裁判例検索

裁判例結果詳細

高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和49(の)1

事件名

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件

裁判年月日

 昭和55年9月26日

裁判所名・部

 東京高等裁判所  第三特別部

結果

高裁判例集登載巻・号・頁

 第33巻5号359頁

原審裁判所名

原審事件番号

判示事項

 一 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独禁法という。)八五条三号の合憲性
二 独禁法九六条に基づく公正取引委員会の有効な告発があつたとされた事例
三 独禁法八九条一項二号(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)の「競争を実質的に制限した」の意義及びその犯罪構成要件としての明確性と憲法三一条
四 石油連盟による石油精製業者に対する原油処理量の配分(いわゆる生産調整)が独禁法八九条一項二号(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)、九五条二項(右改正前のもの)、八条一項一号所定の一定の取引分野における競争を実質的に制限した罪にあたるとされた事例
五 通商産業省の容認のもとに行なわれたことが石油連盟による生産調整の違法性を阻却しないとされた事例
六 被告人らに違法性の意識がなく、そのことに相当な理由があるとして独禁法違反の故意が否定された事例

裁判要旨

 一 独禁法八五条三号は、憲法一四条、三一条、三二条及び三七条に違反しない。
二 本件告発状は、公正取引委員会委員長の署名押印を欠き、方式に違反するが、同委員会の作成に係ることが明らかであつて、同委員会の告発の意思が認められる事情がある(判文参照)から、本件においては、右告発状により独禁法九六条に基づく有効な告発があつたと認められる。
三 独禁法八九条一項二号(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)に「競争を実質的に制限した」というのは、その行為の態様としては同法二条六項所定の行為をすべて含むと解すべきであるから、構成要件の予定する行為態様は明確であり、その行為の結果ないし効果としての競争の実質的制限とは、一定の取引分野における競争を全体としてみて、その取引分野における有効な競争を期待することがほとんど不可能な状態をもたらすことをいうものと解され、その意味内容は、通常の判断能力を有する一般人において理解が可能であるから、右規定は、右構成要件が不明確であるため罪刑法定主義に反して憲法三一条に違反するものではない。
四 独禁法二条二項所定の事業者団体である石油連盟の会長及び同連盟需給委員長らが、同連盟の業務に関し、従前から慣行上このような業務を行なつてきた需給常任委員会において、同連盟会員である石油精製業者全部を含む五グループ及び九会社に対し、昭和四七年度下期分及び同四八年度上期分の各一般内需用輸入原油処理量を配分して制限したこと(いわゆる生産調整)(判文参照)は、事業活動を拘束する右数量の制限によつて、石油製品生産量を抑制し、沖縄県を除く国内の元売業者間の販売競争が行なわれる全体としての石油製品市場という取引分野において、元売業者間における一般内需用石油製品の販売競争の競争機能を減退させ、その競争を実質的に制限したものであつて、独禁法八九条一項二号(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)、九五条二項(右改正前のもの)、八条一項一号所定の一定の取引分野における競争を実質的に制限した罪に該当する。
五 本件生産調整は、本件の具体的事情(判文参照)のもとでは、石油業法の定める供給計画制度を実施するために同法が許容する運用措置とは認められないから、法令による行為又は正当な業務による行為にはあたらず、右生産調整が、通商産業省の容認のもとに行なわれ、同省の行政に対する協力措置としての役割を果したことは認められるが、同省の供給計画ないし需給計画の実施に重大な支障を生ずるおそれがあるためやむを得ないでした行為とは認められないこと、その内容、方法に石油連盟の市況対策としての配慮をした自主的判断が加わつていることなどの事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から考察すると、右生産調整は許容されないものであり、その違法性は阻却されない。
六 本件のように、昭和三七年七月一〇日の石油業法施行当初から同四一年度上期まで通商産業省又はその指示を受けた石油連盟による生産調整が公然と行なわれ、その後も本件に至るまで必要に応じ同省の要請により又はその容認のもとに同連盟による生産調整が続けられ、その間の経緯が国会審議、通商産業省編集の公刊物及び業界紙等により関係者間に周知の事実となつていたのに、公正取引委員会がこれに対し何ら注意、警告、調査等の措置をとらなかつたばかりか、昭和四一年三月同委員会委員長が国会において通商産業省の行政指導による石油の生産調整を容認するように受け取られる答弁をしていることなどの諸事情が存在する(判文参照)ときは、被告人らが自己の本件行為について違法性が阻却されると誤信していたため違法性の意識を欠いていたと認められ、かつ、これを欠いたことに相当な理由があるというべきであるから、被告人らには独禁法違反の罪の故意がなかつたと認められる。

全文