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最高裁判所判例集

事件番号

 昭和22(れ)73

事件名

 不敬

裁判年月日

 昭和23年5月26日

法廷名

 最高裁判所大法廷

裁判種別

 判決

結果

 棄却

判例集等巻・号・頁

 刑集 第2巻6号529頁

原審裁判所名

 東京高等裁判所

原審事件番号

原審裁判年月日

 昭和22年6月28日

判示事項

 一 大赦のあつた事件につき實體上の審理をした違法と上告の適否
二 大赦の効力と控訴權の消滅
三 大赦と公訴繋屬中の事件に對する裁判
四 大赦を理由とする免訴の判決と無罪の判決を求めることの可否

裁判要旨

 一 原審は控訴審として本件を審理するにあたり、大赦令の施行にもかかわらず、依然本件公訴につき實體上の審理をつづけ、その結果被告人の本件所爲は刑法第七四條第一項に該當するものと判定し、その上で前記大赦令を適用して。その主文において被告人を免訴する旨の判決をしたのである。右の如く、原審が大赦令の施行にもかかわらず實體上の審理をなし、その判決理由において被告人に對し有罪の判定を下したことは、前段説明したような大赦の趣旨を誤解したものであつ違法たるを免れず、その違法はまさに本判決をもつて、これを拂拭するところであるが、原判決がその主文において、被告人に對して免訴の判決を言渡したのは結局において正しいといわなければならぬ。
二 そもそも恩赦は、ある政治上又は社曾政策上の必要から司法權行使の作用又は効果を行政權で制限するものであつて、舊憲法下でいうならば天皇の大權に基いて、行政の作用として、既に刑の言渡を受けたものに對して、判決の効力に變更を加えまだ刑の言渡を受けないものに對しては、刑事の訴追を阻止して司法權の作用効果を制限するものであることは、大正元年勅令第二〇號恩赦令の規定に徴し明瞭である。であるから、どの判決の効力に變更を加え又はどの公訴について、その訴追を阻止するかは、專ら、行政作用の定むるところに從うべきである前記大赦令(昭和二一年勅令第五一一號)に、同日前に刑法第七四條の罪を犯したものは赦免せられるとあるは、まだ刑の言渡を受けないものに對しては、前示刑法第七四條の罪を犯したりとの嫌疑をもつて起訴せられ、その具體的公訴事實について、現に公訴の繋屬中なるものについて、その訴追を阻止するという趣旨に解しなければならぬ。しかして、大赦の効力に關しては前示恩赦令は大赦は、大赦ありたる罪につき、未だ刑の言渡を受けないものについては、公訴權は消滅する旨(恩赦令第三條)を定めている。即ち、本件のごとく公訴繋屬中の事件に對しては、大赦令施行の時以後、公訴權消滅の効果を生ずるのである。
三 公訴繋屬中の事件について大赦があつたときは、裁判所は、單に免訴の判決をすべく、公訴事實の存否又はその犯罪の成否などについて實體上の審判を行うことはできない。
四 裁判所が公訴につき、實體的審理をして、刑罰權の存否及び範圍を確定する權能をもつのは、檢事の當該事件に對する具體的公訴權が發生し、かつ、存續することを要件とするのであつて、公訴權が消滅した場合、裁判所は、その事件につき、實體上の審理をすすめ、檢事の公訴にかかる事實が果して眞實に行われたかどうか、眞實に行われたとして、その事實は犯罪を構成するかどうか、犯罪を構成するとせば、いかなる刑罰を科すべきやを確定することはできなくなる。これは、不告不理の原則を採るわが刑事訴訟法の當然の歸結である。本件においても、既に大赦によつて公訴權が消滅した以上、裁判所は前に述べたように、實體上の審理をすることはできなくなり、ただ、刑事訴訟法第三六三條に從つて、被告人に對し、免訴の判決をするのみである。從つて、この場合、被告人の側においてもまた、訴訟の實體に關する理由を主張して、無罪の判決を求めることは許されないのである。

参照法条

 刑訴法363條3號,刑法74條,恩赦令3條

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