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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成7(行ウ)30

事件名

 更正処分等取消請求事件

裁判年月日

 平成11年12月13日

裁判所名

 神戸地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 税務署長が,所得税の青色申告者に対する税務調査に際し,被調査者が,帳簿書類の提示を拒否し,帳簿書類の備付け等が正しく行われていることを確認できなかったとして所得税法150条1項1号に基づいてした青色申告承認取消処分が,適法であるとされた事例
2 弁護士が不動産売却に関する委任契約に基づき受領した手数料等は,同売却にかかる代金受領及び登記手続が完了した時点の属する年分ではなく,同弁護士が同手数料等を受領した時点の属する年分の収入金額として計上すべきであるとされた事例
3 青色申告に係る所得税更正処分の取消訴訟において,処分理由の差替えが許されるとされた事例
4 鉄工所事業に供されていた土地を,鉄工所の経営者で前記土地の所有者でもある者の死亡後に譲渡した場合に,租税特別措置法(平成2年法律第13号による改正前)37条1項の適用が否定された事例

裁判要旨

 1 税務署長が,所得税の青色申告者に対する税務調査に際し,被調査者が,帳簿書類の提示を拒否し,帳簿書類の備付け等が正しく行われていることを確認できなかったとして所得税法150条1項1号に基づいてした青色申告承認取消処分につき,所得税法は,青色申告者に対し,各種優遇措置を講ずる反面,帳簿書類の備付け等の義務を課しているところ,これは所得税に関する調査が行われる場合には税務署職員による帳簿書類の検査に応ずべきものとし,同調査において帳簿書類の備付け,記録又は保存が正しく行われていることが確認できない場合には,税務署長は青色申告の承認を取り消すことができるものとする趣旨と解されるが,税務署職員の行う全過程を通じて,税務署側が帳簿書類の備付け等の状況を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を怠ったと認められるような場合には,青色申告承認の取消しは,税務署長に裁量権の濫用があるとして違法となると解するのが相当であるとした上,税務署職員が,前記被調査者に対し繰り返し帳簿等の提示を要請したにもかかわらず,被調査者が帳簿等の提示をしなかったことから,同職員が帳簿等の備付け,記録及び保存が正しく行われていることが確認できなかったものであり,税務署側が社会通念上当然に要求される程度の努力を怠ったともいえないとして,前記処分を適法とした事例
2 弁護士が不動産売却に関する委任契約に基づき受領した手数料につき,収入の原因となる権利が確定する時期については,それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものであり,前記手数料のような人的役務の提供による収入については,その人的役務の提供を完了した日と解されるとした上,同売却に係る代金受領及び登記手続が完了した時点では,人的役務の提供が完了したとは認められず,他に的確な証拠が存しないから,同手数料等を受領した時点の属する年分の収入金額として計上すべきであるとした事例
3 青色申告に係る所得税更正処分の取消訴訟につき,課税処分の取消訴訟における実体上の審判の対象は,課税処分によって確定された税額の適否であり,課税処分によって確定された税額が処分時に客観的に存在した税額を上回っていないかどうかが審理されることから,課税庁は,処分時の認定理由に拘束されることなく,その後に発見,認識した事実に基づいてその課税根拠を主張できるというべきであり,更正,異議決定又は審査請求に対する裁決の段階で考慮されなかった事実を,処分を正当とする理由として,訴訟の段階にいたって新たに主張することは許されると解するとした上で,納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような信義則ないし禁反言の法理の適用の是非を考えるべき特別な事情も存在しないとして,処分理由の差替えは許されるとした事例
4 鉄工所事業に供されていた土地を,鉄工所の経営者で前記土地の所有者でもある者の死亡後に譲渡した場合につき,租税特別措置法(平成2年法律第13号による改正前)37条1項にいう事業用資産とは,営利を目的として自らの危険と計算において継続的に行う事業のために使用する資産をいい,原則として,資産が譲渡された当時,現実かつ継続的に事業の用に供されているものをいうと解すべきであるが,譲渡された当時,たまたま,現実に事業の用に供されていなかった場合であっても,事業継続の存在することが客観的に明白であって,譲渡の時点において未だ事業用資産としての性質を失っているものではないと認められるときは,前記事業用資産は,同項にいう事業用資産に当たるとした上,前記土地の譲渡時において,前記鉄工所は前記経営者の死亡に伴って営業停止状態にあり,経営者の相続人には鉄工所事業を継続する意思や能力があるとはいえず,前記土地を不動産貸付事業に供する予定であったとも認められないとして,同項の適用を否定した事例

 

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