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最高裁判所判例集

事件番号

 平成30(ネ)10006等

事件名

 特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件

裁判年月日

 令和元年9月11日

法廷名

 知的財産高等裁判所

裁判種別

結果

判例集等巻・号・頁

原審裁判所名

 大阪地方裁判所

原審事件番号

 平成26(ワ)6163

原審裁判年月日

判示事項

裁判要旨

 特 判決年月日 令和元年9月11日 担
許 当 知財高裁第3部
権 部
事 件 番 号 平成30年(ネ)第10006号
平成30年(ネ)第10022号
○ 発明の名称を「システム作動方法 」とする 特許A及び同「遊戯装置,およびその制
御方法」とする特許Bに係る特許権侵害 訴訟事件について,特許Aに公知発明又は 公
然実施発明を主引用例とする 進歩性欠如 の無効理由 があるとして,被控訴人の 無効の
抗弁を認め,控訴人の請求を 一部棄却した原判決を 変更し,特許Aにつ き無効の抗弁
を認めなかった事例
○ 特許法102条3項により, 侵害品の正味販売価格 に対し,実施に対し受けるべき
料率を乗じて,損害を算定した事例
(事件類型)特許権侵害行為差止等 (結論)原判決一部変更
(関連条文)特許法29条2項,102条3項,民法709条
(関連する権利番号等)特許第3350773号 第3295771号
判 決 要 旨
1 本 件 は ,家 庭 用 ゲ ー ム 機 な ど の 情 報 処 理 装 置 を 対 象 と し た シ ス テ ム 作 動 方 法 に
関 す る 発 明 に 係 る 特 許 権 A ,ゲ ー ム 機 に お け る ゲ ー ム の 進 行 状 態 に 応 じ て 遊 戯 者
に振動を体感的に伝達するように構成された遊戯装置及びその制御方法に関す
る 発 明 に 係 る 特 許 権 B を 有 し て い た 控 訴 人 が ,被 控 訴 人 が 製 造 ,販 売 す る ゲ ー ム
ソ フ ト( イ 号 製 品 及 び ロ 号 製 品 )は 上 記 各 特 許 権 に 係 る 発 明 の 技 術 的 範 囲 に 属 し ,
そ れ ら の 製 造 ,販 売 が 上 記 各 特 許 権 の 侵 害 行 為 に 該 当 す る な ど と し て ,被 控 訴 人
に対し,不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた事案である。
原判決(大阪地方裁判所平成26年(ワ)第6163号・平成29年12月1
4日判決)は,①特許権Aに係る発明Aは,特許出願前に日本国内で販売されて
いたゲーム装置,ゲームソフトなどを用いて実現されるゲームシステムにより公
然知られた発明又は公然実施をされた発明(公知発明1)と同一であり,特許A
は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許権Aの侵害
に基づく損害賠償請求は理由がない,②ロ号製品を製造,販売することは,特許
権Bの間接侵害に該当し,また,特許Bは特許無効審判により無効にされるべき
ものとは認められないから,特許権Bの侵害に基づく損害賠償請求は,517万
円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして,上記金
員に係る請求のみを認容し,その余の控訴人の請求をいずれも棄却した。
これを不服として,控訴人は控訴し,被控訴人は附帯控訴した。
2 本判 決は ,控訴 人の控訴 に基づ き原 判決を変 更し ,被控 訴人に対 し,特許権 A
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及 び 特 許 権 B 侵 害 の 不 法 行 為 に よ る 損 害 賠 償 金 の 支 払 を 命 じ ,被 控 訴 人 の 附 帯 控
訴を棄却した。本件の争点は多岐にわたるが,特許Aに係る無効の抗弁及び控訴
人の損害額に関する理由の要旨は,以下のとおりである。
⑴ 特許Aに係る無効の抗弁について
公知発明1は,前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上,後作
のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイしたり,前作のゲー
ムのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にしたりすることによっ
て,前作のゲームをプレイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプ
レイしたいという欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという
技術思想を有するものであるから,プレイ実績などを示す情報を前作の記憶媒
体にセーブできることを前提とする。そうすると,公知発明1において,発明
Aのような構成(セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除くこと)を採用する
ことは,動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるので,発明Aは,公知発明1
に基づき容易に発明をすることができたものではない。
したがって,特許Aは,特許無効審判により無効となるべきものとはいえな
い。
⑵ 控訴人の損害額について
控訴人は,特許法102条3項により算定される損害額を主張する。
ア 特許権Aの侵害に関し
①本件において,特許Aの実際の実施許諾契約の実施料率は現れていない
ところ,特許Aの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率
が,アンケート結果では2.5%であること,②侵害品に係るゲームソフト
においては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫等が,その売り上
げに大きく貢献していることは否定できないとはいえ, 明Aに係る技術も,

売上げの向上に相応の貢献をしていると認められること,③発明Aの代替と
なる技術は存在しないこと, 控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,

本件訴訟に現れた事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に
定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は,3.0%を下らな
いものと認めるのが相当である。
イ 特許権Bの侵害に関し
前 記 ⑴ ① と 同 様 の 事 情 の ほ か ,② 発 明 B に 係 る 技 術 は ,侵 害 品 で あ る ゲ ー
ム ソ フ ト に と っ て そ れ な り に 意 味 を 有 す る も の で あ り ,か つ 代 替 性 も な い も
の で あ る と は い え ,ロ 号 製 品 の 売 上 げ 及 び 利 益 へ の 貢 献 度 は ,同 製 品 の 設 定 ,
ビジュアル,演出,キャラクターなど訴求力の高いものと比較すると低く,
イ 号 製 品 に お け る 発 明 A の 重 要 性 と 比 べ て も ,そ の 価 値 は 低 い も の で あ る こ
と ,③ 控 訴 人 と 被 控 訴 人 は 競 業 関 係 に あ る こ と な ど ,本 件 訴 訟 に 現 れ た 事 情
-2-
を 考 慮 す る と ,特 許 権 侵 害 を し た 者 に 対 し て 事 後 的 に 定 め ら れ る べ き ,本 件
で の 実 施 に 対 し 受 け る べ き 料 率 は 1 .5 % を 下 ら な い も の と 認 め る の が 相 当
である。
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参照法条

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