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最高裁判所判例集

事件番号

 昭和23(れ)956

事件名

 昭和二二年政令第一六五号違反

裁判年月日

 昭和24年5月18日

法廷名

 最高裁判所大法廷

裁判種別

 判決

結果

 破棄差戻

判例集等巻・号・頁

 刑集 第3巻6号796頁

原審裁判所名

 東京高等裁判所

原審事件番号

原審裁判年月日

 昭和23年6月29日

判示事項

 一 判決の既判力の意義
二 民事判決の既判力
三 刑事判決の既判力と一事不再審の原則
四 公訴不可分の原則の意義
五 所持罪における幅員的關係の區分と延長的(時間的)關係の區分
六 一事不再理の原則の適用の一場合と所持罪の特殊性
七 物の所持における實力支配關係の開始と持續の意義
八 人が多數の物を同時に所持する場合における所持の個數
九 所持の個別性の決定と社會通念
十 連續犯廢止前の所持に對する有罪判決と廢止後の繼續的所持に對する既判力
一一 確定判決後又は刑罰法規の改正實施後にわたる繼續犯の可罰性と憲法第三九條後段

裁判要旨

 一 一事不再審の原則は判事判決の既判力の一作用に外ならない。元來判決の既判力というものは一旦判決によつて一定の法律關係(刑罰權又は私權等)の存否が確定された以上原則として、爾後は法律上有効にこれを變動せしめないということをその本質とするのである。
二 民事においては裁判所は判決により確定された法律關係については、その判決に接着する口頭辯論終結後の事由によるのでなければ、確定判決の趣旨と異る裁判をなすことができないという裁判所に對する拘束力としての形であらはれている、だから當事者は確定判決を經た法律關係についても、新たな事由に基ずかなくても、更に重ねて訴を提起し得るのであり裁判所は、かかる訴と雖もこれを不適法として却下することはできない。この場合裁判所は確定判決の趣旨を尊重して、その内容をそのまゝ裁判の基礎として各場合の事情に適合する判決を爲すまでのことなのである。一例を舉ぐれば後訴が給付の訴であり、その原告が、給付の訴であつた前訴の原告であり、しかもその確定判決において、勝訴していた場合にあつては、特別の事由―記録の焼失による確定判決原本の滅失というような事由―のない限り、既に確定の給付判決を得ているのであるから保護の利益なきものとして請求棄却の判決を爲すべく又敗訴していた場合にあつては請求權の不存在が既に確定されているのであるから、新訴についても再び請求棄却の判決を爲すの外はないのである。
三 然るに刑事においては、公訴は獨り檢事のみがこれを提起するものであるから確定判決を經た事件については有効に再起訴ができないものとし、又裁判所もこれについては免訴裁判を爲すべきものとさえして置けば確定判決の既判力は維持せられるのであり、それに人權擁護の意味も加わり、判決の既判力も民事の場合とその姿を變えて一事不再理の原則という形をとつたのである。だから一事不再理の原則は判決の既判力の一作用に過ぎない。
四 刑事においては人權擁護の見地から檢事は一罪の一部について起訴を爲し他の一部についてはこれが公訴を他日に保留して置くというような措置をとることが許されないと解されている。所謂公訴不可分の原則というのがそれである。
五 所持というような繼續する状態が處罰される犯罪にあつては、一回の行爲によつて完結し得る即時犯例えば窃盗罪のような犯罪と異り、時間的關係においても一罪の一部ということが考えられるのである。すなわち窃盗罪の場合前掲設例のように衣類の窃盗と金錢の窃盗とに區分とすることを幅員的關係の區分というならば、所持罪の場合あつてはかかる關係の區分の外に、延長的關係の區分ともいうべきものが考えられるというのである。
六 刑事判決はその基本となる辯論時における既存の犯罪事實に基ずく國家刑罰權の存否を確定するものであるから、判決の既判力も亦當然にかかる刑罰權の存否の確定に限界せられなければならない。そして一事不再理の原則は判決の既判力の一作用に外ならないのであるから、この原則の適用せられる範圍も亦判決の基本となつた既存の犯罪事實に限定せられなければならないのである。すなわち、一事不再理の原則の適用に關しては、確定判決を限界として一罪の一部が延長的關係において區分せられるということになるのである。
要するに、問題は繼續する状態を内容とする所持罪の特殊性に關連するのである。
