トップ > 裁判所について > 司法制度改革 > 司法制度改革:司法制度改革推進計画要綱 > 政府の司法制度改革推進計画
1. 本計画の趣旨
本計画は、司法制度改革審議会意見(平成13年6月12日)の趣旨にのっとって行われる司法制度の改革と基盤の整備(以下「司法制度改革」という。)に関し政府が講ずべき措置について、2以下のとおり、その全体像を示すとともに、司法制度改革推進本部(以下「本部」という。)の設置期限(平成16年11月30日)までの間に行うことを予定するものにつき、措置内容、実施時期、法案の立案等を担当する府省等を明らかにするものである。
2. 司法制度改革推進に当たっての基本的な考え方
社会の複雑・多様化、国際化等がより一層進展する中で、行政改革を始めとする社会経済の構造改革を進め、明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後監視・救済型社会への転換を図り、自由かつ公正な社会を実現していくためには、その基礎となる司法の基本的制度が新しい時代にふさわしく、国民にとって身近なものとなるよう、国民の視点から、これを抜本的に見直し、司法の機能を充実強化することが不可欠である。
政府は、このような認識に立ち、本部を中心に、本計画に従って、司法制度改革を総合的かつ集中的に推進することとする。
司法制度改革を推進するに当たっては、司法制度改革推進法に定める基本理念にのっとり、国民がより容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速、適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築し、高度の専門的な法律知識、幅広い教養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹の養成及び確保その他の司法制度を支える体制の充実強化を図り、並びに国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対する国民の理解の増進及び信頼の向上を目指し、もってより自由かつ公正な社会の形成に資することとするものとし、同法に定める基本方針に基づく施策を実施するために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずることとする。
3. 最高裁判所、日本弁護士連合会における取組
司法制度改革は、政府のみならず、最高裁判所(以下「最高裁」という。)、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)も含め全体として総合的かつ集中的に推進されることが重要であることにかんがみ、最高裁に対し、司法制度改革に関する施策を総合的に策定・実施することを期待するとともに、日弁連に対し、司法制度改革の実現のため必要な取組を行うことを期待する。
2. 国民の期待に応える司法制度の構築
第1 民事司法制度の改革
国民の期待に応える司法制度を構築するとの観点から、民事司法制度の改革については、まず、国民が司法を通じてより迅速、適切かつ実効的に権利・利益を実現することができるようにするため、民事裁判の充実・迅速化、知的財産権関係事件等の専門的知見を要する事件及び労働関係事件への対応強化、家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実並びに民事執行制度の強化を図るための措置を講ずる。
次に、国民が司法制度をより容易に利用することができるようにするため、裁判所へのアクセスの拡充を図るための措置を講ずる。
また、国民がそのニーズに応じて多様な紛争解決手段を選択することができるようにするため、裁判外の紛争解決手段(以下「ADR」という。)について、その拡充・活性化を図るための措置を講ずる。
さらに、司法の行政に対するチェック機能の強化を図るための措置を講ずる。
これらを着実に実施するため、本部が設置されている間においては、以下の措置を講ずることとする。
1. 民事裁判の充実・迅速化
民事訴訟事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、以下の方策等を実施する。
- いわゆる計画審理を一層推進するため、審理計画を定めるための協議をすることを義務付けることとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部及び法務省)
- 訴えの提起前の時期を含め当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充することとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部及び法務省)
2. 専門的知見を要する事件への対応強化
専門的知見を要する事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、以下の方策等を実施する。
- 2の第1の1のとおり、民事裁判の充実・迅速化に関する方策等について、必要な対応を行う。
- 各種専門領域における法曹以外の専門家が、専門委員として、その分野の専門技術的見地から、裁判の全部又は一部に関与し、裁判官をサポートする訴訟手続への新たな参加制度(専門委員制度)について、裁判所の中立・公平性を確保することなどに十分配慮しつつ、それぞれの専門性の種類に応じて個別に導入の在り方を検討する。(本部及び法務省)
- 鑑定制度を改善することとし、所要の法案を提出するなど所要の措置を講ずる(法案提出につき平成15年通常国会を予定)。(本部及び法務省)
- 3の第2及び第3の3のとおり、法曹の専門性の強化について、必要な対応を行う。
3. 知的財産権関係事件への総合的な対応強化
- 知的財産権関係訴訟事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、以下の方策等を実施する。
ア 2の第1の1及び2のとおり、民事裁判の充実・迅速化に関する方策等について、必要な対応を行う。
