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最高裁判所判例集

事件番号

 平成24(ネ)10027

事件名

 著作権侵害差止等請求控訴事件

裁判年月日

 平成24年8月8日

法廷名

 知的財産高等裁判所

裁判種別

結果

判例集等巻・号・頁

原審裁判所名

 東京地方裁判所

原審事件番号

 平成21(ワ)34012

原審裁判年月日

判示事項

裁判要旨

 判決年月日 平成 24 年 8 月 8 日 
事 件 番 号 平成 24 年(ネ)第 10027 号 
 担 
 当 
 部 
知的財産高等裁判所 
   第4部 
○ 携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面及び主要画面の変遷について,アイ
デアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するに
すぎず,表現上の本質的な特徴を直接感得することができないとして,翻案が否定された事
例 
○ 携帯電話機用釣りゲームの冒頭に登場する画面ではなく,ゲームの途中で登場する一画
面又はそれに類似する画面にすぎないものであり,ゲームの全過程にわたって繰り返されて
長時間にわたって画面に表示されるものではない影像は不正競争防止法2条1項1号所定の
周知な商品等表示に当たらない 
○ ある行為が著作権侵害や不正競争行為に該当しないものである場合,著作権法や不正競
争防止法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保
護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成しない 
 (関連条文)著作権法27条,不正競争防止法2条1項1号,民法709条 
 X(第1審原告・控訴人兼被控訴人)は,釣りを題材とした携帯電話機用インターネッ
ト・ゲームである「釣り★スタ」(原告作品)を製作し,ソーシャル・ネットワーキング・
サービス(SNS)を提供するインターネット・ウェブサイトの携帯電話機向け「GRE
E」において,その会員に対し,公衆送信により配信している。 
その後,Y(第1審被告・被控訴人兼控訴人)らは,携帯電話機用インターネット・ゲ
ーム「釣りゲータウン2」(被告作品)を共同製作し,携帯電話機向け「モバゲータウン」
において,その会員一般に対し,公衆送信による配信を開始した。 
本件は,Xが,Yらに対し,(1) Yらが被告作品を製作し公衆に送信する行為が,原告
作品に係るXの著作権(翻案権,著作権法28条による公衆送信権)及び著作者人格権(同
一性保持権)を侵害すると主張し,?著作権法112条に基づき,被告作品のゲームの影
像の複製及び公衆送信の差止め,ウェブサイトからの上記影像の抹消及び記録媒体からの
上記影像に係る記録の抹消,?民法709条,719条に基づき,損害賠償金の支払,?
著作権法115条に基づき,謝罪広告の掲載を求め,(2) Yらが周知な原告影像と類似の
被告影像1及び2をYらのウェブページに掲載する行為が,不正競争防止法2条1項1号
に当たると主張して,?同法3条に基づき,被告影像1及び2の抹消,?民法709条,
719条に基づき,損害賠償金の支払,?不正競争防止法14条に基づき,謝罪広告の掲
載を求め,(3) YらがXに無断で原告作品に依拠して被告作品を製作し配信した行為が,
Xの法的保護に値する利益を違法に侵害し不法行為に該当すると主張して,?民法709
条,719条に基づき,損害賠償金の支払,?民法723条に基づき,謝罪広告の掲載を
求める事案である。 
原判決は,前記(1)のうち,被告作品における「魚の引き寄せ画面」は,原告作品におけ
る「魚の引き寄せ画面」に係るXの著作権及び著作者人格権を侵害するとして,前記(1)
?の全部並びに(1)?の一部を認容し,その余の請求を全て棄却した。 
そこで,Xが,これを不服として控訴するとともに,損害賠償請求を拡張し,Yらも,
原判決を不服として控訴した。 
 本判決は,以下のとおり,Xの請求をいずれも棄却すべきものとした。 
1 著作権及び著作者人格権の侵害の成否について 
(1) 原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通する部分は,表
現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず,また,その具体的表現
においても異なるものである。 
そして,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の全体について,
水中が描かれた部分の輪郭が異なり,そのため,同心円が占める大きさや位置関係が異な
る。また,被告作品においては,同心円の大きさ,パネルの配色及び中心の円の部分の図
柄が変化することや,引き寄せメーターの位置及び態様,魚影の描き方及び魚影と同心円
との前後関係等の具体的表現においても相違する。 
以上のような原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有
無又は程度に鑑みると,被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が,その全体から受ける
印象を異にし,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない。 
以上のとおり,被告作品の魚の引き寄せ画面は,アイデアなど表現それ自体でない部分
又は表現上の創作性がない部分において原告作品の魚の引き寄せ画面と同一性を有するに
すぎないものというほかなく,表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,
翻案に当たらない。 
(2) 原告作品と被告作品とは,いずれも,「トップ画面」,「釣り場選択画面」,「キ
ャスティング画面」,「魚の引き寄せ画面」及び「釣果画面(釣り上げ成功時又は釣り上
げ失敗時)」が存在し,その画面が,ユーザーの操作に従い,?「トップ画面」→?「釣
り場選択画面」→?「キャスティング画面」→「魚の引き寄せ画面」→?「釣果画面(釣
