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最高裁判所判例集

事件番号

 昭和26(あ)1688

事件名

 電車顛覆致死、偽証

裁判年月日

 昭和30年6月22日

法廷名

 最高裁判所大法廷

裁判種別

 判決

結果

 棄却

判例集等巻・号・頁

 刑集 第9巻8号1189頁

原審裁判所名

 東京高等裁判所

原審事件番号

原審裁判年月日

 昭和26年3月30日

判示事項

 一 刑訴第三七九条にいう「訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである」の意義
二 刑法第一二七条にいう「前条」には刑法第一二六条第三項を含むか
三 刑法第一二六条第三項にいう「人」には車外の人を含むか
四 刑法第一二七条にいう「汽車又は電車」には刑法第一二五条の犯行に供用されたものを含むか
五 過失致死の結果的加重犯について死刑を定めた刑法第一二七条は憲法第一三条、第三六条に違反するか
六 刑訴第四〇〇条但書によるいわゆる自判の限界
七 被告人が犯罪の実行者であることについて自白のみによる認定は憲法第三八条第三項に違反するか
八 日本国有鉄道職員の争議禁止は憲法第二八条に違反するか
九 刑訴法第三七九条の法意
一〇 判決に影響を及ぼすことが明らかでない訴訟手続の違法ある判決と憲法第三一条
一一 第一審の訴訟手続の違法が判決に影響を及ぼしたことが明らかといえない場合と刑訴第三七九条
一二 憲法第三八条第二項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」にあたらない一事例
一三 控訴申立をした検察庁の検察官が作成した控訴趣意書を控訴裁判所に対応する検察庁の検察官が提出することは違法か

裁判要旨

 一 刑訴第三七条の場合は、訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすべき可能性があるというだけでは、控訴理由とすることはできないのであつて、その法令違反がなかつたならば現になされている判決と異る判決がなされたであろうという蓋然性がある場合でなければ、同条の法令違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるということはできない。
二 刑法第一二七条は、刑法第一二五条の罪を犯し因て汽車又は電車の顛覆若しくは破壊を致し、因て人の致死の結果を生じた場合には、刑法第一二六条第三項の例により処断すべきことを規定したものと解するを相当とする。
三 刑法第一二六条第三項にいう「人」とは、必ずしも同条第一項の車中に現在した人に限定すべきでなく、汽車又は電車の顛覆くは破壊に因つて死に致された人をすべて包含する法意と解するを相当する。
四 刑法第一二七条にいう「汽車又は電車」には、刑法第一二五条の犯行に供用されたものを含むものと解すべきである。
五 刑法第一二七条が、刑法第一二六条第三項の例により汽車又は電車の顛覆若くは破壊による人の致死の場合に、死刑をもつて処断し得ることを定めても、憲法第一三条、第三六条に違反しない。
六 刑訴第四〇〇条但書は、控訴審において事実の取調をする必要がないと認める場合でも、必ず新たな証拠の取調をした上でなければ自判できない旨を規定しているものと解すべきではない。また控訴審において記録調査及び事実取調の結果第一審判決を破棄すべき理由ありと認め、且つそれ以上審理をなすまでもなく判決をなすに孰していると認められ、しかも客観的に見て自判の結果が差戻または移送後の第一審判決よりも被告人にとつて不利益でないということが確信される場合ならば、自判により第一審判決の無期懲役の宣告刑を変更して死刑を言い渡すことも、必ずしも違法ということはできない。
七 被告人の自白について、同人が犯罪の実行者であると推断するに足る直接の補強証拠が欠けていても、その他の点について補強証拠が備わり、それと被告人の自白とを綜合して犯罪事実を認定するに足る以上、憲法第三八条第三項の違反があるということはできない。
八 日本国有鉄道職員が公共企業体労働関係法第一七条により争議行為を禁止されても、憲法第二八条に違反しない。
九 絶対的控訴理由(三七七条三七八条)に当る場合は常に相当因果関係があるものと訴訟法上みなされているものと解すべきであるが、三七九条の場合には、裁判所が当該事件について具体的に諸般の情況を検討して判断すべき問題であつて、或る訴訟手続の法令違反は当然に判決に影響あるものと解し、或はその影響の可能性があれば足ると解するが如きは、同条の法意に反するものといわなければならない。また判決に影響を及ぼすことが明らかでない訴訟手続の違法があつたからといつて、その判決が憲法三一条にいわゆる法律の定める手続によらなかつたものであるということのできないのはいうまでもない。
一〇 第一審において、検察官の起訴状朗読に先だち、事件の実体又は証拠関係に触れた被告人側の右起訴が無効である旨の主張及び控訴の取消を求むる発言を許容したこと、法定の手続を経ないで被告人等からの事件の実体に触れた上申書を受理して訴訟記録に編綴したこと、甲証拠の証明力を争うために提出した証拠を乙証拠の証明力を否定する資料に供したこと、の各訴訟手続の法令違反があつても、その違反が常に第一審判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
一一 記録に徴すれば、検察官に対する被告人の自白は拘禁一七日以後なされたものであり、また所論公判廷における供述は勾留五ケ月余又は一〇ケ月余を経てなされたものであることは明らかであるけれども、本件事案の内容、取調の経過その他諸般の事情に照し右一七日の拘禁は不当に長きにわたる拘禁とはいえない。また所論公判廷における自白は既に右検察官に対してなされた自白の反覆であるから、右公判廷における自白をもつて、不当に長い拘禁後の自白ということはできない。
一二 控訴趣意書を控訴申立をした検察庁の検察官が作成し、これを控訴裁判所に対応する検察庁の検察官が提出することは、少しも訴訟法に違反するものということはできない。

参照法条

 刑訴法379条,刑訴法400条,刑訴法319条2項,刑訴法319条1項,刑訴法376条,刑法127条,刑法126条3項,憲法13条,憲法36条,憲法31条,憲法38条3項,憲法28条,憲法38条2項,公共企業体労働関係法2条,公共企業体労働関係法17条,公共企業体労働関係法18条

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