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平成14 年7月16日
裁判官の人事評価の在り方に関する研究会
当研究会は,裁判官の職務の特性や裁判実務の実情を踏まえつつ,裁判官の資質と国民の裁判官に対する信頼を高めるためには,どのような観点から裁判官の仕事振りを評価し,どのような手順や方法で評価を実施することが適切かについて,多角的,総合的に検討した。
1. 評価の目的
配置,昇給,判事への任命といった具体的な裁判官の人事を適切に行うための資料とすることが主たる目的となる。さらに,裁判官の自己研さんや能力開発に役立てることも,目的に含まれる。
- このような目的からすると,裁判官の人事評価においては,基本的には,短期的な視点からの明確なランク付けは必ずしも必要ではなく,むしろ,長期的な視点からの評価とその集積が重要となる。
2. 評価制度を整備する上での基本理念
1.裁判官の職権行使の独立や職務の実績への配慮のほか,2.公正性,3.納得性,4.透明性,5.客観性,6.合目的性,7.実行可能性などが挙げられる。
- 裁判官の職務の特性から特に重要な職権行使の独立の原則にかんがみると,裁判官の人事評価を行うに当たっては,係属中の事件について,その裁判の内容,審理の方法,事実認定,法令の解釈・適用に影響を及ぼすことや,確定裁判について,その内容の当否を問題とすることは許されない。
3. 評価基準(評価項目,評価形式等)
(1) 裁判官に求められる資質・能力
裁判官の人事評価の基準という面から裁判官に求められる資質・能力を考えると,事件処理能力(法的判断能力,手続運営能力),組織運営能力といった裁判官としての執務能力に関する要素に加え,それを支える基礎としての人格的資質も求められる。
- 事件処理能力としては,具体的事件の各手続段階において,適正,迅速,公正妥当に判断を形成し得る資質・能力(法的判断能力)と,そのような判断に基づいて手続を適切に運営する能力(手続運営能力)が求められる。
- 組織運営能力としては,事件処理及び司法行政の両面において,職員に対する指導,部の運営等を適切に行い得る資質・能力が求められる。
- 裁判官の人格的資質も,裁判官の職務遂行に関連するものについては,執務能力を支える基礎として,評価項目とすることが必要である。
(2) 評価項目及び評価形式の在り方
詳細な評価項目を設定してそれぞれについて段階式で評価するという方式ではなく,大きな評価項目について基本的に文章式で評価することとし,そのような項目について評価する際の視点(考慮要素)を具体的に明らかにするという方式が適当である。
- 具体的な評価項目及びその評価の視点については,別紙1「評価項目及び評価の視点」(PDF:76KB)参照
- いわゆる目標管理の手法に基づく業績評価については,裁判官の職務の特性に照らすと,導入することはできない。
4. 評価の手続
(1) 評価者
地方裁判所・家庭裁判所所属の裁判官については,地方裁判所・家庭裁判所長を第一次評価者,高等裁判所長官を第二次評価者とし,高等裁判所所属の裁判官については,高等裁判所長官を評価者とするのが適当である。
- 第二次評価者の役割は,自ら得た情報に基づく評価の調整と補充である。なお,高等裁判所所属の裁判官については,第二次評価は行わない。
(2) 評価情報の収集方法
ア 部総括裁判官,同僚裁判官,裁判所職員等からの情報収集
階席裁判官については,日頃身近で執務を共にしている部総括裁判官から情報を得ることが中核になる。書記官等の裁判所の一般職員からの情報も,部の運営,職員に対する姿勢等について顕著な事由がある場合には,評価のための検討の対象とすることが考えられる。
- 評価者と被評価者との面談制度を導入することにより,同僚裁判官からの情報を得ることもでき,情報源の多元化にも資することができる。
イ 上級審裁判官からの情報を取り入れることの当否
顕著な事由がある場合に,上級審裁判官からの情報が評価者に提供されることを是認するという限度にとどめるのが相当である。
ウ 本人の意向を汲み取る方法
従事した職務活動等に関する記載をした書面(自己申告書面)の任意的な提出制度と,(第一次)評価者が被評価者と面談する制度を設けることが適当である。
- このような制度を設けることは,評価の客観性を担保する上で有益である。評価に関する評価者の認識を本人にフィードバックすることにより,自己研さんや能力開発に資する。また,評価に対する本人の納得性を高めることにもつながる。
エ 裁判所外部の見方に配慮する方法
裁判官の人事評価の資料を得ることを目的として事件関係者その他の部外者を対象とするアンケート調査等を行うことは相当でないが,裁判所外部からもたらされる裁判官の執務状況に関する情報については,評価者は,裁判官の職権行使の独立に配慮しつつ,取捨選択の上,評価に活用することが求められる。
- 裁判所外部からもたらされる様々な情報を評価に取り入れるについては,被評価者に事実関係を確認した上ですることが必要である。
- なお,当事者,代理人等裁判所外部の者からもたらされる情報の中には,裁判官の執務や裁判所の運営の改善に対して参考となる意見が含まれていることがあるが,それらについては,評価の問題とは切り離して,研修その他の場を通じ,裁判官の執務や裁判所運営に生かすことが望まれる。
(3) 評価の実施時期
- 毎年,一定の時期に評価を行うことが適当である。
5. 本人への開示及び不服がある場合の手続
(1) 本人への開示
自己の人事評価の開示を希望する者に対して,評価書面に記載されているすべての内容を開示することが相当である。具体的には,所定の期間内に開示の申出をした者に対し,評価書面の写しを交付する方法によって行う。
- 開示の基本的な意義は,制度の透明性を高めることにあるが,更に,開示された評価について被評価者に意見を述べ,評価を是正する機会を提供することにより,評価の適正さを担保するとともに,被評価者の納得を高める機能が期待できる。また,被評価者に対し自己研さんや能力開発の機会を与えることになる。
(2) 不服がある場合の手続
被評価者が評価の内容について不服を述べる機会を保障し,それを受けて評価者が評価内容を再考する手続を設けるとともに,その過程及び結果を記録化するものとすることが相当である。
- 具体的な手続については,別紙2「不服がある場合の具体的な手続」(PDF:60KB)参照
6. 制度化の方法
裁判官の人事評価制度は,憲法77条1項が最高裁判所に規則制定権を与えている「裁判所の内部規律…に関する事項」に該当し,裁判官の職務の特質,実情等をよりよく踏まえた制度を整備するとの観点からも,最高裁判所規則により定めることが憲法の趣旨に適う。
7. 終わりに
- 裁判官の人事評価制度は,裁判官の資質・能力を適正に評価でき,その意欲の向上に資するものでなければならないが,裁判官の職務が多面的かつ総合的な資質・能力を要するものであることに加え,評価資料の収集についても,その職務,身分の特性から特別な配慮を要する点があるため,評価の実施にはもともと大きな困難が伴っている。また,当研究会が提言した裁判官の人事評価制度には,裁判所にとって未経験の全く新たな試みがいくつも含まれている。それだけに,その制度化や実施の段階においては,様々な問題に直面することが予想される。今後,裁判所において,裁判官の人事評価制度の整備に取り組むに当たっては,その運用について不断の検証を行うとともに,そこに現れた問題を克服するため叡智をもってかつ柔軟に対応していくことが求められよう。
- 裁判所においては,当研究会が示した考え方を踏まえ,新たな裁判官の人事評価制度を整備するとともに,適正に人事評価を行い,その結果を適切に人事に反映することによって,裁判官の資質と国民の裁判官に対する信頼とを一層高めていくことに努めるよう期待したい。