阿多博文最高裁判事就任記者会見の概要
令和8年2月2日
【記者】
最高裁判事に就任されるに当たり、御所感と今後の抱負をお聞かせください。
【判事】
最高裁判所の判断は、法曹関係者はもちろん、国民からも非常な重みをもって受け止められ、その影響力は大きいものと承知しています。
私自身、法改正のための立案を担当する法制審議会部会に委員として3度ほど関与させていただきましたが、立案に際して、既に最高裁判所の裁判例のある事項については、最高裁の裁判例と同趣旨の改正案であれば別ですが、異なる方向の改正案を検討するに際しては、最高裁の裁判例が判断した事案の内容、想定する射程距離、さらには時代背景の変化等を踏まえた上で異なる方向での改正が合理的かどうか等について慎重に検討を重ねてきた記憶があります。
そのような重要な裁判例の形成に自ら関与することには非常に不安を感じていますが、与えられた職責を全うするべく誠心誠意努力してまいりたいと考えています。
【記者】
これまでの弁護士としてのお仕事や政府の委員会などの公的活動を振り返り、最も印象に残っているものを教えてください。また、弁護士として最も大切にしてきたことは何か、それを最高裁判事の仕事にどう生かしていきたいか、お聞かせください。
【判事】
弁護士としての仕事については、これまで訴訟事件も訴訟事件以外の案件も取り扱ってきましたが、訴訟事件は結論がいずれであれ、依頼者だけではなく、相手方の立場もありますので、具体の説明は控えさせていただきたいと思います。
訴訟事件以外の案件は、あまり先例のない分野の案件を扱ってきました。金融機関の救済策として、1998年(平成10年)10月に、二つの金融機関の特定合併に関与しました。この特定合併は当時の商法、現在の会社法上の新設合併に該当するもので、今でも合併の方式として新設合併がとられることは珍しく、政府機関との調整に苦労しました。
また、1999年(平成11年)に公布された民事再生法については、翌2000年(平成12年)4月の施行直後に申し立てられた再生事件について、後日最高裁判事に就任された故田原睦夫弁護士が監督委員に選任され、その下で監督委員の補助をしました。
さらに、2000年(平成12年)商法改正で導入された会社分割手続が翌2001年(平成13年)4月から施行されましたが、施行直後の6月1日に、上場会社の会社分割を行いました。
さらに、2018年(平成30年)には、鉄道事業・バス事業を営む地方公営企業を民営化(株式会社化)し、地方自治体の100パーセント子会社を設立しました。
近時は、昨年無事閉会した大阪・関西万博の実現のため、2020年(令和2年)からほぼ6年にわたって公益社団法人の設立、定款・規則・規約等の制定、契約ひな形の作成等法律事務一般を処理してきました。
いずれも、あまり先例がない分野の案件でしたが、各種調査を実施し、関係各機関と調整の上関係者と議論を重ねて処理をしてきました。
公職との関係では、法制審議会部会の委員として3度、法改正の立案に関与しましたが、法制審議会の部会では、自らの考えを他の委員に理解してもらうこと、そして、他の委員ないしは推薦母体が主張する考えやその背景を理解し、調整し合意を形成することの重要性を学びました。
弁護士として大切にしてきたことですが、私は、故色川幸太郎元最高裁判事が創設された色川法律事務所に就職し、色川先生の御存命中に、仕事への臨み方、弁護士の在り方等も含め指導を受けてきました。
色川先生からよくお聞きした弁護士の心構えについて、「怖れず侮らず」と「クールヘッド・ウォームハート」という言葉があります。私は、弁護士として、これらの言葉のように冷静にかつ着実に事件や案件に臨むよう心掛けてきました。最高裁判事としても、これらの言葉を支えとして事件に向き合いたいと思います。
【記者】
最近の司法の動向について、特に印象に残っているものや、今後の司法の課題などについてのお考えをお聞かせください。
【判事】
私が法制審議会部会で関与した法改正ですが、まず、2004年(平成16年)6月の商法改正での株券の電子化、今で言うと株券のデジタル化、ペーパーレス化が最初になります。2019年(令和元年)民事執行法改正では第三者からの情報取得手続等の債務者の財産状況の調査に関わり、最後は、2022年(令和4年)の民事訴訟手続のデジタル化となります。振り返ってみれば、法律は異なりますが、デジタルや情報に関する改正に関与してきました。
