裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
昭和23(れ)450
- 事件名
関税法の罰則等の特例に関する勅令違反
- 裁判年月日
昭和23年8月5日
- 法廷名
最高裁判所第一小法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
刑集 第2巻9号1134頁
- 原審裁判所名
東京高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和23年2月18日
- 判示事項
一 刑訴應急措置法第一二條の法意
二 勾留前より終始一貫してなした自白と憲法第三八條第二項にいわゆる「不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」
三 期待した船舶が偶々來航しなかつたため密輸出が不成功に終つた場合と不能犯
四 關税法の罰則等の特例に關する勅令第一條第二項にいわゆる「輸出しようとした者」の意義
五 召喚状不送達のため證人を喚問しえなかつた場合と憲法第三七條第二項
六 沒收物に對する證據調の要否
- 裁判要旨
一 刑訴應急措置法第一二條は、所定の書類の供述者又は、作成者を訊問する機會を被告人に與へなければ、證據とすることができないとしたに過ぎないものであるから、既にその供述者又は作成者を訊問する機會を被告人に與えた以上その書類を證據とすることを毫も妨ぐるものではない。
二 本件記録によれば被告人は、昭和二二年六月九日判事の勾留訊問を受け、次で同日留せられたが、その勾留訊問の際本件犯行につき、自白を爲し同年八月一六日第一審の第一回公判期日においても同樣自白を爲し、翌年一月一四日の原審第一回公判期日及び同月三〇日の同第二回公判期日においても、いずれも前同樣自白を爲し勾留前より終始一貫して自白を持續し來たものであることを認めることができる。從つて原判決の證據として採用した右最後の自白は憲法第三八條第二項にいわゆる「不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」に該當しないものと認むべきである(昭和二二年(れ)第二七一號同二三年六月三〇日大法廷判決參照)
三 所論朝鮮向け進駐軍用船舶が絶對に存在しないものであることはこれを認むべき證據なく、却つて、原判決舉示の證據によれば、かかる船舶が存在し、被告人等もこれが來航を豫期して本件犯行を爲し、なおも翌日再び遂行すべく待機していたもので、偶々當日は該船舶が判示三崎沖に來航しなかつたに過ぎないことを認め得るから、本件密輸出遂行行爲不成功の原由は單に相對的のものたるに止り、その行爲の性質上結果發生の危險を絶對不能ならしむるものとは言えない。
四 關税法所定の輸出行爲は、海上にあつては目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載するによつて完成するものである。そして同法の罰則等の特例に關する勅令第一條第二項にいわゆる「輸出しようとした者」とは、未だ前記積載行爲の實行には達せざるも、輸出のための單なる準備行爲の範圍を超えて、前記積載行爲に接着近接せる手段行爲の遂行に入つた者を指すものと解するのが相當である、されば本件のごとく密輸出の目的を以て神奈川縣三崎沖において、朝鮮向け船舶に積載すべく、發動機船に物品を積込み横濱市より出港し目的地點に到達した以上未だ本船の積載に着手せざるも、前記輸出しようとした者に該當することは言うまでもない。
五 原審においては所論上告人申請の證人を許容しこれが喚問を爲すべき證據決定を爲したが所論の如く召喚状不送達となつたものであるから證據決定の施行はここにおいて終了したものといわざるを得ない。從つて原審は上告人の證人喚問權を不當に制限又は拒否したものとは言えないから原判決には所論の憲法第三七條第二項違反は存しない。
六 原判決沒收に係る所論謄寫用原紙は原審の公判期日前訴訟關係人より提出した證據物ではないから必ずしも公判廷においてこれを被告人に示してその證據調を爲すを要するものではない。そして原裁判所は公判廷において被告人に對しこれが差押記録を讀み聞かせた上判決理由において所論の如き説示を爲してこれが沒收を言渡したのであるから原判決には適法な證據調手續を踐まなかつたという違法はない。
- 参照法条
刑訴應急措置法12條,憲法38條2項,憲法37條2項,ポツダム宣言の受諾に伴い發する命令に關する件に基く關税法の罰則等の特例に關する勅令1條2項,ポツダム宣言の受諾に伴い發せる命令に關する件に基く關税法の罰則等の特令に關する勅令1條2項,刑訴法338條4項,刑訴法342條,刑訴法341條1項,刑法19條
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