裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
平成25(行ケ)10338
- 事件名
審決取消請求事件
- 裁判年月日
平成26年11月13日
- 法廷名
知的財産高等裁判所
- 裁判種別
- 結果
- 判例集等巻・号・頁
- 原審裁判所名
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
- 判示事項
- 裁判要旨
判決年月日 平成26年11月13日 担 知的財産高等裁判所 第1部
事件番号 平成 25 年(行ケ)第 10338 号 当
部
○ 「卓上切断機」という名称の特許につき,審決の補正に関する判断には誤りはないが,審決の
相違点に関する判断には誤りがあるとして,審決が取り消された事例
(関連条文) 特許法29条2項
(関連する権利番号等) 無効2013-800050号,特許第4759276号,特
願2005-12609号,特開2006-198868号公報,カナダ国特許出願公開
第2372451号,米国特許出願公開第2004-0055436号,実願昭59-1
10990号,特開平8-252801号公報
1 本件は,発明の名称を「卓上切断機」とする特許(特許第4759276号)の無
効審判不成立審決(無効2013-800050号事件)に対する審決取消訴訟である。
2 判決は,要旨次のとおり判示して,①「前記第1のパイプと接触する前記摺動部材
の長さ方向の全領域を第1の領域,前記第2のパイプと接触する前記摺動部材の長さ方向
の全領域を第2の領域としたときに,前記第1の領域は前記第2の領域より短く形成され,
前記係合部材及び前記第1の領域は,前記仮想平面の方向において前記第2のパイプと接
触する前記摺動部材の前記支持部材側の一端と前記支持部材と反対側の他端との間に位置
し,且つ前記係合部材は,前記第1のパイプと接触する前記摺動部材の一方の端部に近接
する位置で前記第1のパイプと係合するように設けることにより」(以下「本件補正事項」
という。)とする補正を適法であるとした審決の判断に誤りはないが,②甲8文献(実願
昭59-110990号のマイクロフィルム)に記載された発明(甲8発明)を甲6文献
(カナダ国特許出願公開第2372451号明細書)に記載された発明(甲6発明)に適
用しても,当業者が相違点1に係る構成とすることを容易に想到することができないとし
た審決の判断は誤りであり,取り消されるべきものとした。
(1) 本件当初明細書においては,
「第2ネジ34」を係合部材,「パイプ50」を第1の
パイプ,「パイプ51」を第2のパイプ,「すべり軸受リング35」及び「ボールベアリン
グ36」を摺動部材として抽象化して表現すると本件補正事項と同一の構成となる。
そこで,このような抽象化が新たな技術的事項を導入するものではないといえるかにつ
いて検討すると,まず,
「第2ネジ34」を係合部材,「パイプ50」を第1のパイプ,
「パ
イプ51」を第2のパイプと表現することについては,新たな技術的事項を導入するもの
ではない。また,「ボールベアリング36」の技術的意義についてみると,①パイプの摺動
を滑らかにし,②貫通孔の半径方向におけるパイプの移動を規制するほか,③切断部を含
めた部品等の荷重を支えるものであり,これらの要件を満たすものであれば,ボールベア
リングに限定されない。一方,
「すべり軸受リング35」も,①摺動を可能にし,②パイプ
の半径方向の移動を不能にするほか,③切断部を含めた部品等の荷重を支えるものである。
そうすると,本件発明1における両者の技術的意義は基本的に同一であって,パイプの
摺動を可能にして支持する上下の部材について,様々な部材の中からどのような軸受(ベ
アリング)等を用い,上下の部材にどのように荷重を配分して支持するかは当業者が適宜
なし得る設計的事項であって,このような摺動を可能にする部材を「摺動部材」と抽象化
して表現したとしても,新たな技術的事項を導入するものではない。そして,当業者であ
れば,摺動可能な卓上切断機については摺動支持部の摺動方向の長さが短い方が好ましい
という課題があることは認識しているから,本件当初明細書の記載をみれば,第2の領域
の長さを所与のものとした場合には第1の領域と係合部材を第2の領域の範囲内に収める
ことで摺動支持部の長さが相対的に短くなっていることを認識し,理解するものである。
以上によれば,前記抽象化は新たな技術的事項を導入するものではなく,本件当初明細
書には,本件補正事項が実質的に記載されていたといえる。
(2) 審決は,甲8発明の係合部材を甲6発明に適用するに当たり,押圧方向を甲6発明
の2本のパイプの軸心を結ぶ平面上とすることは,当業者にとって容易に想到し得たもの
ではない旨判断した。
しかし,甲8文献の第1図及び第3図はいずれも側面図ではあるものの,第1図の「ノ
ブ15」は「スライドシャフト11,12」
(パイプ)に対して垂直方向の上方から押圧す
る形で図示されており,正面図を作成したときに「スライドシャフト11」と「スライド
シャフト12」が左右にずれることを窺わせるような記載は一切ない。また,卓上切断機
においては,2本のパイプの軸心を結ぶ平面が鉛直であるものが数多く存在し,甲6発明
も同様である。これらの事情によれば,甲8発明に接した当業者であれば,
「ノブ15」は,
「スライドシャフト11」と「スライドシャフト12」の軸心を結ぶ仮想平面上を通って
おり,上方から「スライドシャフト11」を押圧すると理解するものである。
そして,甲6発明も甲8発明も,揺動軸を支点として揺動可能な切断部を有し,かつ,
上下に平行に配置された2本のパイプを用いることで切断部を摺動可能とする卓上切断機
に関するものであって,いずれも切断幅を増大して幅広の木材に対応するものである。ま
た,甲8発明で開示されている技術は,摺動する切断部を固定することを可能にするもの
であるところ,切断部が摺動する構造において切断部を摺動しないように固定することは,
切断作業の態様を増やすという利点があること(摺動せずに切断部の上下の揺動のみで切
断することができる。,搬送時などに切断部が意図せず動くことを防止する必要があるこ
)
となどからすると,甲6発明を含めた切断部が摺動する構造を有する卓上切断機において,
切断部を固定することは,共通の内在する課題であると認められる。
そうすると,甲6発明に甲8発明を適用する動機付けがあるというべきであって,甲6
発明及び甲8発明に接した当業者であれば,甲8発明を甲6発明に適用して,相違点1に
係る構成とすることを容易に想到することができると認められる。
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