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最高裁判所判例集

事件番号

 平成21(ネ)10050

事件名

 著作権侵害差止等請求控訴事件

裁判年月日

 平成22年6月17日

法廷名

 知的財産高等裁判所

裁判種別

結果

判例集等巻・号・頁

原審裁判所名

 東京地方裁判所

原審事件番号

 平成20(ワ)11220

原審裁判年月日

判示事項

裁判要旨

 判決年月日平成22年6月17日担知的財産高等裁判所 第1部


事件番号
平成21年(ネ)10050号部○  映画会社が,古い日本映画のDVD等を安価で販売することを業とする者に対し,著作権侵害であるとして,そのDVD等の販売等の差止め,廃棄及び損害賠償を求め,原判決がこれらをほぼ認めたのに対し,旧著作権法下での映画の著作者につき,映画会社と映画監督のいずれと解するかについては,説も分かれており,個別具体的な事情を考慮することなく一般的に定められるものではなく,本件においては,映画監督が著作者の一人であると認められるものの,控訴人が,本件での各映画の著作者が映画会社であると解して行動したことに過失はなかったので,損害賠償請求は理由がないとして,損害賠償を認めた原判決が一部取り消された事例(関連条文)著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの)3条,6条,22条ノ3,52条

(要旨)
 本件は,映画の著作物の著作権を有すると主張する被控訴人(1審原告。以下「原告」という。)が,控訴人(1審被告。以下「被告」という。)に対し,被告が同映画を複製したDVD商品を海外において作成し,輸入・販売しており,被告の同輸入行為は原告の著作権(複製権)を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項1号)として,著作権法112条1項及び2項に基づき同DVD商品の製造等の差止め及び同商品等の廃棄を求めるとともに,民法709条及び著作権法114条3項に基づき損害賠償金1350万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原審が,被告による著作権侵害行為を認定した上で,差止等の請求を全部認容し,損害賠償請求につき108万円及びその遅延損害金部分を認容したところ,被告が控訴した。
 主たる争点は,旧著作権法下における映画の著作者が,映画会社と映画監督のいずれであるか,あるいはその他にも著作者が存在するかどうかである。
 本判決は,次のとおり,旧著作権法下での映画の著作者につき,一般的に映画監督であるということはできず,事案しだいであって,映画会社が著作者となる場合もあり得るとしながら,本件での各映画については,監督を務めた者が著作者の一人であり,その後当該監督の著作権は映画会社に譲渡されたと認められ,その著作権の存続期間は満了していないから,原告の著作権に基づく差止等の請求は理由があるが,被告が,本件での各映画の著作者につき映画会社であると解し,既にその著作権の存続期間が満了したものと考えた点には過失がないので,原告の損害賠償請求は理由がないとして,原判決のうち,損害賠償を認めた部分を取り消した。

 「・・・本件各監督は,いずれも,本件各映画において,俳優として関与してはおらず,本件各映画において,本件各監督自身の演技などを通して,本件各監督の思想・感情が顕著に表れているものではない。また,本件各監督は,いずれも,本件各映画において,原作,制作,演出等を担当していたものでもなく,A以外のB及びCは,いずれも脚本を担当していない。
 そうであってみれば,本件は,チャップリンに関する最高裁平成20年(受)第889号平成21年10月8日第一小法廷判決・判例時報2064号120頁とは,事案を大きく異にし,本件各監督が,本件各映画の発案から完成に至るまでの制作活動のすべて又は大半を行ったものとは到底認められず,本件各監督は,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者の一人にすぎないものと認められ,また,その寄与の程度については,格別の立証がなく,そのおおよその程度についても認めるに足りる証拠はない。」
 「ところで,旧著作権法6条は,著作物の存続期間を定めた規定であるものと解されるが,同条につき,さらに,法人等の団体が著作者となり得ることを前提とした規定であると解することも可能である。・・・
 旧著作権法の下において,実際に創作活動をした自然人ではなく,団体が著作者となる場合も一応あり得たものというべきである。
 特に,映画制作においては,非常に多くの者が関与し,その外延が不明なことが通常であり,それら多数の者の複雑な共同作業によって映画が完成するものであるが,その関与者の関与の時期,程度,態様等も,映画によって千差万別であって,このような性質を有する映画については,映画会社がその著作者となり,原始的にその著作権を取得したものと観念するのが,各関与者の意図に合致する場合もあったものと想像され,新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を備え,映画会社が原始的に著作者となるべきものと認める映画も相当数あったのではないかと思われる。」
 「・・・旧著作権法下において,本件各映画が著作物として保護を受けることは明らかであるところ,その著作者としては,原告ないし新東宝と本件各監督を含む多数の自然人とのいずれと認めるのが合理的であるかについては,新著作権法15条1項の要件が証拠不十分のため,認められないとすれば,本件各映画の著作権は,本件各監督を含む多数の自然人に発生したものといわざるを得ない。」
 「そして,本件各監督を含む多数の自然人が著作者であると認めた場合には,いったん本件各監督等が各映画の著作権を取得しながら,その後,映画公開までの間に,原告又は新東宝に同著作権を黙示的に譲渡したと認められるかが問題となるところ,・・・・映画製作会社は映画監督につき著作者の一人として処遇していることが窺われる。
 以上のように考えると,映画監督に限っては,映画公開までの間に原告又は新東宝に対し監督を務めることとなった法律関係に基づいて,自己に生じた著作権を譲渡したものと認定することができる。
 これに対し,本件各監督以外の多数の自然人については,原告の主張自体からして,具体的にその自然人がだれであり,いかなる業務をいかなる法的な地位に基づいて行ったかなどについては,明らかにされておらず,しかも,それがいかなる法律関係に基づいて譲渡されたというのか,その契約類型もその内容も特定されておらず,ましてや立証もされていない。したがって,本件各監督以外の多数の自然人に発生した著作権が原告又は新東宝に譲渡されたとの点については,主張自体失当であり(要件事実論としていえば,いかなる自然人とのいかなる契約に基づく譲渡なのか主張がない。),また,証拠上も証明不十分であるとしかいいようがない。」
 「(2) 旧著作権法における映画の著作物の著作者については,原則として自然人が著作者になるのか,例外なく自然人しか著作者になり得ないのか,映画を制作した法人が著作者になり得るのか,どのような要件があれば法人も著作者になり得るのかをめぐっては,旧著作権法時代のみならず,現在でも学説が分かれており,これについて適切な判例や指導的な裁判例もない状況であることは,証拠(甲4,86ないし89,乙1ないし7等)に徴するまでもなく,当裁判所に顕著である。・・・(中略)
 そうであるとすれば,本件において,何人が著作者であるか,それによって存続期間の満了時期が異なることを考えれば,結果的に著作者の判定を異にし,存続期間の満了時期に差異が生じたとしても,被告の過失を肯定し,損害賠償責任を問うべきではない。・・・(中略)
 したがって,原告の著作権侵害に基づく損害賠償の請求は理由がない。」

参照法条

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