七 物の所持とは、人が物を保管する實力支配關係を内容とする行爲である。人が物を保管する意思を以てその物に對し實力支配關係を實現する行爲をすれば、それによつて物の所持は開始される。そして一旦所持が開始されれば爾後所持が存續するためには、その所持人が常にその物を所持しているということを意義している必要はないのであつて苟くもその人とその物との間にこれを保管する實力支配關係が持續されていることを客觀的に表明するに足るその人の容態さえあれば所持はなお存續するのである。だから所持は人が物を保管するためその物に對して實力支配關係を開始する行爲と、その實力關係の持續を客觀的に表明する客態とから成り立つているというべきである。
八 人が多数數の物を同時に所持する場合、人と物との間にその物の個數に相當するだけの實力支配關係が存在することはもとより多言を要しない。しかし所持を行爲乃至容態として(これを開始する行爲とこれを持續する容態として)觀察するとき、その個數は必ずしもその物との間に存在する實力支配關係の個數すなわち物の個數と一致するとは限らない。それは一個の所持という行爲乃至容態によつて二個以上の物が包括的に實力支配關係の下に置かれ得るからである。さりとてまた同一人が同時に數個の物に對し實力支配關係を有するのであるから、常に必ず一個の所持しかあり得ないともいえない。それは所持という同種の内容を有する同一人の二個以上の行爲が同時に存在することがあり得るからである。
九 所持という行爲乃至容態が一個あるのか、數個あるのかを決定するのは、必ずしも人と物との間に存在する實力支配關係にあるのではなく、その行爲乃至容態そのものの形態が社會生活上有する個別性的意義にあるといわなければならない。そしてこの社會生活上における行爲の個別性的意義はかかる數的衡量を必要ならしめる社會生活上の要求に立脚して殊に所持を犯罪として觀察する場合においては、その刑罰法規手續規定等の立法の目的に立脚してのみ、正當に理解し得るのである。だから所持の個別性を決定せんとするにも、かかる觀點に立つてその行爲乃至容態を内心的物理的、時間的、空間的關係はもとよりその他各場合における諸般の事情に從つて詳細に考察して、通常人ならば何人も首肯するであらうところ、すなわち社會通念によつて、それが人と物との間に存する實力支配關係を客觀的に表明するに足る個別性を有するか否かを究め、そこに一個の所持があるか、數個獨立の所持があるかを決定しなければならない。
一〇 更にまた同日以後第二事件物件につき、新に別個の所持が開始されたものと認められ得るとしても、その所持罪が第一事件物件の所持罪と連續犯の關係にあつたと認められるならば、第一事件の判決の既判力が右第二事件物件の所持罪にもその効果を及ぼすべきであらうことは勿論である。しかし、この場合においてはその間刑法の一部改正によつて昭和二二年一一月一五日以後は連續犯の認められなくなつていることに留意すべきであつて、假りに第二事件物件に對する新所持罪の同日前の行動について連續犯に關する舊規定が適用せられる結果、第一事件の判決の既判力がその効果を及ぼすものとせられるようなことがあつても、同日以後なお依然として該所持が意識して繼續せられている限り、その繼續犯たる性質上、たとえ、それが一個の行爲の一部であるとしても、獨立した一個の犯罪と同様、反社會性ある行動としての存在價値を具有しているのであるから、法律が連續一罪として處斷することを廢止した以後の行動については、これを連續犯と認めらるべき他の一部から獨立して處罰の對象となし得るものと解するのが相當であろう。從つて當該部分の行動に關しては不告不理の原則が適用せられ、假りに第一事件當時裁判所において、たまたま、これを廢見したとしても、公訴の對象とせられていなかつた關係上、これを處斷し得なかつたのであり、これと同時に反面、一事不再理の原則はその適用を見ないこととなるから、第一事件の判決の既判力はその効果を及ぼすべきでないといわざるを得ない。(そして本件公訴は右連續犯の廢止せられた日以後の所持のみをその對象としているのである)
一一 憲法第三九條後段の規定は、繼續犯のような犯罪において、確定判決後又は刑罰法規の改正實施後なお意識的に獨立した犯罪と目せらるべき行動を敢えて繼續するものに對してまでその刑事上の責任を問わないというような不合理を要求する筈がない。

参照法条

 舊刑訴法363條1號,舊刑訴法317條,民訴199條1項,民訴201條1項,舊刑訴291條1項,舊刑訴363條1號,昭和22年政令165號1條,昭和22年政令165號,昭和22年政令156號1條,改正前刑法55條,憲法39條後段

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