り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」の順に変遷し,上記?「釣果画面
(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」から上記?の「トップ画面」
に戻ることなくゲームを繰り返すことができる点において,共通する。 
しかし,原告作品及び被告作品は,いずれも携帯電話機用釣りゲームであり,基本的な
釣り人の一連の行動を中心として,この社会的事実の多くを素材として取り込み,釣り人
の一連の行動の順序に即して配列し構成したものである。 
上記のような画面を備えた釣りゲームが従前から存在していたことにも照らすと,釣り
ゲームである原告作品と被告作品の画面の選択及び順序が上記のとおりとなることは,釣
り人の一連の行動の時間的順序から考えても,釣りゲームにおいてありふれた表現方法に
すぎないものということができる。また,被告作品には,原告作品にはない画面があり,
逆に原告作品にある画面がないなどの点においても異なること,原告作品と被告作品とは
その他にも具体的相違点があることも併せ考えると,上記の画面の変遷に共通性があるか
らといって,表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。 
トップ画面,釣り場選択画面,キャスティング画面,釣果画面についても同様であり,
被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列は,アイデアなど表現それ自体でない部
分又は表現上の創作性がない部分において原告作品のそれと同一性を有するにすぎないも
のというほかなく,表現上の本質的な特徴を直接感得することができない。 
(3) よって,Yらが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことは,Xの翻案権を
侵害するものとはいえず,これを配信したことは,著作権法28条による公衆送信権を侵
害するということもできない。また,同様に,Yらが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を
製作したことが,Xの同一性保持権を侵害するということもできない。 
画面の変遷並びに素材の選択及び配列についても同様である。 
 2 不正競争防止法2条1項1号に係る不正競争行為の成否について 
(1) ゲームの影像が他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり,かつ,そのよう
な特徴を備えた影像が特定のゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画
面に表示されること等により,当該影像が需要者の間に広く知られているような場合には,
当該影像が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあり得る
ものと解される。 
しかしながら,ゲームの影像は,通常は,需要者が当該ゲームを使用する段階になって
初めてこれを目にするものである。本件において,Xが周知商品等表示と主張する原告影
像は,原告作品の冒頭に登場する画面ではなく,ゲームの途中で登場する一画面又はそれ
に類似する画面にすぎないものであり,ゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間に
わたって画面に表示されるものではない。また,原告影像に係る画面は,原告作品の公式
ガイドブックにおいても,表紙等に表示されておらず,しかも同書はビニールカバーに入
った状態で販売されている。 
Xは,テレビコマーシャル及び電車内広告や新聞・雑誌により宣伝広告を行ったが,原
告影像は,複数のゲーム画面の一つとして宣伝に使用されているにすぎないし,影像が不
鮮明なものもある。そのため,これらの宣伝広告によって,魚の引き寄せ画面に係る原告
影像が,Xを表示するものとして,周知の商品等表示性を獲得したと認めることはできな
い。なお,上記宣伝広告のほとんどが,被告影像1及び2の掲載後,すなわち被告作品が
配信された同月25日より後に行われたものである。 
以上のとおり,原告影像は,Xを表示するものとして周知の商品等表示性を獲得したと
認めるに足りない。 
(2) 被告影像1及び2は,その掲載態様から,いずれも商品又は営業を表示し自他を識
別する商品等表示として使用されているものとは認められず,原告影像と類似の商品等表
示ということはできない。 
(3) 以上のとおり,原告影像がXを表示するものとして周知な商品等表示であるとはい
えないし,被告影像1及び2が商品等表示として使用されているとはいえないから,これ
を掲載することが類似の商品等表示を使用して混同を生じさせる行為に該当するというこ
とはできない。原告影像の周知商品等表示性を根拠に被告影像1及び2の掲載行為を対象
とするXの不正競争防止法2条1項1号に係る主張は,理由がない。 
 3 法的保護に値する利益の侵害に係る不法行為の成否について 
著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利
益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を
構成するものではないと解するのが相当である。 
Xは,Yらの行為により,信用毀損が生じた旨主張する。しかし,Xの主張するように,
Yらが被告作品を配信したことで,全国の多数のユーザーが原告作品又はXと被告作品又
はYディー・エヌ・エーとが同一であると誤認するなどして,Xの社会的信用と営業上の
信頼に深刻な影響が出たということまで認めるに足りる証拠はない。 
したがって,仮に,Yらが,被告作品を製作するに当たって,原告作品を参考にしたと
しても,Yらの行為を自由競争の範囲を逸脱しXの法的に保護された利益を侵害する違法
な行為であるということはできないから,民法上の不法行為は成立しないというべきであ
る。被告影像1及び2は,いずれも原告影像と類似の商品等表示ということはできないし,
その掲載によって,混同を生じさせるものともいえない。

参照法条

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