裁判例検索

裁判例結果詳細

最高裁判所判例集

事件番号

 平成7(オ)1205

事件名

 損害賠償

裁判年月日

 平成9年2月25日

法廷名

 最高裁判所第三小法廷

裁判種別

 判決

結果

 破棄差戻

判例集等巻・号・頁

 民集 第51巻2号502頁

原審裁判所名

 広島高等裁判所

原審事件番号

 平成1(ネ)99

原審裁判年月日

 平成7年2月22日

判示事項

 一 医療過誤訴訟において鑑定のみに依拠してされた顆粒球減少症の起因剤の認定に経験則違反の違法があるとされた事例
二 医療過誤訴訟において鑑定のみに依拠してされた顆粒球減少症の発症日の認定に経験則違反の違法があるとされた事例
三 顆粒球減少症の副作用を有する薬剤を長期間継続的に投与された患者に薬疹の可能性のある発疹を認めた場合における開業医の義務

裁判要旨

 一 顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤の投与を原因として患者が同症にかかった場合において、鑑定は、右薬剤はいずれも起因剤と断定するには難点があり、発症時期に最も近接した時期に投与されたネオマイゾンが最も疑われるが確証がなく、複数の右薬剤の相互作用により同症が発症することはあり得るものの本件においては右相互作用による発症は医学的に具体的に証明されていないとするにとどまり、本件において右相互作用により同症が発症したという蓋然住を否定するものではなく、証拠として提出された医学文献には同症の病因論は未完成な部分が多く個々の症例において起因剤を決定することは困難なことが多い旨が記載されているなど判示の事実関係の下においては、右鑑定のみに依拠してネオマイゾンを唯一単独の起因剤と認定することには、経験則違反の違法がある。
二 顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤の投与を原因として患者が同症にかかった場合において、鑑定は、四月一四日より前の患者の病歴に同症発症を確認し得る検査所見及び症候がないこと並びに同日以降の患者の症状の急激な進行から推測して、発症日を四月一三日から一四日朝とするが、これは患者の同症発症日をどこまでさかのぼり得るかについて科学的、医学的見地から確実に証明できることだけを述べたにすぎないものであり、他方、同症発症を確認し得る検査所見及び症候がないのは医師が同症特有の症状の有無に注意を払った問診及び診察をしなかった結果にすぎず、患者の症状の進行が急激であったと断ずるには疑いを生じさせる事情も存在するなど判示の事実関係の下においては、右鑑定のみに依拠して発症日は四月一三日から一四日朝と認定することには、経験則違反の違法がある。
三 開業医は、顆粒球減少症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務がある。

参照法条

 民法415条,民法709条,民訴法185条,民訴法394条

全文