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最高裁判所判例集

事件番号

 昭和22(れ)253

事件名

 殺人、同未遂、住居侵入

裁判年月日

 昭和23年7月14日

法廷名

 最高裁判所大法廷

裁判種別

 判決

結果

 棄却

判例集等巻・号・頁

 刑集 第2巻8号856頁

原審裁判所名

 東京高等裁判所

原審事件番号

原審裁判年月日

 昭和22年10月24日

判示事項

 一 強制による自白の主張と強制事實の有無
二 證據調の限度に關する裁判所の自由裁量と憲法第三七條第一項
三 憲法第三七條第二項前段の法意

裁判要旨

 一 論旨は右各自白は強制によるものであるから證據力はないと主張するけれども本件において右の自白が強制に基くものであるとみるべき何等の證據もない。ただ被告人は原審公判において裁判長から司法警察官の第一訊問調書中Aに對する殺意のくだりを讀み聞かされた際に「その時は警察官に叱られたので左樣に殺すつもりで毆つたと申上げましたが實際は殺す氣がなかつたのであります」と述べまた第一審公判においても同樣右調書について「係官がそうだそうだと申すのでとうとうそうだと申しておいたのでありましたが云々」と述べていることは記録上明らかであるけれども、これだけのことによつて、直ちに右自白が強制に、もとずくものであると云うことのできないのは勿論であるのみならず、この點に關して、原審でも第一審でも、被告人からも、辯護人からも、右訊問の衝にあたつた栃木縣警察署のB警部補を證人として訊問の申請をした事實のないところからみても、被告人の右の供述も強く右訊問の不公正を主張した趣旨ではなく、要するに、公判においてAに對する殺意を否認したのに過ぎないと解するのほかなく、その他事件の全般を通じて右自白が強制にもとずくものであることを思はせる何等の根跡もない本件においては辯護人が右の論旨はとうてい採用することはできない。
二 起訴事實についてどの程度に證據調をするかということは事實審裁判所の裁量に委せられていることであつて原審が所論のようにC及びA並びに栃木縣警察署司法主任B警部補を職權で以て證人として喚問しなかつたとしてもそれはその必要を認めなかつたからに外ならないのであつて、その一事により直ちに原審が日本國憲法第三七條第一項にいう「公平な裁判所」で、なかつたということはできない。裁判所が公平な構成員よりなつて法律の定めた手續きによつて裁判をする以上公平な裁判所の公正な裁判といわなければならぬ。
三 日本國憲法第三七條第二項が「刑事被告人はすべての證人に對し審問する機會を充分に與へられる權利を有する」といつているのは裁判所自身が必要と認めないすべての關係人を論旨のように職權で以て證人として採用し被告人に直接訊問する機會を與へなければならないと云う意味のものとは解せられない。しかして原審公判調書によれば本件においては原審裁判長は證據調終了後被告人に對し更に利益となる證據があれば提出することができる旨を告げたのであるが、被告人及び辯護人においては所論のC及びAは勿論のことB警部補さへも證人として訊問の請求をしなかつたことは明白であるから原審がそれらの者を職權で以つて證人として喚問し被告人に直接訊問の機會を與へなかつたからと云つてこの措置を目して日本國憲法第三七條第二項に違反するものということはできない。

参照法条

 憲法38條1項,憲法38條2項,憲法37條1項,憲法37條2項,刑訴應急措置法10條1項,刑訴應急措置法10條2項

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