裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
昭和23(れ)167
- 事件名
食糧管理法違反
- 裁判年月日
昭和23年7月19日
- 法廷名
最高裁判所大法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
刑集 第2巻8号952頁
- 原審裁判所名
仙台高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和22年12月3日
- 判示事項
一 裁判所法施行前地方裁判所に繋屬中の第二審事件に對する上告審
二 裁判所法第一六條第三號の合憲性と憲法第一三條、第一四條、第三二條及び第七六條第二項
三 相被告人の供述と補強證據
四 憲法第三七條及び刑訴應急措置法第一二條第一項に基く被告人の證人訊問請求權と裁判所の證人喚問義務
- 裁判要旨
一 本件は裁判所構成法による仙臺地方裁判所に第二審事件として繋屬中裁判所法が施行されたので、裁判所法施行法に基く裁判所法施行令第三條第一項、第二項第二號の規定によつて、裁判所法による仙臺地方裁判所がこれを管轄、審理判決したものである。それ故、その上告は裁判所法第一六條第三號にいわゆる地方裁判所の第二審判決に對する上告として、仙臺高等裁判所がこれを管轄すべきものであることは明かである。
二 最高裁判所の裁判權については、違憲審査を必要とする事件がその管轄に屬すべきことは憲法上要請されているところであるが、その他の事件の裁判權については法律の定めるところに一任されたものと解するを相當とする。されば、最高裁判所は必ずしも常に上告審のみを擔當すべきものとは限らない外國の事例も示すように、時に第一審事件を取扱うこともあり得る。又上告審は、必ずしも常に最高裁判所のみによつて擔當さるべきものとも限らない下級裁判所がこれを取扱うこともあり得る。その間における法律解釋統一の問題は、他にいくらも解釋の道が存する。要はかかる審級の問題は法律が諸般の事情を考慮して適當に定むべきものである。されば明治憲法及び、裁判所構成法は廢止せられ、代つて日本國憲法及び裁判所法が新に實施せられるに際し廢止となつた各裁判所において從來受理していた一群の訴訟事件を處理するに當つて、冒頭記載のように高等裁判所が上告審を取扱う規定を設けたと言つても、立法の上で國民の基本的人權は十分に尊重せられておるから憲法第一三條に違反するものではない。又かかる特殊性を有する一群の從前事件は、一團として立法上平等に取扱われており、國民は人種、信條、性別社會的身分又は門地によつて毫も差別待遇をうけていないから、所論のごとく憲法第一四條に違反するものでもない。次に國民は冒頭に述べる順序に從つて純然たる司法裁判所において、裁判を受ける權利が保障されているから、所論のごとく憲法第三二條第七六條第二項に違反するものと言うこともできない。
三 相被告人は、時に被告人と利害關係を異にし、自己の利益を本位として供述する傾向があり、又相被告人は宣誓の上僞證の責任をもつて供述する立場にいないから、被告人の自白がないのに相被告人の供述のみを唯一の證據として斷罪することは、大いに考えなければならない問題であるが、それはさておき被告人の自白が存する場合に補強證據として相被告人の供述を用いることは、差支ないものと言わねばならぬ。
四 刑訴應急措置法第一二條は、證人その他の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類を證據とするには、被告人の請求があつたときは、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に與えることを必要とし、憲法第三七條に基き被告人は、公費で自己のために強制手續によりかかる證人の訊問を請求することができるし、又證人に對して充分に審問する機會を與えられることができ不當に訊問權の行使を制限されることがない譯である。しかし、裁判所は被告人側からかかる證人の訊問請求がない場合においても、義務として現實に訊問の機會を被告人に與えなければ、これらの書類を證據とすることができないものと解すべき理由はどこにも存在しない。憲法の諸規定は、將來の刑事訴訟の手續が一層直接主義に徹せんとする契機を充分に包藏しているが、それがどの程度に具體的に現實化されてゆくかは、社會の實情に即して適當に規制せらるべき立法政策の問題である。今直ちに憲法第三七條を根據として、論旨のごとく第三者の供述を證據とするにはその者を公判において證人として訊問すべきものであり、公判廷以外における聽取書又は供述に代る書面をもつて證人に代えることは絶對に許されないと斷定し去るは、早計に過ぎる。
- 参照法条
裁判所法施行令3條1項,裁判所法施行令3條2項,裁判所法施行令3條,裁判所法16條3號,憲法13條,憲法14條,憲法32條,憲法38條3項,憲法37條,法憲76條2項,刑訴應急措置法10條3項,刑訴應急措置法12條1項