イ 東京・大阪両地方裁判所の専門部を実質的に「特許裁判所」として機能させるため、特許権、実用新案権等に関する訴訟事件について東京・大阪両地方裁判所への専属管轄化を図ることとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部及び法務省)
ウ 3の第3の6のとおり、弁理士の特許権等の侵害訴訟における代理権の付与及び能力担保のための研修について、必要な対応を行う。
エ 3の第2及び第3の3のとおり、法曹の専門性の強化について、必要な対応を行う。 - 日本知的財産仲裁センターや特許庁(判定制度)等のADRを拡充・活性化するとともに、これと訴訟との連携を図ることとし、逐次、所要の措置を講ずる。(経済産業省及び関係府省)
4. 労働関係事件への総合的な対応強化
- 労働関係訴訟事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、2の第1の1及び2並びに3の第2及び第3の3のとおり、民事裁判の充実・迅速化に関する方策、法曹の専門性の強化等について、必要な対応を行う。
- 労働関係事件に関し、民事調停の特別な類型として、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する労働調停の導入を図ることとし、遅くとも本部設置期限までに、所要の措置を講ずる。(本部)
- 労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について検討し、遅くとも本部設置期限までに、所要の措置を講ずる。(本部及び厚生労働省)
5. 家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実
(1) 人事訴訟等の家庭裁判所への一本化
離婚など家庭関係事件(人事訴訟等)を家庭裁判所の管轄へ移管し、離婚訴訟等への参与員制度の導入など体制を整備することとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部及び法務省)
(2) 簡易裁判所の管轄拡大、少額訴訟手続の対象事件の訴額上限の大幅引上げ
ア 簡易裁判所の事物管轄について、経済指標の動向等を考慮して、対象事件の訴訟の目的の価額の上限を引き上げることとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部)
イ 少額訴訟手続の対象事件の訴訟の目的の価額の上限を大幅に引き上げることとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部及び法務省)
6. 民事執行制度の強化
- 不動産執行妨害への対策などについて民事執行制度を改善することとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(法務省)
- 家事審判・調停等により定められた少額定期給付債務の履行確保のための制度を整備することとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(法務省)
7. 裁判所へのアクセスの拡充
- 利用者の費用負担の軽減
ア 訴え提起の手数料
(ア) 訴え提起の手数料について、訴訟の目的の価額に応じて順次加算して算出するいわゆるスライド制を維持しつつ、必要な範囲でその低額化を行うこととし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部)
(イ) 簡易裁判所の少額訴訟事件の訴え提起の手数料について、定額制の導入を含め検討し、平成15年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部)
イ 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い
弁護士報酬の敗訴者負担制度について、不当に訴えの提起を萎縮させないよう、敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等制度設計について検討した上で、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入することとし、所要の法案を提出する(遅くとも平成16年通常国会を予定)。(本部)
ウ 訴訟費用額確定手続
訴訟費用額確定手続を簡素化することとし、平成15年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部) - 民事法律扶助の拡充
民事法律扶助制度について、対象事件・対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方等につき更に総合的・体系的な検討を加えた上で、一層充実することとし、本部設置期限までに、所要の措置を講ずる。(本部及び法務省) - 裁判所の利便性の向上
ア 司法の利用相談窓口・情報提供
司法の利用相談窓口を裁判所、弁護士会、地方公共団体等において充実させ、インターネット上のホームページ等を活用したネットワーク化の促進により、ADR、法律相談、法律扶助制度を含む司法に関する総合的な情報提供を強化するための方策を検討し、逐次、所要の措置を講ずる。(本部及び関係府省)
イ 裁判所の配置
裁判所の配置について、人口、交通事情、事件数等を考慮し、見直しに関する検討を行う。(本部) - 被害救済の実効化
ア 損害賠償額の認定
損害賠償の額の認定に関する制度について検討する。(法務省)
イ 少額多数被害への対応
いわゆる団体訴権の導入、導入する場合の適格団体の決め方等について、法分野ごとに、個別の実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮した検討を行う。(内閣府、公正取引委員会及び経済産業省)
8. 裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化
(1) ADRに関する関係機関等の連携強化
