裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
昭和23(れ)368
- 事件名
強盗殺人
- 裁判年月日
昭和23年7月10日
- 法廷名
最高裁判所第二小法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
集刑 第3号89頁
- 原審裁判所名
高松高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和23年3月4日
- 判示事項
一 刑訴應急措置法第一二條第一項本文の規定による被告人の訊問請求權と裁判所の告知義務
二 綜合證據による強盜殺人共犯の認定と虚無の證據
三 憲法第三七條第一項の「公平な裁判所の裁判」と共同被告人間の科刑の權衡
四 強盜殺人の共犯者に對する量刑と科刑の權衡
五 共犯者間の犯情の比較と酌量減輕の事由
- 裁判要旨
一 日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律第一二條第一項に依れば「被告人の請求があるときは………訊問する機會を被告人に與へなければこれを證據とすることはできない。」と規定されてあつて、所論の如く裁判所が被告人に對し、被告人に於て鑑定書の作成者に對する訊問權を有することを特に告知するの義務を有するものではない。而してこの解釋は當裁判所の夙に判例とする所である(當裁判所昭和二二年(れ)第一五六號同年一二月二四日第二小法廷判決、昭和二二年(れ)第二七七號昭和二三年四月八日第一小法廷判決參照)。
二 先づ原判決舉示の各證據は綜合認定に依るものである。そこで記録を精査するに原審採證の第一審第一回公判調書に依れば所論の如く被告人及び原審相被告人Aの供述として「氣絶させて物を盜る心算であつた」等殺意を否認するが如き趣旨の供述もあるが、「毆るときには氣絶させる積りであつたが殺してやろうと云う意思もあつた」旨の殺意を肯定した各供述もあるのである。その他原審の認定事實の如く、原審相被告人Aは被害者と顏見知りであるのに覆面もせずにカケヤを携え屋内に侵入したるが如き被害者Bに對しAはカケヤで一撃を與え續いて被告人がその首を絞め付け、尚兩名で交々カケヤと手槌で被害者兩名の頭部顏部を毆打して昏倒させたものであること等、以上の各點は原審採證舉示の第一、二審公判調書に依り之を認むるにであり、その上原判示の如く血痕の附着せるカケヤ及び藁打用手槌充分の各存在並びに被害者等の各高齢(當時C八十年B六十八年)なる點等、以上を即ち綜合すれば本件強盜殺人の犯行は原判決認定の如く被告人等の「殺意相通じ」ての所爲であることは、尤に之を認め得るのであつて從つて所論の如く原審が虚無の證據に依つて此點を斷じたものでないことは寔に明瞭と謂はねばならぬ。
三 日本國憲法第三七條第一項に所謂「公平な裁判所の……裁判」と謂うのは裁判所の組織構成が法律上公平な裁判所と言う趣旨と解すべきことは、既に當裁判所屡次の判例とする所であつて(當裁判所昭和二三年(れ)第五九號同年六月二日大法廷判決、昭和二二年(れ)第一二八號和二三年六月一一日大法廷判決各参照)從つて所論の如き共犯者たる共同被告人に對する裁判所の言渡した刑の比較問題の如きを包含する趣旨のものでないことは明である。
四 強盜殺人罪の法定刑は死刑か無期懲役かの二つである。從つて酌量減輕(刑法第六六條)か又は法定減輕(刑法第三六條、第三七條乃至第四〇條、第四二條第四三條第六二條等)かの事由がない限りは、裁判所は右死刑か無期懲役刑かの一つを選擇量刑するのは外はないのであるそこで共犯者たるAは假りに被告人よりも犯情その他の事由で重く見られるものであつたとしても、裁判所が之に死刑を選擇量刑するのは相當でないと認めるときは、之を無期懲役刑に處する以外に道はないのであり、次に被告人はAよりも假りに犯情その他の事由で輕いと認められても被告人に前示酌量か決定かの減輕事由がない限りは、之又無期懲役刑以外に之より輕い量刑の餘地はないのである。以上の結果は一見公平のように見えるけれども、元來強盜殺人罪の如き犯罪ばその罪質上その法定刑の種類及び刑の幅が少なく狹く定められてある關係からくる結果であつて、罪質上止むなき所なのである。
五 酌量減輕は共犯者間の犯情の比較等に依つて與へらるるものではなく當該被告人の犯罪の情状(例へば被告人の犯罪を犯すに至つた動機、原因、事情或は環境、素行、人と爲り若しくは被害の賠償等の如き)に憫諒すべきものがありや否やに因つて之を與うべきや否やを決せらるる問題なのである。
- 参照法条
刑訴應急措置法12條1項,刑法240條,刑法60條,刑法66條,憲法37條1項
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