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高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和63(あ)1064

事件名

 業務上過失致死傷

裁判年月日

 平成3年11月14日

裁判所名・部

 最高裁判所第一小法廷

結果

 破棄自判

高裁判例集登載巻・号・頁

 第45巻8号221頁

原審裁判所名

 福岡高等裁判所

原審事件番号

判示事項

 デパートの火災事故につきこれを経営する会社の取締役人事部長並びに売場課長及び営繕課員に業務上過失致死傷罪が成立しないとされた事例

裁判要旨

 営業中のデパート内の二階から三階への階段の上がり口付近で火災が発生し、三階店内に延焼して各階に燃え広がり、防火管理体制が不備であったため、店内の多数の者が死傷した火災事故について、(一)デパートを経営する会社の取締役人事部長には、防火管理につき包括的な権限と履行義務を有していた代表取締役が適正な防火管理業務を遂行する能力を欠くなど右業務を遂行することができない特別の事情がないこと、代表取締役から防火管理者に選任されたこともデパートの維持及び管理につき委任を受けたこともなく、人事部の所管業務の中に防火管理業務は含まれていなかったことなどの本件の事実関係(判文参照)の下においては、取締役会の構成員の一員として取締役会の決議を促して消防計画の作成等をすべき注意義務や、代表取締役に対し防火管理上の注意義務を履行するよう意見を具申すべき注意義務があるとはいえず、(二)三階の売場課長には、階段の火災を見てから三階店内に延焼するまでの時間がわずかであり、この間従業員に消火の措置を命じ、自らも延焼防止の行動を取るなど、できる限りの努力をしたが、火炎が急激な勢いで店内に吹き込んできたため以後の応急消火、延焼防止が不可能となったことなどの本件の事実関係(判文参照)の下においては、三階店内に延焼する前に階段の防火シャッターを閉鎖する措置を採らなかった過失があるとはいえず、(三)営繕課の課員には、同人をデパートの防火管理者とする選任届が提出されていたとしても、消防計画作成等の防火管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的地位にはなく、右業務を遂行するための具体的な権限を与えられてもおらず、右業務を遂行するためには代表取締役らの職務権限の発動を求めるほかはなかった以上、消防計画を作成してこれに基づく避難誘導等の訓練を実施すべき注意義務があるとはいえず、いずれも業務上過失致死傷罪は成立しない。

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