ア ADRの拡充・活性化に向けた裁判所や関係機関、関係省庁等の連携を促進するため、平成14年半ばころまでに関係省庁等の連絡会議を設置するとともに、関係諸機関による連絡協議会の体制が早期に整備されるよう所要の措置を講ずる。(本部及び関係府省)
イ 訴訟、ADRを含む紛争解決に関する総合的な相談窓口を充実させるとともに、インターネット上の閲覧窓口である総合窓口サイト(ポータル・サイト)など情報通信技術を活用した関係機関等の連携を図ることにより、手続、機関等に関しいわゆるワンストップでの情報提供を実現するための方策を検討し、平成16年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部及び関係府省)
ウ 3の第3の6のとおり、隣接法律専門職種など法曹以外の専門家のADRにおける活用及び弁護士法第72条の規制対象の予測可能性の確保について、必要な対応を行う。
(2) ADRに関する共通的な制度基盤の整備
ア 国際的動向を見つつ、仲裁法制(国際商事仲裁を含む。)を整備することとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部)
イ 総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律案を提出することも含めて必要な方策を検討し、遅くとも平成16年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部)
ウ 3の第3の6のとおり、隣接法律専門職種など法曹以外の専門家のADRにおける活用及び弁護士法第72条の規制対象の予測可能性の確保について、必要な対応を行う。
9.司法の行政に対するチェック機能の強化
行政事件訴訟法の見直しを含めた行政に対する司法審査の在り方に関して、「法の支配」の基本理念の下に、司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討を行い、遅くとも本部設置期限までに、所要の措置を講ずる。(本部)
第2 刑事司法制度の改革
刑事司法は、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ、的確に犯罪を認知・検挙し、公正な手続を通じて、事案の真相を明らかにし、適正かつ迅速に刑罰権の実現を図ることにより、社会の秩序を維持し、国民の安全な生活を確保することを目的とする。刑事司法が、その目的を十分かつ適切に果たすことによって、国民の期待に応えていくため、刑事司法制度の改革について、刑事裁判の充実・迅速化、被疑者・被告人の公的弁護制度の整備、検察審査会の一定の議決に対するいわゆる法的拘束力の付与、新たな時代に向けた捜査・公判手続の整備、犯罪者の改善更生及び被害者等の保護を図るための措置を講ずる。
これらを着実に実施するため、本部が設置されている間においては、以下の措置を講ずることとする。
1. 刑事裁判の充実・迅速化
- 刑事裁判の充実・迅速化を図るための方策として、充実した争点整理のための新たな準備手続の創設及び証拠開示の拡充並びに連日的開廷の確保のための関連諸制度の整備を行うこととし、所要の法案を提出する(平成16年通常国会を予定)。(本部)
- 直接主義・口頭主義の実質化を図るための関連諸制度の在り方、裁判所の訴訟指揮の実効性を担保する具体的措置等について検討する。(本部)
- 2の第2の2及び3の第3の3のとおり、連日的開廷による充実かつ集中した審理を実現するため公的刑事弁護制度の整備及び弁護士の執務体制の強化を行い、弁護人が個々の刑事事件に専従することができるような体制を確立することについて、必要な対応を行うとともに、3の第1の2のとおり、裁判所、検察庁の人的体制の充実・強化について、必要な対応を行う。
2. 被疑者・被告人の公的弁護制度の整備
- 被疑者に対する公的弁護制度を導入して被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備することとした上、その運営主体は公正中立な機関とし、適切な仕組みによりその運営のためにいわゆる公的資金を導入することとして、所要の法案を提出する(平成16年通常国会を予定)。(本部)
- 少年審判手続における公的付添人制度について、積極的な検討を行う。(本部)
3. 公訴提起の在り方
検察審査会の一定の議決に対しいわゆる法的拘束力を付与する制度を導入することとし、所要の法案を提出する(平成16年通常国会を予定)。(本部)
4. 新たな時代における捜査・公判手続の在り方
(1) 新たな時代に対応し得る捜査・公判手続の在り方
ア いわゆる刑事免責制度等新たな捜査手法の導入の是非並びに参考人の協力確保及び保護のための方策について、憲法の人権保障の趣旨を踏まえながら、今後の我が国の社会・経済の変化やそれに伴う犯罪情勢・動向の変化等に応じた適切な制度の在り方を多角的な見地から検討する。(警察庁及び法務省)
イ 2の第3の2のとおり、国際捜査・司法共助制度の一層の拡充・強化について、必要な対応を行う。
(2) 被疑者・被告人の身柄拘束に関連する問題
ア 被疑者・被告人の不適正な身柄拘束を防止・是正するため、引き続き、刑事手続全体の中で、制度面、運用面の双方において改革、改善のための検討を行う。(警察庁、法務省及び国土交通省)
イ 被疑者の取調べの適正を確保するため、その取調べ過程・状況につき、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入することとし、平成15年半ばころまでに、所要の措置を講ずる。(警察庁、防衛庁、総務省、法務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省)
5. 犯罪者の改善更生、被害者等の保護
- 犯罪者の矯正処遇及び更生保護に関わる制度及び人的体制(保護司制度に関わるものを含む。)の充実に配慮し、所要の措置を講ずる。(法務省)
- 刑事手続の中での被害者等の保護等への配慮について検討する。(警察庁及び法務省)
- 被害者等への精神的、経済的ケアも含めた社会的支援体制を整備することとし、逐次、所要の措置を講ずる。(内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省)