トップ > 各地の裁判所 > 最高裁判所 > 各種委員会 > 医事関係訴訟委員会について > 第29回医事関係訴訟委員会・第27回鑑定人等候補者選定分科会議事録
1. 日時
平成29年2月21日(火) 午後1時30分
2. 場所
最高裁判所大会議室
3. 出席者(敬称略)
委員
永井良三(委員長),五十嵐隆(委員長代理),新井一,岡井崇,小川聡,寺本民生,中村耕三,吉岡桂輔,渡邉聡明
〔髙本眞一,西岡清一郎及び吉村泰典は欠席〕
オブザーバー
相澤眞木(東京地裁判事),比嘉一美(大阪地裁判事)
事務局
平田豊(民事局長),山本拓(民事局第二課長)
4. 議事
(1) 開会の宣言
(2) 医学界と法曹界の相互理解と協力の現状
ア 医療訴訟連絡協議会等の開催結果について
事務局から,平成28年に各地方裁判所において開催された医療訴訟連絡協議会等の医療の専門家と法曹関係者との間の意見交換の開催結果について報告があった。
イ 東京地裁・大阪地裁における相互理解と協力のための取組について
東京地裁からは,平成14年頃から医療界との相互理解のための協議会等を開催するとともに,医療機関,弁護士会及び裁判所による「医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」を平成20年から毎年開催しており,平成28年には同シンポジウムにおいて診療ガイドラインと異なる医療行為がされた場合の過失について判断した裁判例を題材として意見交換が行われたこと等の報告があった。大阪地裁からは,大阪高裁医事鑑定ネットワークにおいて定期的に医療訴訟連絡協議会を開催して意見交換を行っており,平成28年には鑑定の方式について意見交換を行ったこと,大阪地裁では医師の講演を開催していること等の報告があった。
ウ 意見交換
以上の報告を基に意見交換を行い,「医学界と法曹界の相互理解と協力」を深めるための取組を継続的に行うことの重要性が確認された。
(主な発言)
- 個々の事案においてどう考えるかということも重要であるが,シンポジウム等の場で様々な点について双方向的な意見交換を行うなど,医学界と法曹界の相互理解をどのように深めていくかということがより重要だと思う。
- ガイドラインが医療訴訟においてどのように取り扱われるかについては,医学界においても関心が高いと思われるので,そういった点をテーマとして意見交換を行うことは意義があるといえる。
- ガイドラインにも様々なものがあり,医療訴訟においてそのまま適用できないものもあると思う。医学界においてもガイドラインとは何かということを考える必要があるし,法曹界にもそういった現状を理解してもらうため,相互理解を深める必要がある。
- 医学界と法曹界の相互理解と協力に関連し,産科においては,産科医療補償制度が導入されている。同制度では,医師や弁護士等で構成される第三者機関により原因分析が行われることにより,脳性麻痺の訴訟件数のみならず,発症件数も減っており,社会的に有意義であると思う。
(3) 鑑定人候補者推薦依頼の現状等
ア 医事関係訴訟事件統計について
事務局から,平成28年(1月~12月)の医事関係訴訟事件の動向について説明があった。
イ 鑑定人候補者推薦依頼事務について
事務局から,これまでの鑑定人候補者推薦依頼について,鑑定人候補者推薦依頼手続が開始されるようになってからこれまで50の学会に対して多数の鑑定人候補者推薦依頼がされ,そのほとんどについて候補者の推薦をいただいていることや,学会への依頼から回答までの平均日数も短縮されており,学会から速やかな鑑定人候補者推薦の協力が得られている旨の報告があった。
また,事務局から,本委員会より各学会に対して鑑定人の推薦依頼をした事案について経過報告があり,また,前回の報告後,本委員会開催日までに推薦依頼をした事案について,別添「鑑定人候補者推薦依頼先学会の選定結果」(PDF:159.6KB)のとおり,推薦依頼先学会の選定状況の報告があった。
さらに,東京地裁・大阪地裁から,両地裁ではそれぞれ医療機関とのネットワークによって鑑定人候補者の推薦を得ているものの,最先端の医療分野が問題となる場合や,被告である医師・協力医が多いため多数の利害関係が生じる場合等,ネットワークによって鑑定人候補者の推薦を得ることが難しい事案においては,本委員会による鑑定人候補者推薦依頼手続を利用する必要があり,この手続の意義は大きい旨の説明がされた。
ウ 医事関係訴訟委員会におけるアンケート送付について
