裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
昭和22(れ)126
- 事件名
物価統制令違反
- 裁判年月日
昭和23年7月19日
- 法廷名
最高裁判所大法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
刑集 第2巻8号922頁
- 原審裁判所名
東京高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和22年9月18日
- 判示事項
一 裁判所法施行令第一條の合憲性と基本的人權の尊重
二 裁判所法施行令第一條の合憲性と審級制度
三 裁判所法施行令第二條の法意と同法施行令第一條
四 裁判所法施行令第一條の合憲性と憲法第三二條
- 裁判要旨
一 大審院は廢止せられ、その受理していた一群の訴訟事件は最早大審院において審判を受けることが出來なくなつたから東京高等裁判所において舊大審院と同樣に特に五人の裁判官の構成による合議體をもつて審判すべきものとし又大審院の裁判權と同樣に從來どうり量刑不當及び事實誤認の上告理由をも許すべきことを規定し、更に又實際の運用においても主として從來の大審院判事が引き續きその衝に當ることができるように構想せられたものであつて、立法の上で國民の基本的人權は十分に尊重せられている。從つて、裁判所法施行令第一條が憲法の精神に背くところはない。
二 最高裁判所は所論のように大審院の後身でもなくその承繼者でもなく又兩者の間に同一性を認めることもできない。されば、論旨のごとく大審院に繋屬した事件は、最高裁判所において當然繼承して審判しなければならぬという道理もなく、かかる憲法の法意が存在するとも考えられない。最高裁判所の裁判權については、違憲審査を必要とする刑事、民事、行政事件が終審としてその事物管轄に屬すべきことは、憲法上要請されているところであるが(第八一條)その他の刑事、民事、行政事件の裁判權及び審級制度については、憲法は法律の適當に定めるところに一任したものと解すべきである。そして、最高裁判所は必ずしも常に訴訟の終審たる上告審のみを擔任すべきものとは限らない。外國の事例も示すように時に第一審を掌ることも差支えない。(裁判所法第八條參照)又必ずしも常に最高裁判所のみが終審たる上告審の全部を擔任すべきものとは限らない。他の下級裁判所が同時に上告審の一部を掌ることも差支えない。わが國の過去においても下級裁判所たる控訴院が上告の一部を取扱つた事例もあり、又現在においても下級裁判所たる高等裁判所が地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に對する上告について裁判權を有している(裁判所法第一六條)。その間における法律解釋統一の問題は、他におのずから解釋の方法が幾らも存在し得る。されば、裁判所法施行令第一條が「大審院においてした事件の受理その他の手續は、これを東京高等裁判所において事件の受理その他の手續とみなす」旨を規定したのは、毫も憲法の法意又は裁判所法第七條の規定に抵觸する違法ありとは考えられない。
三 裁判所法第七條は同法施行後新に提起される上告事件(高等裁判所の第二審判決及び地方裁判所の第一審判決に對する上告に限る)に關するものであり、舊事件には適用がないことを明らかにしたのが、裁判所法施行法第二條であつて、舊上告事件は同條及び裁判所法施行令によつて處理される譯である。これらの規定は、法律改廢の際における經過規定として當然定め得べきことを定めたに過ぎないものであつて、所論のように裁判所法第七條の効用を削減し施行法規の使命に副わざるものであると言うことは當を得ない。又裁判所法施行法第二條はいわゆる舊事件の裁判權をいかに配慮せしめるかを一切の政令に委したものと解すべきであるから政令たる裁判所法施行令が舊大審院事件を東京高等裁判所の管轄に屬せしめた結果最高裁判所に配屬せしめられる舊事件が全然なくなつたとしてもそれは論旨のごとく裁判所法施行法第二條の委任の趣旨に背いた違法があるとか又、裁判所法第一七條に適合しないとかの非難を加えることはできない。
四 (裁判所法施行令第一條は國民の既得權益を不當に抑損し憲法第三二條の趣旨に反するものであるとする)論旨は「當然最高裁判所において處理すべき事件を殊更下級裁判所の管轄と定めた」ことは前提として既得權侵害を主張するのであるがかかる前提の採用すべからざることは前述のとおりであるから國民の既得の權利利益を不當に抑損したものでないことはおのずから明白である。いわゆる舊事件の訴訟關係人に對しては裁判所法施行法及び裁判所法施行令によつて裁判所において裁判を受ける權利を明確に認めているのであるから憲法第三二條に違反するという非難も當らない。
- 参照法条
裁判所法施行令1條,憲法11條,憲法第81條,憲法76條1項,憲法32條,裁判所法施行法2條,裁判所法7條