標準必須特許(SEP)に基づく特許権侵害訴訟の審理要領
標準必須特許に基づく特許権侵害訴訟の審理要領
令和8年1月 東京地方裁判所知的財産権部
(民事第29部・第40部・第46部・第47部)
標準必須特許(以下「SEP」といいます。)に基づく特許権侵害訴訟(以下「SEP訴訟」といいます。)の審理に当たり、以下の点にご留意ください。
1 審理方針
標準規格の国際的普及によりSEPの実施が必然的に国境を越えることに鑑みると、SEP訴訟の解決において裁判所が果たすべき重要な役割の一つとしては、当該SEPを含むSEP保有者のグローバルSEPポートフォリオ全体について、FRAND条件によるライセンス料(以下「グローバルFRAND実施料」という。)の合意形成を図り、もってSEPに関するグローバル紛争を世界的に解決する仕組みを提供することにあります。
このような観点から、裁判所は、SEP訴訟においては、グローバルFRAND実施料に関する合意形成を可及的速やかに促進するため、原則として第1回期日において和解を勧告した上で、和解交渉のための期日を計画的かつ集中的に指定するなどして、当事者間の合意形成を後押しすることになります。
2 審理計画
SEP訴訟では、充足論及び無効論に関する争点は少ないのが通例であり、権利濫用の抗弁の成否(FRAND条件によるライセンスを受ける意思の有無)が主要な争点となります。
権利濫用の抗弁については、上記の和解勧告後に和解交渉がされたにもかかわらず、和解成立の見込みがないとして和解手続が打ち切られた場合、当事者双方は、訴訟提起前から和解手続の打切りまでの交渉経過及び交渉内容を踏まえ、権利濫用の抗弁に関する主張立証をまとめて整理した書面及び証拠を速やかに提出することになります。この場合には、裁判所は、上記主張立証に基づき、権利濫用の抗弁の成否を判断することになります。
なお、充足論及び無効論に関する争点がある場合には、第1回期日において、充足論及び無効論に関する書面の2往復(原告の主張・立証、被告の反論・反証、原告の再反論・再反証、被告の再々反論・再々反証)の提出期限を定め、基本的には書面審理を行います。この場合には、第1回期日の口頭議論を踏まえ、必要に応じて技術説明会の期日を第1回期日で決めることがあります。
3 和解手続
当事者双方は、裁判所の和解勧告の下において、第1回期日後、上記書面審理の間も、和解交渉を集中的に行うことになります。和解手続において、裁判所は、ホールドアップとホールドアウトという極端な交渉態度を排し、中庸に立脚した公正かつ中立な交渉秩序の形成を図ります。そして、裁判所は、当事者間の交渉経過及び交渉内容を尊重した上、その合意形成を後押しする観点から、当事者双方が提出した和解案を調整することになります。最終的に、裁判所は、グローバルFRAND実施料に関する和解案を提示する場合もありますが、この場合でも、裁判所が一方的にグローバルFRAND実施料を定めるのではなく、当事者双方の意向を十分に聴取した上で、その意向を尊重した和解案を提示することになります。
なお、当事者双方は、第1回期日後速やかに、合意形成を促進する観点から、グローバルFRAND実施料を除くその他の条件について協議し、合意書を作成するものとします。和解が成立した場合には、当該合意書は、グローバルFRAND実施料の記載が追加された上、別紙として和解調書に添付されます。
4 原告側の準備
原告は、訴状において算定根拠を具体的に明示した上で、グローバルFRAND実施料を提案するものとします。算定方法については、算定根拠が示されている限り、トップダウンアプローチ、比較アプローチ、その組合せのいずれを用いることも差し支えありません。
5 被告側の準備
被告は、答弁書において原告の算定根拠に対する具体的な認否及び反論を示すとともに、被告の算定根拠を明らかにした上で、グローバルFRAND実施料に関する対案を提出するものとします。その際、被告製品等の販売数、販売額等に関する証拠も併せて提出する必要があります。
なお、被告がグローバルFRAND実施料の算定に必要な証拠を任意に提出しない場合には、裁判所においてFRAND条件によるライセンスを受ける意思がないものと判断されるおそれがあることにご留意ください。
以 上