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最高裁判所判例集

事件番号

 昭和24(れ)1967

事件名

 贈賄幇助、贈賄

裁判年月日

 昭和24年12月6日

法廷名

 最高裁判所第三小法廷

裁判種別

 判決

結果

 破棄自判

判例集等巻・号・頁

 刑集 第3巻12号1884頁

原審裁判所名

 大阪高等裁判所

原審事件番号

原審裁判年月日

 昭和24年5月10日

判示事項

 一 自治体警察署長と犯罪捜査の權限
二 刑法第一九八條にいわゆる「賄賂の申込」と賄賂の提供
三 收賄の公訴事實を贈賄の幇助と認定した場合と犯罪事實の同一性
四 贈賄の相手方たる警察署長の職務権限に関する判示の要否
五 贈賄の現金二萬圓を没收するに當り刑法第一九條を適用すべきことろ同第一九七條の四を適用した擬律錯誤の違法

裁判要旨

 一 新庄町警察署長は自治体警察の警察署長であるから、警察法第四九條の定めるところにより、警部補以上の警察吏員たると市町村警察長がこれを兼ねている場合たるとを問はず、警察署長として上司の指揮監督を受げて管轄區域内における警察事務を執行し部下の職員を指揮監督する權限を有するのであつて警察事務は、警察法第一條により、犯罪の捜査と被疑者の逮捕とを含むことが明かであるのみならず同法附則第一九條は「他の法令中警察官に對する規定は、當該警察官及び警察吏員に關する規定とする」としているので、舊刑事訴訟法第二四八條の適用上判示警察署長が犯罪捜査の權限をもつことはむしろ當然である。
二 刑法第一九八條には「賄賂ヲ供與シ又ハ其申込若クハ約束ヲ爲シ」とあつて「提供」という言葉が用いられていないがこの規定は昭和一六年法律第六一號で改正されたもので、改正前の法文には「賄賂ヲ交付提供又ハ約束」とあつたのである。そしてこの「提供」というのは利益を現實に收受し得べき状態に置く場合に限らず口頭を以て相手方に對し賄賂の收受をうながす意思を表示する場合を含む、と解釋されていたのであつて、その意味で現行法文の「申込」は口頭提供に當り、原判決が「提供」といつたのは被告人が賄賂の申込をしたのを指すこと明白であり、理由不備の論旨は理由がない。
三 論旨第五點は、本件公訴事實は被告人Aが金二萬圓を收賄したというのであるのに、原判決が被告人は金二萬圓につき贈賄の幇助をしたと判決したのは、審判の請求を受けなかつた事件につき審判した違法の判決であると非難する。しかしながら所論の公訴事實と原判決の認定事實とは範圍を異にせず、すなわち被告人Bが警察署長に贈賄せんとしたその橋渡しが被告人Aだつたという事實は全然同一なのであるが、Aが公安委員であるためこれを警察がわなる贈賄の相手方と見ての起訴だつたところ、取調の結果Aが贈賄者がわの幇助者であることが判明した次第であつて、原判決に公訴の範囲に屬しない事實を認定した違法があるとは云い得ない。
四 贈賄の相手方を単に警察署長と判示するだけで、その職務権限の内容をさらに具体的に説示しなくとも、贈賄罪の判示として欠くる所はない。
五 原審が刑法第一九七條の四を適用して「押收の現金二萬圓を没收する」と判決したのは違法であつて論旨は理由があり、この點において原判決は破毀をがれない。しかし刑法第一九七條の四は同法第一九條を排斥するものではなく、問題の現金二萬圓は贈賄の「犯罪行爲ヲ組成シタル物」として刑法第一九條により没收せられ得べきものであるからその處置を執るのを適當と認める。

参照法条

 舊刑訴法248條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法410條19號,舊刑訴法291條1項,舊刑訴法410條18號,警察法49條,警察法附則19條,刑法198條,刑法62條1項,刑法19條,刑法197條の4,旧刑訴法360条1項

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