裁判例検索

裁判例結果詳細

行政事件 裁判例集

事件番号

 平成24(行コ)80

事件名

 神戸市外郭団体への人件費支出損害賠償等請求(差戻)控訴事件(原審・神戸地方裁判所平成20年(行ウ)第76号)

裁判年月日

 平成24年10月12日

裁判所名

 大阪高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 市がその職員を派遣している団体に対し公益団体等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成18年法律第50号により公益的団体等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律と題名改正)6条2項の手続によらずに当該職員の人件費に充てるために補助金等を支出したことにつき市長に,過失があるとはいえないとされた事例
2 住民訴訟の係属中にされたその請求に係る市の不当利得返還請求権を放棄する旨の条例の制定に係る市議会の議決が適法であり,当該放棄が有効であるとされた事例

裁判要旨

 1 市がその職員を派遣している団体に対し,公益団体等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成18年法律第50号により公益的団体等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律と題名改正)6条2項の手続によらずに当該職員の人件費に充てるために補助金等を支出したことにつき,同法は,地方公共団体が派遣先団体等に支出した補助金等が派遣職員等の給与に充てられることを禁止する旨の明文の規定は置いていないこと,同法の制定の際の国会審議において,地方公共団体が営利団体に支出した補助金が当該団体に派遣された職員の給与に充てられることの許否に関する質問に対し,自治政務次官が,明確に否定的な見解を述べることなく公益上の必要性等に係る当該地方公共団体の判断による旨の答弁をしており,同法の制定後,総務省の担当者も,市や他の地方公共団体の職員に対し,派遣先団体等における派遣職員等の給与に充てる補助金の支出の適否については派遣法の適用関係とは別途に判断される旨の説明をしていたこと,当該補助金等の支出当時,他の多くの政令指定都市において,派遣先団体等に支出された補助金等が派遣職員等の給与に充てられていたことがうかがわれること,団体等に派遣された職員の給与に充てる補助金の支出の適法性に関しては,同法の施行前に支出がされた事例に係る裁判例はこれを適法とするものと違法とするものに分かれ,同法の施行後に支出がされた事例につき,当該補助金等の支出の時点で,同法と前記の補助金の支出の関係について直接判断した裁判例は見当たらなかったこと等の事情に照らすと,市長において,同法6条2項の規定との関係で,当該団体に対する前記補助金等の支出の適法性について疑義があるとして調査をしなかったことがその注意義務に違反するものとまではいえず,その支出をすることが同項の規定又はその趣旨に反するものであるとの認識に容易に至ることができたとはいい難いから,市長において,自らの権限に属する財務会計行為の適法性に係る注意義務に違反したとはいえず,また,補助職員が専決等により行う財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反したともいえないとして,市長に尽くすべき注意義務を怠った過失があるとはいえないとされた事例
2 市がその職員を派遣している団体に対し公益団体等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成18年法律第50号により公益的団体等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律と題名改正)6条2項の手続によらずに前記職員の人件費に充てるために補助金等を支出したことが違法であるとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,前記団体に不当利得返還の請求をすることを市長に対して求める訴訟の係属中に,前記不当利得返還請求権を放棄する旨の改正条例の制定に係る市議会の議決につき,前記補助金等は前記職員等の給与等に充てられるものとして支出されたものであり,公益団体等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律6条2項の手続によらない給与の支給として違法であるが,その違法事由は,前記職員等の給与等に充てられる公金の支出の適否に関する同法の解釈に係るものであるところ,市長はもとより前記団体においてもその支出の当時これが同法の規定又はその趣旨に違反するものであるとの認識に容易に至ることができる状況にはなく,市からその交付を受けて前記職員等の給与等の人件費に充てた前記団体の側に帰責性があるとは考え難いこと,前記補助金等の支出の原因及び経緯に関しては,前記団体が不法な利得を図るなどの目的によるものではなく,前記職員等の給与等の支給方法について市側が補助金等の支出という方法を選択したことによるものであって,前記団体がその支給方法の選択に自ら関与したなどの事情もうかがわれないこと,前記補助金等の支出の影響に関しては,前記補助金等は,前記職員等の給与等の人件費という必要経費に充てられており,前記職員等によって補強,拡充された前記団体の活動を通じて医療,福祉,文化,産業振興,防災対策,住宅供給,都市環境整備,高齢者失業対策等の各種サービスの提供という形で住民に相応の利益が還元されており,前記団体が不法な利益を得たということはできないこと,市議会の議決を経て成立した前記条例全体の趣旨は,派遣職員の給与については,市が派遣先団体に支出する補助金等をこれに充てる方法を違法とした別件訴訟における裁判所の判決の判断を尊重し,同法の趣旨に沿った透明性の高い給与の支給方法を採択したものということができること,前記補助金等に係る不当利得返還請求権の放棄又は行使の影響についても,前記条例によれば,派遣職員等の給与の大半は,適法な手続を経た上で市の公金から支出されることがそもそも予定されていたものであり,前記請求権の放棄によって市の財政に及ぶ影響は限定的なものにとどまり,前記請求権の行使により直ちにその返還の徴求がされた場合,前記の各種サービスの十分な提供が困難になるなどの市における不利益が生ずるおそれがあり,その返還義務につき前記不利益を回避すべき要請を考慮して議会の議決を経て免責がされることは,その給与等の大半については返還と再度の支給の手続を行ったものと実質的に同視し得るものともいえる上,市における前記不利益を回避することに資するものということもできること等の事情を総合考慮すれば,市が前記不当利得返還請求権を放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理であるとは認め難いというべきであり,その放棄を内容とする前記条例に係る市議会の議決は,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとはいえず,適法であり,前記放棄は有効であるとされた事例

全文