裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
昭和34(あ)1220
- 事件名
所得税法違反
- 裁判年月日
昭和37年6月29日
- 法廷名
最高裁判所第二小法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
集刑 第143号247頁
- 原審裁判所名
福岡高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和34年3月31日
- 判示事項
一 所得税法第二条第一項にいう所得の帰属する「個人」の意義。
二 所得税法第二六条第一項(申告義務の規定)の合憲性。
- 裁判要旨
一 所得税法二条所定の課税対家となつている個人の所得とは、当該個人に帰属する所得を指称するものであることは勿論であるが、その所得の外見上又は法律形式上の帰属者が単なる名義人に過ぎずして、他にその終局的実質的享受者が存在する場合、そのいずれを所得の帰属者として課税すべきであるかについて問題を生ずる。思うに、国家経費の財源である租税は専ら担税能力に即応して負担させることが、税法の根本理念である負担公平の原理に合し且つは社会正義の要請に適うものであると共に、租税徴収を確保し実効あらしめる所以であつて、各種税法はこの原則に基いて組み立てられており、又これを指導理念として解釈運用すべきものと云わねばならない。さすれば、所得の帰属者と目される者が外見上の単なる名義人にしてその経済的利益を実質的、終局的に取得しない場合において、該名義人に課税することは収益のない者に対して不当に租税を負担せしめる反面、実質的の所得者をして不当にその負担を免れしめる不公平な結果を招来するのみならず、租税徴収の実効を確保し得ない結果を来す虞があるから、かかる場合においては所得帰属の外形的名義に拘ることなく、その経済的利益の実質的享受者を以つて所得税法所定の所得の帰属者として租税を負担せしむべきである。これがすなわちいわゆる実質所得者に対する課税(略して実質課税)の原則と称せられるものにして、該原則は吾国の税法上早くから内在する条理として是認されてきた基本的指導理念であると解するのが相当である。
二 所得税法の申告義務の規定が憲法三八条一項に反するものでないことは当裁判所の判例の趣旨(昭和二七年(あ)第八三八号、同三二年二月二〇日大法廷判決、刑集一一巻二号八〇二頁参照)に照らし明らかである。それ故所論違憲の主張は採るを得ない。
- 参照法条
所得税法2条,所得税法3条の2,所得税法26条1項,憲法38条1項
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