1. 日時
平成13年11月19日(月)午後2時
2. 場所
最高裁判所中会議室
3. 出席者(敬称略)
委員
平山善吉
特別委員
大森文彦,坂本功,山口昭一,山本康弘,和田章
オブザーバー
斎藤賢吉,工藤光悦,田中信義,田中敦
事務局
林道晴,菅野雅之
4. 議事
(1) 特別委員紹介及び自己紹介
(2) これまでの経過の説明(事務局)
(3) 東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の実情紹介
(4) 鑑定人及び調停委員候補者の選定スキームについて
次のとおり,鑑定人及び調停委員候補者選定スキームを決定した。 推薦依頼については,基本的には,
- 原庁から,建築関係訴訟委員会事務局(最高裁民事局)への推薦依頼
- 建築関係訴訟委員会事務局(最高裁民事局)から,社団法人日本建築学会(司法支援建築会議)への推薦依頼
の経路をたどり, 推薦は,この逆の経路をたどることとする。 問題のある事例については,分科会で審議(緊急の場合は,持ち回りによる書面での審議による。)することとする。
(5) 鑑定人及び調停委員の選任後におけるバックアップ,事後フォローについて
1)鑑定人,専門調停委員向けの手引等を,裁判所と学会が協力して,意見を出し合って作成していくこととなった。
(主な発言)
- 調停主任裁判官が立ち会わずに調停を行うと,専門家調停委員は,争点を整理することに慣れていないので,スムーズな争点整理が困難になる場合があり,その点についての配慮が必要である。
- 鑑定人に対して訴訟の結果を通知する運用は,徹底してほしい。
- 調停の場合は,研修会などによって疑問点を解消することができるが,鑑定の場合は,研修会などがないために苦労することが多い。鑑定に関する手引の方がよりニーズがあると思われる。
- 東京地方裁判所では,調停委員候補者から,最初の段階で必要な情報を提供してほしいとの要望を受けることが多いので,「調停委員を志望する人へのQ&A」を作成した。また,鑑定の手引についても,実際の鑑定書を分析し実務として必要なところを検討して,作成しているところである。その一方で,鑑定を行った人にもアンケートし,実際に鑑定する上で必要となる具体的な問題点を拾い上げている。
- このような資料については,今後東京地方裁判所と大阪地方裁判所とが調整をして作成していくということも検討してみたい。
- 事案によっては,鑑定人1人では負担が重く感じる事件もある。場合によっては複数人の鑑定人を選任するなどの配慮をしてほしい。
- 「瑕疵に当たるか。」という鑑定事項が見られないではないが,「瑕疵」は法的評価を含む概念であるから,より具体的な鑑定事項を確定してもらった方が,鑑定人は迷うことが少なくなると思われる。
2)鑑定人,調停委員候補者の選定における技術的な方法や公平性を確保するためのルールの在り方について,次回の分科会で山本特別委員から報告してもらうことになった。
3)鑑定人,調停委員経験者の感想,意見等の調査について,次回の分科会で山口特別委員から報告してもらうことになった。
(主な発言)
- 鑑定の結果を判断の基礎とした判決とは別個に,その判断の内容自体を学会で評価するということになると無用な混乱を生じさせることにもなり得る。学会としては,学術的な評価をするにとどまることにはなろうが,できるだけそういった事態が起こらないように,意見の分かれる可能性があると考えられる事件については,最初から反対の考え方を持っている者も鑑定人に入れて,それぞれの見解を出させるといった工夫も必要ではないか。
(6) 建築関係紛争の原因分析について
建築事件の集中部である,東京地方裁判所民事第22部及び大阪地方裁判所第10民事部で集めたデータを,学会で分析する方法を検討することととなった。
(主な発言)
- データの集積といっても,細かく集め出すときりがないように感じられる。学会としてどのようなデータが欲しいのかを教えてほしい。
- 学会でどのようなデータが欲しいかについては,抽象論では内容がまとまらないので,具体的なイメージを持つために,裁判所で記録等を閲覧させてもらえればありがたい。
(7) 建築関係における,契約書などの書面の重要性に関する検討について
書面の重要性,説明義務の内容等については,東京地方裁判所,大阪地方裁判所以外に建築関係訴訟が多数係属する裁判所からも意見を聴取して意見を集約し,次回,それを基に議論することとなった。
また,次回,大森特別委員からも,書面に関する問題点を紹介してもらい,議論することとなった。
(主な発言)
- 約款や契約書に関しては,建築に関する各種団体が参加する委員会において,検討されており,新築住宅などについては,定型的な約款が使用される例が相当多くあり,また,設計契約に関しても契約書については普及しつつあるといえる。今後は,図面の内容,図面の精度が問題となってくるのではないか。また,追加変更契約をどこまで書面化できるのかは,諸外国でも難しいテーマの一つのようであるが,明確に書面化できないか検討している。
- 当事者には,親しい者同士の間で,なぜ契約書を作成しなければいけないのか,相手方を信用していないというように受け取られるのではないかといった気持ちがある。鑑定にしても,調停にしても,基本的な事実関係が確定できないので,事件処理上困難を来たすことが少なくない。契約書を作成しておかないと不利益を被ることまで説明しないと,当事者は理解してくれないことがある。
- 契約書に使われている用語は専門的であり,当事者が完全に理解して契約しているのか疑問である。標準的な契約書ができても,その内容が理解されていなければ意味がない。
- 消費者は,契約書の用語をほとんど理解できないと思う。説明義務の問題となるが,その義務の程度を非常に高度なものとすると,消費者に100パーセント理解させるのは極めて困難であるから,設計者にとって酷な結果となる。しかし,一方で説明義務の程度を極めて低いものとすると,消費者が全く内容を理解することができないことになってしまう。
どこに線を引くべきなのか,最低限どのような事柄について消費者に理解させるべきなのか,早急に考えなければならない重大な問題である。 - 専門家と素人では理解に差があり,それを埋めるために専門家には説明義務がある。専門家は,自分が理解していることは説明を省く傾向があるが,こういうことは説明しなさいといった基準を作らないと紛争が絶えることはないと考える。
(8) 建築基準法令の実体規定と契約法上の瑕疵との関係の研究及び建築物の瑕疵による損害額の算定方法の研究について
大森特別委員と東京地方裁判所と共同で具体的な事例を検討し,次回,その事例に基づいて議論することとなった。
(主な発言)
- 建築基準法には,「かぶり厚さ」にしても,最低基準を守らなければならないと書いてあるし,建築訴訟で法律家が欠陥住宅について対処するには,やはり数値を下回っているというのが一番分かりやすいのであって,技術的な意味を理解するのは難しい。
- 誤差はあり得るとは思うが,それでも一定の幅の中に収まると考えるべきではないか。
- 建築基準法の各基準については,それぞれの規定がどのような趣旨で設けられたかということを明らかにする必要があるのではないか。
- 建築基準法は最低基準を定めているのであるから,それを下回るものはやはり瑕疵であると考えるべきである。
- 「かぶり厚さ」が不足していたら,そのことだけで建物全体に瑕疵が及ぶと考えるのか。それとも,建替え以外に,別の修補の方法はあるのか,こうすればある程度の強度まで回復できるとかいった,専門的な観点から議論すべきである。
- 以上の観点からすれば,具体的な事例を取り上げ,これに基づいて議論することが一番早いのではないか。
(9) 今後のスケジュール
平成14年1月21日(月)午後3時から第2回分科会を開催すること,及び平成14年3月5日(火)午後2時から,第3回本委員会と合同で第3回分科会を開催することが決定された。