その意味で、2026年(令和8年)5月21日から全面施行される民事訴訟手続のデジタル化については、直近までデジタル化の実現のために各地で説明会を実施したり、裁判所との間で運営方法について協議したりしてきました。今般、全面施行前に最高裁判事に就任することになりましたので、弁護士登録を抹消することになり、オンライン申立ての機会を失い、残念に思っています。
ただ、デジタル化は手続関与の手段にすぎません。デジタル化を契機に、弁護士と裁判所が協力して充実した審理と適正かつ迅速な裁判を実現し、その結果、国民の裁判への関心やアクセスが高まることを期待しています。
【記者】
お休みの日はどのような過ごし方をされているのでしょうか。
【判事】
仕事人間なのですが、ワークライフバランスを考えながら、趣味にも時間を使っています。趣味は、読書や映画鑑賞のほか、好きなのは美術館巡りになります。美術館巡りに関しては、上京するたびに時間を調整しながら、いろいろな美術館を巡って、展示品を鑑賞しておりました。また、図録集めが好きなものですから、展覧会を訪れるたびに図録を購入して、何度か眺めるなどして、休日と言いますか、仕事以外の時間を使っております。
【記者】
一番お薦めの図録はありますか。
【判事】
学芸員の方の個性が出ていますので、展覧会を訪れたときの雰囲気を思い出しながら眺めております。特にこの図録というものはございません。
【記者】
先ほど色川先生の事務所に就職されたお話をお伺いしましたが、大阪弁護士会出身の判事は久しぶりになるかと思います。その点に関して、どのようにお感じになられますか。
【判事】
大阪弁護士会は、単位会の規模もあると思いますが、事務所を越えて弁護士同士の交流の機会があり、大阪弁護士会から最高裁判事になられた滝井繁男さん、田原睦夫さん、木内道祥さん、いずれの方とも最高裁判事に就任される前から親しくさせていただいていました。滝井先生とは民事訴訟法改正の本を出版される際のお手伝いをし、田原先生とは事件の関係や倒産法改正のお手伝いをし、木内先生とも家族法改正のお手伝いをするなど、各最高裁判事とは就任前後を問わず親しくさせていただいておりましたので、退任後に最高裁の雰囲気がどういうものなのかというお話は、いろいろな機会にお伺いしたことがあり、とても参考にしております。
【記者】
最高裁判事に就任されるまで同志社大学の客員教授をされていたと思うのですが、判事の就任に当たり、この職は現在どうされたのでしょうか。
【判事】
最高裁判事は公務員で兼業禁止がありますので、就任する前に辞職しています。先月末までレポートの採点を苦労して提出し、全て完了してこちらに参りました。
【記者】
これまで関わられてきた業績について御説明いただきましたが、少しまとめてしまって恐縮ですけれども、企業再編等に関わられてきたという認識でよろしいでしょうか。
【判事】
会社法の関係は、長く、大学院時代からずっと関わりを持っております。企業再編に関わってきたのですが、その中でもやはりあまり先例のないことに関わったことが、とても良い経験になったと思っております。
【記者】
万博との関わり方ですが、日本国際博覧会協会でのお立場と、6年にわたって関与された中で印象に残っていることがあれば教えてください。
【判事】
いわゆる法律顧問として法律問題全体に関わってきたのですが、まず、日本国際博覧会協会は公益社団法人であり、政府機関ではありませんが、よく政府機関と同じ処理を要求され、そういう意味では組織の違いというものをいかに各関係機関に理解してもらうのか、という点に苦労しました。また、博覧会は条約等に基づいてフランスにあるBIE(博覧会国際事務局)の承認の下で開催・運営をするのですが、実際は、公式参加国からの要求、さらには各機関からの要求をいかに実現するのか、そういう意味で調整が非常に多い仕事でした。加えて、組織を見たときに、国、地方公共団体、さらには民間から出向されている方で構成されているものですから、文化が違う、背景が違う、そういう方をいかに調整して、同一のルールの中で動いていただくか、ということに苦労しました。そういう意味では、先ほど説明したのと同じで、あまり先例のない新しいことに関わらせていただいたというふうに感じております。
【記者】
御出身は、大阪府になりますか、大阪市になりますか。
【判事】
高校2年までは大阪市に住んでいて、そこから市外に引っ越しましたので、大阪府とまとめていただいたほうが正確かと思います。
【記者】
東京にお住まいになるのは、これが初めてですか。
【判事】
修習生のときに、寮に入らずに一人暮らしを経験しました。それから38年ぶりの東京暮らしになります。