號と誤つて表示したのであることが明らかである。而して第二審裁判所が右勅令の第一條及び第四條を適用したのであるから、論旨のように罪刑法定主義の原則に反せず、從つて原判決は憲法第三一條に違反するものではない。
二 裁判所法施行令第一條の規定が憲法に適合しないものでないことは、既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第一二六號、同二三年七月一九日宣告大法廷判決參照)
三 本件に對し假りに所論のごとく刑訴應急措置法第一二條の規定の適用があるものとして、これに照して第二審判決を判斷するとしても裁判所には證人訊問をすべき職務はなく、被告人から證人訊問の請求がなければ、その供述を録取した書類を證據にとつても差支ないことは既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第一六七號同年七月一九日宣告大法廷判決參照)
四 檢事の關係人に對する聽取書における事實を被告人が否認をしていても、裁判所は被告人の右供述を採用しないで、他の證據を綜合して事實を認定できることは、寧ろ採證法上の原則であつて、彈劾主義に反するものでないことは固より憲法第三七條の趣旨竝びに刑訴應急措置法第一二條の規定に毫も抵觸するものではない。
五 本論旨は憲法適否を理由とするものでないから、刑訴應急措置法第一七條により再上告適法の理由とはならぬ。
六 檢事の理屈攻めが果して強制にあたるか否かは、具體的の事實にょつて各場合に判斷せらるべきであつて、何等具體的な事實を主張立證することなく漫然として檢事の理詰を以て強制だとすることはできない。
七 論旨は、被告人がその犯意を否定するに足る事實を公判廷で供述したのを第二審が採用しなかつたことを原上告審に對して強調したのにもかからず、原上告審は右主張を無視したのは第二審の肩を持ちすぎたものであつて、憲法第三七條第一項の公平な裁判所ということができないし又憲法第七六條第三項にいう良心に從つて裁判をしたということができぬと云うのである。しかし憲法第三七條第一項の公平な裁判所の裁判というのは、構成その他において偏頗の惧のない裁判所の裁判という意味であり、又憲法第七六條第三項の裁判官が良心に從うというのは、裁判官が有刑無刑の外部の壓迫乃至誘惑に屈しないで自己内心の良識と道徳感に從うの意味である。されば原上告審が、證據の取捨選擇に事實審の專檢に屬するものとして第二審の事實認定を是認したのは當然であつて強いて公平を缺き且良心に從はないで裁判をしたと論難することはできない。
八 刑訴應急措置法第一二條の規定は裁判所が事實認定をするに當り證據として採否を定める基準に關するものであつて、その性質上當然事實審のみに適用ある規定である。されば原上告審が證據調をしない以上、所論の第一二條但書を適用しなかつたのは誠に當然であつて、憲法第三一條違反の問題を生じない。
九 被告人の檢事に對する肯定の供述と、公判廷における否認の供述とは各別個の供述であつて、所論のように、否定という一個の觀念を構成する不可分のものではないから、肯定の供述をとり否認の供述をとらなかつたとしても違法ではない。從つて憲法第三一條に反するものではない。

参照法条

 憲法31條,憲法37條,憲法38條,憲法37條1項,憲法76條3項,裁判所法施行令1條,刑訴應急措置法12條1項,刑訴應急措置法12條,刑訴應急措置法17條,刑訴應急措置法10條,刑訴法337條

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