裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
昭和24(れ)3125
- 事件名
労働関係調整法違反
- 裁判年月日
昭和26年3月27日
- 法廷名
最高裁判所第三小法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
刑集 第5巻4号634頁
- 原審裁判所名
東京高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和24年9月7日
- 判示事項
一 争議行為にあたる一事例
二 労働関係調整法第四〇条にいわゆる「争議行為を理由として解雇した」の意義
三 労働関係調整法(改正前)第四〇条違反の罪の判示方
四 労働関係調整法第四〇条違反罪の公訴事実の同一性
五 労働者が雇傭関係のない他の事業場における争議行為に関与すること労働関係調整法第四〇条
六 団体交渉の当事者が単一組合と単一会社である場合に右各支部組合と各支部会社間に労働争議があれば他の支部組合会社も争議の当事者となるか。
七 労働争議における連合体たる労団組合を構成する単位組合と単一労働組合の支部との差異
八 労働調整委員会の請求と労働関係調整法第四〇条違反罪の公訴事実の同一性
九 会社側の一方的工場閉鎖宣言とその後の労働争議の成否
- 裁判要旨
一 甲乙丙三会社の各従業員が単一組合を組織し会社側も亦労働協約により右三会社を一体とした連合体としてのみの労働協約の交渉団体である場合、組合が会社側に対し労働争議に入ることを決議し乍ら甲会社従業員のみが作業を停止して争議行為に出て乙丙会社の従業員は右決議に反対せず争議行為に出なかつた場合は組合側において特別の意思表示のないかぎり乙、丙会社にも労働争議が行われたものというべきである。
二 Aに対する解雇の原因として、たとえ同人の勤務するB木材の経営不振による過剩人員の整理の事実があつたとしても、その解雇にして同人の判示争議行為をしたことが条件となつている限り、昭和二四年法律第一七五号による改正前の労調法第四〇条にいわゆる争議行為をしたことを理由として解雇したものというを妨げない。
三 そして改正前の労調法第四〇条違反の判示方法としては、使用者がその雇傭中の労働者を同人がした争議行為を理由として解雇したことを判示すれば足るものであつて、所論のように争議の内容まで詳細に判示するとか、被解雇者がその争議の際如何なる行為を担当したか、或いはまた、使用者がその行為を不快に思つて解雇したものであるとの事実まで判示する必要はない。
四 検事の公訴事実も、原審の認定した事実も共に、被告人が判示Aを同人が争議行為をしたことを理由として昭和二三年二月一六日解雇したことには変りがないのであつて、唯両者はAのした争議行為の法律判断およびその回数において異るに過ぎないものであるから、改正前の労調法第四〇条に違反する解雇としては単一かつ同一の事実と認むべきである。されば、原審には審判の請求を受けない事件について審判した違法はない。
五 改正前の労調法第四〇条は、労働者が雇傭関係のない他の事業場における争議行為に関与することまでを保護するものでない。
六 たとえB木材の従業員と同会社との間に主張の対立がなかつたとしても、同会社従業員の加入する単一組合であるB労働組合と労働協約にいわゆる会社との間には、C工業の各工場の閉鎖をめぐつて主張の対立のあつたこと、原審の判示するところである。そして団体交渉の当事者が単一組合と単一会社(大竹弁護人論旨(一)および(二)においての説明参照)である以上、その単一組合単一会社に属する各支部組合、各支部会社はそのうちいずれかに労働争議があれば直接争議行為のない他の支部組合、支部会社も亦、その争議の当事者となると解すべきである。
七 論旨は労働組合が単一組合であるという理由では、三会社の従業員は全会社に対し労働関係の当事者たる地位を取得しないとの見解を主張するが、論旨の引用する設例はいわゆる連合団体たる労働組合とこれを構成する単位組合との関係であつて、本件のB労働組合各は連合団体たる労働組合ではなく、また各会社各工場のB労働組合各支部は単位組合ではない。即ち本件において右のB労働組合各支部は独立に団体交渉の当事者となり得ないものである。従つて単一組合であるB労働組合が争議に入れば、その各組合支部はこれから脱退しない以上当然争議に入り、更にまた各支部組合のみが独立に争議に入るということもないわけである。
八 静岡縣地方労働委員会の検事に対する処罰請求書には、被告人は昭和二三年二月一六日Aを、同人が昭和二二年一二月二日より昭和二三年二月七日に至る間C工業株式会社の争議に当り、争議行為をしたことを理由として解雇したものであるとあり、また、検事の公判請求書には、被告人は昭和二三年二月一六日Aを、同人が昭和二二年七月二三日より同年八月六日までと、同年一二月初旬より同二三年二月七日までの二回に亘る労働争議に当り、争議行為をしたことを理由として解雇したものであると記載されていて、Aのした争議行為の回数に相違のあること所論のとおりである。しかし本件に関する改正前の労調法第四〇条違反の犯罪構成要件は、使用者がその雇傭中の労働者を同人がした争議行為を理由として解雇したということにつきる。されば、検事が地労委の請求をまたず公訴を提起したとの所論は採用することができない。次にまた、原審が、被告人が昭和二二年一二月初旬より同二三年二月七日に至るまでの労働争議におけるAの争議行為を理由に、同人を解雇したことを認定していること所論のとおりであるが、本件においてはAのした争議行為の回数の多寡にかかわらず公訴事実は同一であること前述のとおりであつて、地労委の請求、検事の公訴、原判決認定の各犯罪事実は同一であるから、原審が公訴なき事実について有罪の判決をしたとの主張も採用することができない。
九 会社側が経営不振に基き一方的に工場を閉鎖を宣言し、組合側が右工場閉鎖に反対し作業停止の所為に出た場合は労働争議が成立する。
- 参照法条
労働関係調整法(昭和24年法律175号による改正前のもの)40条,労働関係調整法(昭和24年法律175号による改正前のもの)7条,労働関係調整法(昭和24年法律174号による改正前のもの)40条,労働関係調整法(昭和24年法律174号による改正前のもの)4条,労働関係調整法(昭和24年法律174号による改正前のもの)6条,労働関係調整法(昭和24年法律174号による改正前のもの)7条,労働関係調整法(昭和24年法律174号による改正前のもの),労働関係調整法(昭和24年法律174号による改正前のもの)42条,労働関係調整法(昭和24年法律175号による改正前のもの)6条,旧刑訴法360条1項,旧刑訴法291条,旧刑訴法410条18号,労働組合法(昭和24年法律174号による改正前のもの)2条
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