裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成14(行ウ)19
- 事件名
難民不認定処分取消等請求事件
- 裁判年月日
平成15年9月25日
- 裁判所名
名古屋地方裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前)61条の2第2項本文に規定するいわゆる60日ルールと難民の地位に関する条約及び難民の地位に関する議定書,憲法98条2項,同法31条
2 出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前)61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」の意義
3 ミャンマー連邦の少数民族であるロヒンギャー民族出身の者が,難民の地位に関する条約,難民の地位に関する議定書上の「難民」に当たるとされた事例
4 法務大臣が,ミャンマー国籍を有する者に対してした出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前)49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決の取消請求が,認容された事例
- 裁判要旨
1 出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前)61条の2第2項本文に規定するいわゆる60日ルールにつき,難民認定手続は,条約上の難民が合法的に日本に在留するための手続であって,これを受けられなかったからといって,当該外国人が実体的に「難民」でないことまで確定するものではないし,その手続要件自体も,申請者に対して実質的に不可能を強いるものとはいえないこと等から,難民の地位に関する条約及び難民の地位に関する議定書,憲法98条2項に違反するものではなく,憲法31条が刑事手続のみならず行政手続に類推適用されるとしても,その内容からは,いわゆる不利益処分(行政手続法2条4号参照)を対象とするものと解するのが自然であるところ,難民認定はこれに当たらない上,実質的にみても,60日ルールが,同条の趣旨に反する不当に短い申請期間を定めたものであるともいえないから,同条にも違反しない。
2 出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前)61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」とは,病気や災害による交通途絶等,難民認定を申請することが物理的に不可能であったと認められる場合のほか,我が国において合法的に在留する資格を有し,難民認定を申請すべき何らの動機付けも存しない場合や,難民認定を申請することにより,その者の家族等に対して危難が及ぶことが予想される場合等,難民認定を申請する意思決定を行うことが客観的に困難な事情をいう。
3 ミャンマー連邦の少数民族であるロヒンギャー民族出身の者につき,当該外国人は,「人種」及び「政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」として,難民の地位に関する条約,難民の地位に関する議定書上の「難民」に当たるとした事例
4 法務大臣が,ミャンマー国籍を有する者に対してした出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前)49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決の取消請求につき,ある者が同法60条の2第1項本文のいわゆる60日ルールの適用によって難民認定をしないとされた場合でも,難民の地位に関する条約等との関係では,その者は日本に合法的に在留する資格を有しないとされるにとどまり,法務大臣は,同法49条1項に基づく異議の申出に対する裁決を行うに当たり,同法(平成17年法律第66号による改正前)50条所定の在留特別許可を与えるか否かを決する過程で,当該外国人が実体的に前記条約等の難民に該当するかを判断した上,これが肯定される場合には,送還先をどの国にするか,あるいは送還自体の適否を判断すべきであり,難民該当性が肯定されるにもかかわらず,上記のような判断を加えることなく,異議の申出は理由がないとの裁決をすることは,特段の事情のない限り,法務大臣に与えられた裁量権を逸脱ないし濫用するものとして,違法との評価を免れないというべきであるところ,前記裁決は,前記条約等の「難民」である者について,同条約33条2項に該当する者でないにもかかわらず,同条1項のいわゆるノン・ルフルマン原則に違反して,本国へ送還しようとするものであることが明らかであり,法務大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱ないし濫用するものというべきであるとして,前記請求を認容した事例
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