最高裁判所長官「新年のことば」(令和8年1月)
(本稿は、裁判所内の広報誌に掲載された裁判所職員向けの「新年のことば」を転載したものです。)
令和8年1月
新年のことば
最高裁判所長官 今崎幸彦
明けましておめでとうございます。
昨年は、大阪・関西万博が盛り上がり、ノーベル賞受賞やサッカー、野球の国際舞台での選手の活躍など国民として心を躍らせるニュースもありましたが、世界に目をやると、紛争により犠牲となる人々が後を絶たないなど、心の痛む出来事も少なくありませんでした。新しい年が明るい穏やかな一年となることを心から願っています。
さて、民事裁判の分野では、いよいよ5月21日に改正民事訴訟法が全面施行され、申立て等のオンライン化や訴訟記録の電子化等のいわゆるフェーズ3が開始します。各庁においては、運用の検討や弁護士会等との協議など、これまで着実に準備を進めてきたことと思いますが、裁判所内外の実務・業務の在り方に大きな変容をもたらす大改正であり、残り半年を切ったフェーズ3を万全の態勢で迎えるべく、引き続き裁判所を挙げての取組が求められます。また、執行・倒産等の民事非訟分野については、まずは電子債務名義に基づく執行など、民事訴訟手続のフェーズ3開始時に施行される各種手続の準備を着実に進める必要がありますし、令和10年6月までの改正法の全面施行に向けて、現時点からデジタル化を見据えた事務の標準化を図ることも重要です。
刑事裁判の分野においても、デジタル化に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律が昨年成立し、刑事訴訟手続や令状のデジタル化に関する規定は令和9年3月までに施行されます。準備期間は限られており、今後緊張感を持って施行に向けた作業を加速させていく必要があります。また、社会情勢の変化等を背景として、裁判員裁判を含めた刑事裁判全体に複雑化・困難化の傾向が見られる中、適正かつ迅速な裁判の実現に向け、手続全般にわたりその在り方を不断に見直す姿勢も必要です。
家事の分野では、家族法制に関する民法等の一部を改正する法律が4月1日に施行されます。離婚後の父母双方を親権者とすることを可能にする制度の導入をはじめ、離婚に際し問題となる事項について幅広く見直しを図るものとなっており、家裁の担う役割には重いものがあります。積み重ねてきた準備作業の成果を、立法趣旨を踏まえた適切かつ合理的な審理運営に生かしていくことで、国民の信頼に応えていくことが期待されます。調停事件においても、改正法の施行により、新たな協議事項や手続が加わるなど、調停運営の在り方が大きく変化します。期日間隔の短縮などの調停運営の改善を進めるため、より踏み込んだ取組が求められます。少年事件においても、刑事手続のデジタル化の検討状況や少年審判手続の特質を踏まえながら、デジタル化後の少年審判手続の在り方を検討していく必要があります。
このように、今後数年の間に裁判手続の各分野でデジタル化に関する法律が順次施行されますので、これに合わせて大規模なシステム開発及び情報通信基盤の刷新といったデジタル化に関する大型のプロジェクトを同時並行で進める必要があり、これを着実に実行することも引き続き大きな課題です。我が組織があまり得意としないこの種テクノロジーを、限られた期間内に、多種多様な事件、業務、職種が併存し、庁の規模や態勢も様々な全国の裁判所に導入するという試みですから、いかに努力を尽くしても想定外の事象の発生を零にすることは困難です。ユーザーとなる職員の皆さんには申し訳ないことながら、そうした事情を理解し、様々な事態に柔軟に対応できるよう準備と態勢を整えておくことが求められます。それだけに、情報はできる限り早期にかつ幅広く共有されるべきであり、職員が一体となってプロジェクトに取り組んでいくことのできる環境を整える必要があります。困難はありましょうが、裁判所には、こうした一連の取組を通じ、デジタルツールやデータを活用して審理運営を合理化・効率化し、裁判手続を利用する国民の負担の軽減、裁判の質の更なる向上を目指していく責任があるのです。
裁判官を含む裁判所職員の生活環境や意識が変化する中で、裁判所が引き続きその役割を適切に果たしていくためには、柔軟な働き方の実現を進め、職員一人一人が生き生きとやりがいをもって働ける職場、明るく風通しの良い職場を作っていく必要があります。皆さんには、裁判事務・司法行政事務の分野を問わず、引き続きトライアンドエラーの精神で、若手職員の新鮮な発想や素朴な疑問等も生かしながら、継続的に事務の合理化・効率化・標準化を進めていくことにより、本来の役割・職務に注力し、専門性を生かして活躍していってもらいたいと思います。また、部の内外や、裁判部、事務局など所属部署のいかんにかかわらず、意思疎通、意見交換を密にし、常に率直で中身のあるコミュニケーションが行われる組織であってほしいと願っています。
終わりに、本年が皆さんにとって良い年になることを祈念し、新しい裁判に向けた取組が着実に進むことを期待して、新年の挨拶とします。