事務局から,本委員会が各学会に対して推薦依頼を行った事案における裁判所,鑑定人及び訴訟代理人からのアンケート結果を別添「鑑定人候補者推薦依頼事案アンケート結果」 (PDF:346.8KB)のとおり取りまとめ,日本医学会及びこれまで推薦依頼を行った学会に対して送付したことが報告された。また,今後も2年に1回程度の頻度でアンケートの取りまとめを行い,委員会において報告していく予定であることが報告された。
エ 意見交換
以上の鑑定人候補者推薦依頼事務等の報告を基に,鑑定人候補者推薦依頼の現状等について意見交換を行った。
(主な発言)
- 近時は,高次脳機能障害や知覚異常等の判断が難しい事案が増えており,学会において対応に苦慮することもあるのではないか。
- 学会には当該医学領域における包括的な学会とそこから細分化された学会があり,今後は細分化された学会へ鑑定人候補者推薦依頼をすることも多くなると思う。
- 難しい事案であるため依頼先学会が鑑定人候補者の推薦を行うことができない場合にどうすべきかを検討する必要があると思う。
(4) 近時の鑑定人候補者推薦依頼事務における課題
ア 鑑定事項が複数の診療科目にまたがることが想定される場合に鑑定人候補者推薦依頼事務を円滑に行うための方策について
事務局から,近時の鑑定人候補者推薦依頼において,鑑定人候補者推薦依頼をしたものの,依頼先学会から,鑑定事項の一部に専門外の分野が含まれているため,当該事項については鑑定人候補者を推薦することができないとの回答がされた事案が複数見られた旨の説明があり,対応策について意見交換が行われた。意見交換の結果,医師委員に推薦依頼先学会について意見を聴く際,鑑定事項ごとに推薦依頼先学会が異なると考える場合にはその旨の意見を述べやすくなるよう聴取方法を検討することが確認された。
イ 鑑定人候補者推薦依頼書における「推薦に当たっての希望」欄の記載の在り方について
事務局から,近時の鑑定人候補者推薦依頼において,「推薦に当たっての希望」欄に多くの大学や医療機関を挙げてこれらに所属し又は勤務歴のある医師を鑑定人候補者から避けてもらいたい旨の記載があり,推薦依頼先学会の選定の際に,医師委員から当該記載が広範囲過ぎるとの指摘があったことについて説明があり,これを踏まえ,鑑定人候補者推薦依頼における「推薦に当たっての希望」欄の記載の在り方について意見交換を行った。 意見交換の結果,鑑定人候補者の利害関係については,「公正らしさ」や鑑定手続の円滑な進行の観点からは,一定の利害関係を有する者を候補者から除外することには合理性が認められるものの,少しでも当事者等と関係があれば鑑定人候補者にできないとすると,推薦依頼先学会の負担が大きくなり,実際問題として鑑定人候補者を見つけることが困難となる上,そもそも「公正らしさ」の観点からも合理性があるとはいえないことから,鑑定人候補者推薦依頼をする裁判所は,鑑定人候補者についての当事者の希望をそのまま記載するのではなく,「公正らしさ」の観点から必要性を吟味し,それについての認識を当事者と共有した上で,「推薦に当たっての希望」欄の記載をすべきであるとの意見で一致した。
意見交換の結果,鑑定人候補者の利害関係については,「公正らしさ」や鑑定手続の円滑な進行の観点からは,一定の利害関係を有する者を候補者から除外することには合理性が認められるものの,少しでも当事者等と関係があれば鑑定人候補者にできないとすると,推薦依頼先学会の負担が大きくなり,実際問題として鑑定人候補者を見つけることが困難となる上,そもそも「公正らしさ」の観点からも合理性があるとはいえないことから,鑑定人候補者推薦依頼をする裁判所は,鑑定人候補者についての当事者の希望をそのまま記載するのではなく,「公正らしさ」の観点から必要性を吟味し,それについての認識を当事者と共有した上で,「推薦に当たっての希望」欄の記載をすべきであるとの意見で一致した。
(主な発言)
- 本委員会における鑑定人候補者推薦依頼手続は,医学界と法曹界の信頼関係に基づく側面もあると思う。合理的理由がうかがわれない形で余りにも広範囲の医師を鑑定人候補者から避けることが求められると,医学界としては,法曹界が医学界に不信感を持っていると受け取るおそれがある。
- 当事者から一定の範囲の医師について鑑定人候補者から避けてもらいたいとの要望があった場合,裁判所においては,その要望が合理的といえるかどうかについて検討し,当事者と議論する必要があるだろう。
(5) 次回の予定等について
来年度についても,原則として本委員会1回のみの開催とすることが確認された。