裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
平成19(ネ)10073
- 事件名
著作権侵害差止等請求控訴事件
- 裁判年月日
平成20年2月28日
- 法廷名
知的財産高等裁判所
- 裁判種別
- 結果
- 判例集等巻・号・頁
- 原審裁判所名
東京地方裁判所
- 原審事件番号
平成18(ワ)15552
- 原審裁判年月日
- 判示事項
- 裁判要旨
判決年月日平成20年2月28日担知的財産高等裁判所 第1部
当
事件番号
平成19年(ネ)第10073号部○チャールズ・チャップリンの制作した本件9作品は,昭和45年法律第48号による改正前の著作権法3条の規定の適用を受けるので,それらの著作権の存続期間はいまだ満了していないとされた事例(関連条文)昭和45年法律第48号による改正前の著作権法3条,6条
本件は,チャールズ・チャップリンの制作した映画「サニーサイド」など本件9作品の著作権者であるXが,本件9作品を複製,販売しているY1,Y2の行為,及び,本件9作品のうちの一部を複製,頒布しているY1の行為がXの複製権及び頒布権を侵害していると主張して,複製品であるDVD商品の複製及び頒布の差止め,これらの在庫品等の廃棄,損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,本件9作品の著作権の存続期間は満了していないから,Y1,Y2の行為はXが有する複製権及び頒布権を侵害するとして,上記複製及び頒布の差止め,廃棄,並びに,損害金の一部及び遅延損害金の支払を認容したため,Y1,Y2は,これを不服として控訴した。本件は,その控訴審判決である。
1 本件9作品の著作権の存続期間について
「旧法3条の上記規定によれば,著作者の生死により保護期間を定めているから,旧法3条にいう『著作者』は,自然人を意味することが明らかである。また,旧法5条ただし書が『著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキ』は旧法3条の規定に従うとしていることからすると,旧法3条は,自然人である著作者が実名で公表される場合の保護期間を規定したものと解される。」
「『サニーサイド』,『偽牧師』,『巴里の女性』,『黄金狂時代』,『街の灯』及び『モダン・タイムス』は,米国著作権局の登録においてチャップリンが著作者とされているところ,公表された画像においても,チャップリンが上記各映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であることが示されているから,旧法3条の実名による著作者の公表があるものと認められる。」,「『独裁者』,『殺人狂時代』及び『ライムライト』は,公表された画像において,チャップリンが上記各映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であることが示されている以上,旧法3条の実名による著作者の公表があるものと認めるのが相当である。」
「一般に,映画の著作物は,その製作に脚本,制作,監督,演出,俳優,撮影,美術,音楽,録音,編集の担当者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であり,本件9作品についても,映画製作の技術的な側面からみると,チャップリン以外にも出演している複数の俳優がおり,また,チャップリン以外の者が撮影,録音等を行っていることが証拠上明らかである。しかし,著作物の本質である思想・感情の表現という側面からみると,本件9作品は,正にチャップリンによる映画というほかなく,この側面においてチャップリン以外に映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者がいるとの証拠を見いだすことができない。したがって,チャップリンが,単に本件9作品の著作者の1人にすぎないとはいえない。」
保護期間の算定については,?チャップリンは昭和52年(1977年)12月25日に死亡したから,旧法3条の規定による本件9作品の著作権の保護期間は,昭和53年(1978年)1月1日から起算して38年間,すなわち,平成27年(2015年)12月31日までとなり,?旧法による保護期間と昭和45年改正法54条1項による存続期間とを比較すると,前者の方が長いので,同法附則7条により,存続期間が平成27年(2015年)12月31日までとなり,?「サニーサイド」,「偽牧師」,「巴里の女性」,「黄金狂時代」,「街の灯」,「モダン・タイムス」及び「独裁者」は,旧法による著作権の保護期間の満了する日が,平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日後の日であるから,同法附則3条により,旧法による著作権の保護期間の満了する日までが存続期間となり,?「殺人狂時代」及び「ライムライト」は,旧法による著作権の存続期間の満了する日が,平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日よりも前の日となるので,同法附則3条は適用されず,同法54条1項の規定による存続期間の満了する日までが存続期間となり,「そうすると,日本国との平和条約15条(c)及びそれに基づく連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律による戦時加算日数を考慮するまでもなく,本件9作品は,いずれも,その著作権の存続期間が満了していない。」
2 Xの損害の不存在等について
「Yらは,本件では著作権の存続期間満了後のパブリックドメインとなった映画の販売等であるから,損害賠償は発生しない旨主張する。しかし,上記のとおり,本件9作品の存続期間はいまだ満了していないから,Yらの上記主張は,その前提を欠く」
「Yらは,旧法及び昭和45年改正法を独自に解釈し,しかも,Xの警告書における説明に対して,専門家の意見を聞くなどといった格別の調査をした形跡もないのであるから,控訴人らには少なくとも注意義務違反の過失があるものと認められる。」
- 参照法条
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